epilogue 3

「あ」

 しばらく後、アルは小さく呟いた。


 それからゆっくりと私に瞳を戻す。

 目が合った途端、アルの目の端が薄く赤らんだ。


「えー……」

 困惑したようにそう言い、私は「なによ」とその顔に言葉を投げつけた。思いつかないなら仕方ないと思ったけど、ちゃんと自覚があるんじゃないか。


「ちゃんと言って。うちのお父様は毎日お母様に言ってる。毎朝言ってる」

「うちの父上は絶対そんなの言わない」


「アルが知らないだけで、ユリウス様はちゃんとアレクシア様に言ってる。毎日ちゃんと言ってる」

「えー……。でもそれ、普通じゃねえし」


「うちはそれが普通だった」

 アルはもう一度、「えー……」と言った後、私と視線を合わせた。

 穏やかで、薄いランタンの明かりに照らされたアルの頬は、照れたせいでやっぱり赤い。


「もう、面倒くさいな」

 アルはそう言うと、私の耳元に口を寄せた。


「大好きだ。愛してる」

 アルの言葉は私の鼓膜を撫で、私は微かに震えて顔を捩った。その首筋に、アルが口付けをする。


「愛してる」


 その夜。

 アルは何度も何度も私にそう言った。彼の口唇が私の体に触れるたび、そう囁く。今まで言わなかった分を埋め合わせるように彼はそう言い、私はアルの腕の中で、それを聞いた。

 アルが「愛してる」と言うたびに、私は幸せを感じた。

 ああ、やっぱり、と。

 運命を、感じた。




「ずっと一緒に居る。隣にいる。生まれてからずっといるように、これからも隣にいる」

 眠りに落ちる前、私はアルにそう言った。


「当たり前だろ」

 アルは私を抱きしめる。腰に腕を回され、ぴたりとその胸に頬を押し付けたら、とくとくと穏やかなアルの心音が聞こえた。


「お前はおれの運命の女なんだから」

 私の髪を撫で、くすりと笑った。「誰の隣にも行くな」。そんなアルの言葉に、私は頷いて目を閉じる。


 ゆるやかなアルの心音を聞きながら、ゆっくりと眠りに落ちた。

 彼との未来を夢見ながら。

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