外道の者

白川津 中々

第1話

 誰もいないばすの教室に居たのは特殊学級の女生徒だった。

 名は確か針沢と言ったか。虚空を見据える目と薄い頭髪が気になる。嫌悪と述べるには些か醜悪さが足りず、個性と述べるには過ぎた特徴である。

 針沢は俺を見るや否や部屋の隅に走り固まった。「うー」とか「あー」とか唸りながら、鼠のように丸まっている様は加虐的な欲望を発芽させるに十分な肥料であるが、社会的な地位と天秤にかければ、僅かだか、安穏とした教師としての人生に皿が傾く。手に刺さる爪に剥がれた肌の一部が入り込みどうにも不愉快だ。俺は今耐えている。拳を握り、針沢の悲鳴を考えないようにしている。


「戻れよ。もう放課後だ。お母さんも心配しているだろう」


 針沢の震えが「お母さん」という単語の後より強くなった。嫌な感じだ。俺は彼女に近寄り、努めて優しく声をかけた。


「どうしたんだ。お母さんが怖いのか?」


 手を差し伸べそっと頭を撫でてやる。髪は細くゴワついていて不潔だった。洗っていない。いや、洗われていないのだろう。見れば服も汚れているし肌も黒い。体臭も酷いものだ。虐待だな。まったく面倒だ。面倒だが、なるほど。親は外道か。


「大丈夫だよ」


 俺はそう言って聞かせて、汚物のような針沢を抱きしめた。彼女はやはり震えていて身体を強張らせている。当然だ。白痴にペテンなど伝わるものか。だが、それは確認せねばならぬ重大な要項だ。彼女が少しでも理智を持っているのであれば俺はすんなりと手を引くつもりでいたのだ。そうだ。俺は針沢が木偶でなければ、こんな邪を抱く事はなかったのだ。


「大丈夫だよ」


 再びそう口にして、彼女の下着の中に手を滑らす。尻の肉は厚く弾み、薄く生えた淫毛の触り心地は、彼女の不潔を忘れさせるほどの極上であった。


「大丈夫だよ」


 そうだ。きっと大丈夫だ。バレやしない。


「うぅ……あぁ!」


 悲鳴だか嬌声だか分からない声を上げた。気分がいい。ますますその気になった俺は針沢の乳房を弄び乳頭を味わった。舌の上では彼女の汗と垢の味が広がっていく。なんとも甘美で、退廃的な味だろうか。人間の老廃物がこうまで美味いとは知らなかった。俺は針沢の身体を求め、ナメクジのように己が舌を這わした。

 いつのに間にか針沢は蜜を滴らせ間抜けな声を上げていた。誰もいない教室に、親に見放された一匹の女が熱を帯びている。

 息は上がり、肌が重なり、俺は……

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外道の者 白川津 中々 @taka1212384

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