epilogue 4

       ◇◇◇◇


 ユリウス・オブ・ルクトニアの特徴の一つに、「せっかちで、あきっぽい」ということが上げられる。


 在位期間でも、用兵の仕方においても、統治方法までも、彼は時間に追われるように全てを行い、それが順調に動き出した途端、興味を無くすのか、あっさりと手放してしまう。


 ルクトニア領主の地位についても同様だ。

 彼は一人息子のアルフレッドが二○才となり、妻を迎えた翌年にさっさと領主位を息子に譲って引退をしてしまった。その年四二歳。彼はその後、アレクシアと忠臣ウィリアムを連れて国内を『視察』という名の『旅』に出てしまう。


 彼の後を継いだアルフレッドは、ユリウスが打ち立てた政策を着実に実行。そして、安定させた。その後の王都を凌ぐルクトニア領の繁栄ぶりは、アルフレッドがこの時地盤作りをしたからに他ならない。


 ユリウスに比べ、どうしても派手さの無いアルフレッドであるが、彼の逸話として後世にまで残るのは、『外伝』に記されたような「ユリウス呪殺事件」の解決だ。


 ユリウスの急進的な施策についていけず、古い思考の貴族の中には取り残されて没落するものもいた。そして、それに変わるように台頭したのが貿易商たちだ。

 その、『変化』に対応しきれなかった貴族たちが徒党を組み、ユリウスを呪殺しようと計画。生贄は実際に捧げられたようだが効力を発揮することなく、結果、アルフレッドの侍従団披露会において、強行手段に訴えようとした。


 それを、事前に察知し、首謀者を捕らえたのがアルフレッドと、その腹心カラム・マンセルだ。


 当時ユリウスが気に入っていた『ルクトニアのバラ楽団』のヴァイオリニストだったという異色の経歴の彼は、アルフレッドに気に入られ、侍従団に抜擢。その後、補佐官のひとりとしてルクトニア領史に名を残す。


 さて。

そのアルフレッドが妻に選んだのは、王家に縁付く姫でもなく、領地豊かな伯爵の娘でもなかった。


 ウィリアム・スターライン卿の一人娘であるオリビアだ。

 アルフレッドほどの血筋と容姿であれば様々な縁談や相手もいたであろうが、妻に選んだのは幼馴染の娘である。そして、ユリウスに倣い、側室も愛妾も持たなかった。


 十七歳でアルフレッドのもとに嫁いだオリビアだが。

 その父、ウィリアムは、ユリウスの覚えが目出度く、領地と爵位を拝受しているものの、そもそも平民の出自だ。オリビアも母が伯爵家の出だとしても、その地位は低い。


 アルフレッドはだが、その彼女を妻として迎えた。

 うがった見方をすれば、当時の王であるエドワードに対し、『自分は「国王」に興味はない。妻も権力などない身分の低い娘を娶った』とアピールするためであったともいえる。アルフレッドはルクトニアには強い執着を示しているが、父ユリウスが王であったにも関わらず、『国王』へのあこがれは一切なかったようだ。


 ただ。

 ユリウスもそうだが、アルフレッド自身も、婚姻を政策や経済とは別に考えている節があり、そんな彼が王家のアピールの為だけに誰かと結婚するとは考えにくい。

 単純に、オリビアに惚れたから、妻に選んだのだろう。


 さて。

 そのアルフレッドとオリビアは、5人の子をもうけている。

 長男はルクトニア領を継ぎ、次男はスターライン家に養子に入ってウィリアムの跡を継ぐ。三男はアレクシアの実家であり、取り潰しにあったヴォルフヤークト家を再興させ、ルクトニア領に居を構えた。娘のうち一人は海を渡って王族に嫁ぎ、もう一人は王都で学者と結婚したようだ。


 こののち、代々ルクトニア領主を支えることになるスターライン家とヴォルフヤークト家はこの時代にしっかりと築き上げられたものだといえる。


 ユリウスが興し、アルフレッドが安定させたルクトニア領は、三代目のリチャードで盤石の体制を作り上げることになる。


 まさに「三」で完結、そして成就を見せたルクトニア領は、現在もおだやかな海港都市として栄えている。



                         (完)


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ルクトニア領千紫万紅輪舞曲 武州青嵐(さくら青嵐) @h94095

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