国際情勢と全く関係のない架空のヤクザの話

白居ミク

国際情勢と全く関係のない架空のヤクザの話


 とある小さな国は、まだ法律が行き届いておらず、いくつもの大きなヤクザの組があった。


西には「中本組」と「露亜組」。

この二つは超巨大組織で、隣り合ってシマを張っていたが、互いに弱いものを狙うので特に出入り(=戦争)はなかった。


東には「大米組」。

ここは何年かに一度アタマが変わるが、利権を守るために常にどこかで抗争を続けていた。


東と西の間には、小さな街が二つあり、その二つの街は「暴力団お断り」の建前を掲げている。どこかのシマというわけではなかったが、実は「大米組」の傘下にあった。ミカジメ料は払わないが、その代わり、接待や、大米組の出した借金の保証をするという形で、経済的に大米組を支えていた。


 二つの街の名前は、「ヒホン街」と「高麗街」という。

 「ヒホン街」は、かつて大きな武闘組織ができて、近隣の街を傘下に収めようと、悪事の限りを尽くしたことがあった。ひどい搾取のために、自分のシマはおろか、近隣の街も荒廃しきっていた。今はその組織は解体されたが、その時のアレルギーがあって、暴力団追放の強い理念の下、組ではなく「自警団」を持っていた。

 「高麗街」は、ヒホン街と広い川を隔てていて渡し船か飛行船を使うしかないし、言葉も通じないのであまり行き来はないが、この国も「大米組」の傘下に入っていた。自警団も持っていた。ただ、この国はヒホン街とは比べ物にならないほど緊張していた。理由は細い川を隔てた隣の街が「北朝組」のシマだったからである。


「高麗街」と「北朝組」はかつて一つの街だった。

しかしヒホン街の組が殺戮の限りを尽くした時に、二つに割れて、そのまま西と東、別々の組が傘下に収めたために、もう一つになれなくなってしまった。


 「北朝組」は西の「中本組」の枝である。しかしあまりに阿漕なシノギをしたために、シマではまともな企業は一軒も育たなくなっていた。今の主要産業は、「クスリ」と「武器密売」と「奴隷」だった。逃げる市民は後を絶たないが、最近は「逃げたら見せしめに殺す」という手段で、住民を逃がさなくなっている。人間も売れると分かったからだ。

 しかも徹底した独裁体制なので、50年前から一つの家族だけがアタマである。

 最近アタマが変わって、息子の一人が後を継いだが、この男は、オジキも兄弟も殺す、任侠のかけらもない非情な男である。


 ここに来て情勢がまた動いた。

 東の「大米組」のアタマが変わったのである。

 新しいアタマは強欲な男で、金に目がなく、金のために無理をしてアタマになったが、アタマになってみると、意外に火の車だったのと、組の組織に入るお金が自分のものではないと知り、怒っているところだった。もちろんフロント企業を自分の親戚で占めたり、そこに利権を流したり、いろいろやり方はあるのだが、抗争に次ぐ抗争でトップにのし上がったので、まだそこまで事態を掌握していない。しかし意見する根性のある組員は片っ端から破門にしてイエスマンか自分を崇拝する考える力のないバカを代わりに入れるという組織改革、「逆らうものは9代末まで嫌がらせ」という復讐原則、そして「誰かを悪く言えば必ず自分の味方につくものがいる」というネガティブ・キャンペーンで徐々に地場を固めている。今では表立って逆らうものはいない。彼は気づいていない。声に出して言ってくれているうちはまだいいのだ。表立って逆らっていない反感くらい強固でつぶしにくいものはない。かつてヒホン県でも同じことが起こった。組組織が倒れると、すぐに市民たちは「暴力団お断り」の理念を貫いて、実際に「暴力団を作らせない」という人たちが自警団に入ったのである。


 もっと金がほしい。

 そういう声が聞こえるようだ。

 シマ内で悪く言えるものをあらかた悪く言うと、今度はシマの外に目をむけた。

 ミカジメ料を取り立てたい。ヒホン街と高麗街に金を出させる手段はないか。できれば接待とか保証人とかそういう形ではなく、手からざらざらこぼれる現金の形でほしいものだ。あの二つの街はそこそこ金持ちだから景気が悪くてもしぼり出せるはずだ。もっと節約すればいいのだ。最初はあの街を悪く言おうとしたが、失敗したので、彼はやり方を変えた。


 彼は北朝組に目をつけた。

 二つの街は自警団を持っているが、自分からは動かない。自警団だから。そこをついて、大米組のありがたさを思い知らせる手段はないだろうか。ミカジメ料はあきらめよう。そうではなくて、理不尽な要求を突き付けても吞まざるを得ない状況がほしい。名目はいくらでも考えつく。北朝組が暴れだしたら二つの街は必ず自分に逆らわず味方になるし、金も出すだろう。さらに北朝組を悪く言えば、名分が立ってシマ内の味方も増える。


 そのために北朝組をつっついた。

 もともとシマ内に地雷を抱えているような組だ。内憂外患。いつ倒れるか分からない。案の定北朝組は破れかぶれの挑発行為に出始めた。

 親の中本組は手を貸すくらいなら縁を切る様子である。


そこから先はどうなったのか知りません。

 

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