だだっ広く何も見えない宇宙に漂う私、周りに光らない星屑。

かたち

第1話

星も言葉も文字も知りません。道理を知りません。本も読みません。新聞も読みません。テレビも見ません。ネットも見ません。電話もしません。メールもしません。友達もいません。親もいません。兄弟もいません。支援者もいません。家もありません。屋根もありません。地球はありますか? 土地はありますか? 空はあります。飛行機は飛んでいます。雲は流れています。木の看板が立っています。森はあります。池があります。鯉が泳いでいます。白い髭を生やした気だてのよさそうなおじいさんは垂れた白い髭をもじゃもじゃさせながら此方をみています。私は会釈して通り過ぎます。松がありました。城壁がありました。私は生きていました。

聞いたことがあります。誰から聞いたとか細かいことは忘れました。私は話すことが苦手です。言葉を知りません。全ては気のせいのように思います。もし私が今話しているのではないかとあなたが考えていても気のせいであるのです。私はいつの間にかそのように見せかけを頂きました。言葉があるようにみせられていますが此れは私の言葉ではないのです。私の周りに存在した言葉なのです。私は機械ではありません。ロボットではありません。人間です。母はぬいぐるみを編みながらそう呟きました。母もまた母ではありません。居たのか有ったのか分かりません。全ては見せかけなのです。私の気のせいであるのです。其れが全てです。

私は生きています。今言葉を吐いています。私は嫌でした。今も嫌です。言葉が嫌いです。話せないのが嫌です。話したいです。言葉を見せかけで使い続けることによって思うようになってしまいました。本を読むのが好きでした。考えることが好きでした。想像することが好きでした。妄想することが好きでした。寝ることが好きでした。食べることが好きでした。

私は今、嫌です。何が嫌というと全てが嫌です。食べるのも考えるのも思うのも寝るのも嫌です。ついでに言うと、付け足すと歩くことも生きることも嫌いです。だから全てが嫌なのです。

私は話したい。言葉を使いたい。想像したい。妄想したい。寝たい。食べたい。歩きたい。生きたい。人を好きになりたい。

私は全てが嘘でした。デタラメでした。足りない人間でした。全てが足りなさすぎて嫌気がさしました。もっともっと足りた人間だったならば私は生きることができたでしょう。話ができたでしょう。全てが可能だったでしょう。

我儘なのです。何かがおかしいのです。そうでしかあり得ません。

私は星屑が落ちている宇宙そらの道を歩んでいます。宇宙そらはだだっ広く空気がなく目印がありません。誰もいません。星の欠片、屑だけが霧消しながら散らばっています。

何処に世界があるのでしょうか。人がいるのでしょうか。

私は叫びます。誰か、誰かー。

声は返ってくるどころか響きません。其れが宇宙の法則のようです。

ただ浮いています。星の灯りなんてありません。光らない星屑だけが私の周りに存在します。

私は知っていました。この星屑には命があることを。

私は言葉というものを知っていました。会話というものを知っていました。想像というものを知っていました。妄想というものを知っていました。寝ることを知っていました。食べるということを知っていました。歩くということを知っていました。生きることを知っていました。友達というものを知っていました。両親というものを知っていました。兄弟というものを知っていました。恋人というものを知っていました。

私はただ浮いているだけです。目を瞑りました。ただ暗いだけの宇宙空間で目を瞑っても何も変化ありませんが。

考えませんし想像しません。ただ瞑るだけです。其れでよかったのです。

私は此処にいます。星屑だけが散らばる宇宙空間に漂っています。いつか目の前の星屑に詰まっている生命を当たり前に実行出来る私になるまで。おそらく。

私は知っていますから。知っていますからまだ生きています。そうしていつか辿り着けるのでしょう。この身体に当たり前に備わっている生命に。

ありがとう星屑。私は生きているよ。それだけで充分。

いつか当たり前の私になればまた礼をいうね。それまではやっぱり目を瞑るだけの私は宇宙空間に漂っているね。

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だだっ広く何も見えない宇宙に漂う私、周りに光らない星屑。 かたち @katachikatachi123

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