めりーばっどな2000文字集

砂の さと葉

ブラウン管越しに、殺人鬼に出会う話


※ちょこっと猟奇注意。

頭痛くなってきたら、すぐブラウザバックお願いします。















ブラウン管越しに見える鮮血が、テレビの画面いっぱいに飛び散る。

翻る鋭いナイフで踊るのは愉悦の殺人鬼は、災厄でしかないのに、

華の様に艶やかだ。


人生を清く正しく生きていた善良な市民達の、

唯一の過ちは『殺人鬼に出会った』

それだけの不運。

その理不尽な運命のせいで、

ナイフで体内を捌かれ、血という輝きを惜しみなく流していく。


体内から流れた赤色の輝きが、ありありと、生き生きと、殺人鬼の眼に染まる。

その扇情的で、恍惚な笑みに、吐き気と眩暈を覚える。

それなのに、その背徳感と、殺人鬼の命を奪う様は視聴者を魅了させる。


一方、生命を流された市民達は、枯れた花だ。

食べられても動いている魚の様に小さく痙攣していて、口を広げている。

きっと食べたのは、殺人鬼――と、

その殺人鬼を見た視聴者もそれにあたるのだろうか。


愉悦を感じた罪に、胸部と頭部が熱くなって、痛くなってきた。


理性が赤信号を点滅させてくる。


でも、身体が動かない。

どうしても、眼を逸らさなければ、これは、映像でしかないのに。

身体が麻痺している、何かに洗脳されていく様な感覚。

このまま従ってしまえば、どれだけ心地の良い眠りにつけるだろうか。思考は停止すればいい。少しでも抗おうとすれば刺激的な頭痛に支配される。

落ちる。

沈んでいく。

息が、

出来ない。


目蓋が落ちて、身体が落ちていく。


しかし、地面に落ちる寸前、

   大きな腕に抱え込まれる。


瞬間、体内に酸素が入り込んで、純粋な熱さが込み上げてくる。

それが身体を駆け巡り、試しに少しだけ身じろぎをした。

身じろぎが出来る。動ける。


自分の目蓋を、開こうとすると、白い手がそれを遮る。


「まだ置いてかないで、」


 清涼で、洗練された優しい声。

命令ではなく、母の窘めの様だった。

だから、母の揺り籠に甘える少年の様に、その言葉に従った。


テレビ越しからは、まだ刃物の音と、断絶魔が聞こえてくる。

それに耳を塞いでいると、頭を優しく撫でられる心地が良い。


このまま眠ってしまおうか、

と思ったが、気付け。




彼女は、誰だ。




 母の様だと思って純真に安心していた自分は、馬鹿だ。

分からない。

何故、こんなテレビが付いていた?

何故、此処に謎の美女がいる。


これは誰だ。

何の為に、何が起こっている。

此処から逃げなければならないのか。



けれど、彼女の手は、どこまでも温かい。


混乱する。信じていいのか、離れるべきか。


とりあえず、このテレビが終わるまでは

――今、自分の脚に生暖かい液体が付く、

 何がついたかは分からない。


けれど、

 粘着性のある、

    人肌程の液体。





自分の脚の向かいにあるのは何だ。





テレビ。





……つまり、これは、

いや、そんな訳ない。


しかし、事実だ。

身体が凍って、液体の温かみが際立って気持ち悪い。




「……全部、貴方の為だから」

優しく撫でられた頭に、

はらはらと彼女の涙が落とされる。


訳が分からない。

けれど、泣いてる彼女を責める事はできない。



けれど、全部、自分の為とは。



何かは分からない。

けれど、感情的になっている人見ると冷静になれる。




客観的に、乱雑に整理する。


テレビ、生命、殺人、母、自分、飛び出してきた血。


血が飛んでくるなら、

この殺人事件は現実で起こっていること。

考えたくはないけれど、

それで、それが自分と繋がっている。




開けてはいけない眼。

まるで、鶴の恩返しだ。

あの場合、恩を返す方法が、特殊な場合だから見てはいけなかった。

母は殺人鬼を悲しんでいる。

けれど、止めようとしない。

そして、見てはいけない殺人鬼。


じゃあこの人が…?

でも、今さっき、血が足に付いたから違うはず。

超常現象ばかり起こっていて、考えることさえ無駄だ。



「なんで、見てはいけないの」

自分は、痺れを切らして問うた



「……っ、貴方は悪くない」


「それだけだと、分からない。

何が起こっているんだ」












「――貴方が、














      ××になっただけ」

頭を酷くぶつけられた気分だ。


彼女が言った言葉が、衝撃的な言葉だったのは分かる。

 自分自身も、その言葉に動揺している。




それなのに、その言葉が何故か理解できない。

何故だ。


その、××は、知らない単語ではないはずだ。


でも、全ての要因は自分。


頭が割れそうな赤く繚乱な猟奇を引き起こしているのは、自分。

動揺し過ぎて、

信じられなくて、

乾いた笑いが口元から零れ落ちていく。


「はは……。

なにか、分からないけれど、分からない、ああ、分からない。


だから、終わりにしてくれないか、」

 僕がそういうと、そっと覆われていた白い手が落とされた。



すると、僕の身体は、










真赤に染まっていて、







思考まで真赤に染まる。






「何、これ、」

分からない、

狂気に満ちているのに生命力に満ちた自分の姿がそこにあって。



今思うと、足も透けていなくて、

完全な肉体になっている。ああ、あれ。思い出した。

けれど、え、なんで、僕は、生きてるんだ。


僕が混乱していると、

テレビ画面越しで手を振る人がいる。



愛おしそうな笑みを僕に向ける。





父だった。


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