第4話 桜が咲くまでに

 結局、俺とマサキは付き合うことになった。

 と言っても、平日は仕事で、相変わらず夜になるとサイト上で会話する関係だったが。

 今日も1話、マサキの小説が更新されていた。毎晩寝る前に1話書いて、翌日にチェックしてから上げるらしい。

 俺は時々催促されるが、今はヨムほうでいっぱいいっぱいだ。

 毎日毎日増えていく、サイト上の小説は夢や希望に満ち溢れ、俺をとらえて離さない。その中でもひときわ輝くマサキの小説がいつか完結するように、いや、いつまでも完結しないで続くように。相反する願いを胸に、今日も小説を読む。



 休日になると、マサキは俺の家に遊びに来る。

 天気が良ければ2人で縁側に座って、あったかいコーヒーを飲みながら桜の木を眺めて話す。

「ほら、また狂い咲きの桜!ゆうさん、なにか埋めた?」

「ああ、昨日埋めたよ。見てみる?」


 桜の木の根元を掘ってみたけれど、何も出てこなかった。

 マサキは嬉しそうに目を細くして、穴に土をかぶせていた。

「きっと、あちらの世界に行ったのね」

「俺が嘘を言って、本当は埋めてないのかもよ?」

「ふふふ。そうかもね」

「寒いから、家に入ろう!」

「そうね」


 泥だらけの彼女の手を取って、家の中に入った。

 次に桜の花が咲くまでに、きっと言おう。桜が咲くのを、今度は一緒に待ってもらえませんかって。この縁側で、俺の隣で、ずっと。

 次の桜が咲いたら、宝物を埋めよう。君と一緒に。来年も、その次も、ずっと。





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桜が咲くまでに 安佐ゆう @you345

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