エピローグ

出産予定日まで三日を切った頃、陣痛があり間隔が短くなってきたのでマネージャーに電話をした。出産間近の時には近辺で待機する事になっている彼は、連絡後五分で車をまわし私は座り心地の良いシートにゆったりと身を沈めた。


出産の時はいつもプレゼントの箱を開ける時のようにわくわくする。

子供は出生前診断から判定されている、五体満足、健康優良児、加えて人気の女の子。無事に産まれてくればその瞬間、一千万円が確実なものとなる。

私は一千万払う価値のある、必要とされる人間なんだ。幸福すぎて背中がぞくぞくした。


産み落としたら何をしようか。会社には引退を伝えてあるが、しばらくは代理出産のカリスマとして取材がひっきりなしだろう。エステに行かなきゃ。ヘアカットも。テレビ映えするブランドの服も買いたい。取材が落ち着いたら長期の海外旅行をするか。合コンに参加して恋人を探すのも悪くない。


車は十分も立たないうちに病院の玄関に着いた。すっかり顔馴染みとなっている医師や看護師達が横にずらりと並んで出迎える。私は満足気に微笑み、お腹を軽く叩いた。


「さあ、しっかり産まれてきてよ。私も頑張るから。__あんたを必要としてくれる人達が、いるんだからね」


                                      了

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テンミリオンベイビー 浅野新 @a_rata

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