第3話 外見と中身

 クリスマスまでまだ1か月もあるというのに、ショッピングモールはどこを見ても赤と緑で彩られていた。

 待ち合わせは本屋の前の休憩所。目印は互いに、俺もマサキも大好きな、カクヨムから最近書籍化された本を持って。


 時間よりかなり早く着いて、行き交う人々を眺めながら、ふと自分の格好を振り返る。着古したジーンズに白いシャツ、グレーのジャケットは少しだけ奮発して今日の為に買ったものだが……

「冴えねえ。会社帰りならスーツで、何も考えなくていいのにな」

 思わずつぶやいた。

 背だけはひょろっと高いが、なんの特徴もない地味な顔、髪型だって仕事に支障が出ないように地味に、目立たず。

 手に持った本だけがピカピカの原色だ。

 声、かけてもらえなかったらどうしよう。待ち合わせの時間が近付くにつれて、不安がこみあげてくる。



 ぼんやり足元を見ていた視線をふと上げると、本屋の入り口付近に背の高い女の子が立っていた。

 白い模様編みのセーターにグレーっぽいチェックのスカート、黒タイツをはいた足がすらっと長くて、赤いパンプスが映えている。一生懸命おしゃれしてきたのだろう、着慣れない感が溢れている。顔は……普通だな。俺が言うのも何だが。


 手には俺と同じ本を持って、不安そうにきょろきょろと辺りを見回している。

 自分で勝手に想像していた、元気な派手な女の子とは、ちょっと違う。

 立ち上がり、軽く本を持ち上げて振ると、その子と目が合った。

 すると細い目がさらに細くなり、彼女は顔全体で笑った。ブサかわいいキツネみたいな女の子だった。


「お待たせしました。Youさんですか?」

「あ、はい。えっと、マサキ?」

「そうです。初めまして。よろしくお願いします」

「あ……じゃあ、取りあえずカフェに行く?」



 サイトとは違う、女の子らしい大人しい喋り方にびっくりした。

「それはだって、ネットは怖いから」

 マサキという男みたいな名前も、乱暴な喋り方も、彼女なりの鎧なのだろう。

「それより、見せてくれる?異世界からの贈り物」

「ふふ、本物かどうか、分かったもんじゃないよ?」

「いいのよ、ずっと気になってたの」


 コインとビー玉をテーブルの上にだすと、彼女は恐る恐る手に取って、透かしてみたり、目に近付けたり遠ざけたりして、静かにはしゃいでいた。

 喋り方は違うけど、やっぱりマサキだった。


「Youさんって、思った通りの人ですね。優しくて、面白い。会えてよかった!」

 甥っ子のプレゼントを選びながら、嬉しそうにマサキが笑う。

 俺もそう思う。会えてよかった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る