遊戯神通〜遊びが人と人とをつなげていく〜
- ★★★ Excellent!!!
将棋といえば、様々なメディアや創作で取り上げられている題材ではないでしょうか。
千差万別のキャラクターや物語がすでに発表されている中、この物語もまた将棋が題材です。
まずキャラクターが素敵です。
大阪から東京に引っ越してきたばかりの主人公の女の子、朝井祈理。
大阪=即関西弁、とならずに、バレエを習っていたり、普段は敬語だったりと個性的な主人公。
彼女が憧れ将棋を教わる浅倉晶もまた、一見すると少年のような少女。
もしかすると、この物語は「自分を装う」ことを誰もがしているのかもしれません。
一人一人のキャラクターがとても丁寧に描かれている印象です。
そんなキャラクターたちを結び合わせるのが将棋。
面白いことに、将棋だけにスポットライトが当たっているのではありません。
物語は外へ外へと広がっていきます。
クラスの男子、主人公の家族、学校の先生。
そういった脇役が脇役で終わらず、物語が進むにつれて皆がかかわってきます。
将棋が人と人とを結び合わせていく、と感じるストーリー展開でした。
そして文章。丁寧な女の子の一人称で進んで行きますが、読んでいて落ち着くというかホッとします。
どぎつい表現や過激な言葉がないのがいいですよね。
これぞ児童文学、という感じです。
しかしだからと言って堅苦しくて難しい内容が延々と続くのではなく、ユーモアのある表現もあります。
例えば第一話で主人公が自分の過去を振り返って「タレの香りの中ですくすくと育ったわたしは、小学校に上がるころにはお店を手伝い始めます」なんてクスッと笑える言い回しもあったり。
王道の将棋をメインに据えた少女の成長の物語、おすすめです。