もしも舌切り雀の婆さんがカーネギーの「道は開ける」を読んだなら

達見ゆう

もしも舌切り雀の婆さんがカーネギーの「道は開ける」を読んだなら

 昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでおりました。おじいさんは雀を可愛がり、おばあさんはそれを快く思いませんでした。


(中略)


 おじいさんの財宝入りのつづらを見たおばあさんは雀の宿へ行き、強引に大きなつづらを取って、必死の思いで抱えて帰り、開けてみました。

 するとどうでしょう、中からは魑魅魍魎、マムシ、ムカデなどか沢山出てきました。

 当然ながら腰を抜かすおばあさん。

 しかし、このおばあさんは欲深でしたが物欲だけではなく、知識欲も深かったためカーネギーやドラッカーも読破しておりました。


 しばらくして、おじいさんの家には「大つづら本舗~BIG box company~」の看板がかかりました。

 魑魅魍魎が出るため「簡単に怪奇体験ができる」とキャッチコピーを付けてレンタルを開始したところ、夏は肝試しに使うのはもちろん、それ以外の季節でも悪さばかりする子供へのしつけにぴったりとのことで、今やレンタルまで数ヶ月待ちという人気です。

 さらにつづらからはマムシやムカデが沢山出てくるので、マムシ酒とムカデ酒を作って売り出しました。

 マムシ酒の効能は知られていますが、ムカデ酒も火傷に効く立派な薬なのです。箱から次々と出てくるので材料には困らず、品質も良いとのことでよく売れました。つづらのレンタル中はこれらの薬用酒の売上でカバーしているそうです。

「つづらは一つしかないから、お客さんが魑魅魍魎に気を取られている隙に一緒に出てくるマムシとムカデを回収するんだよ。最近はコツをつかんで素早くできるようになった。」とおばあさんは笑います。


 おばあさんは本誌のインタビューに対して、こう答えています。

「ええ、最初は驚いて腰を抜かしましたよ。でもね、あるものをどうやって活かすか、この魑魅魍魎やマムシをいかに有効活用するか、どの顧客に需要があるかをとっさに考えたのです。あんなことをしたのに、ビジネスチャンスをくれた寛大な雀に感謝してますよ。今ではおじいさんの財宝より稼いでますね。」


 遠く離れた雀の宿。「違う、そうじゃない!」という顔をした雀が複雑そうにインタビュー記事を読んでいたのでした。


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