エピローグ
「あーあ、いよいよ受験勉強かぁ。やる気出ねー」
同じ部活動に所属する友人がげんなりとした顔でそう言った。隣を歩いていた琥珀が苦笑していると、
「なぁ、琥珀。今度、N塾に一緒に行ってみないか?」
「N塾?」
もう一人の友人に誘われ、琥珀が首を傾げていると、
「ああ。あの駅の近くにある塾だろ?」
さきほどまでげんなりとしていた友人が思い出したように口を開いた。
「そうそう。先輩も成績上がったって言ってたし、なにより評判よくてさ」
「じゃあ、後でどんな感じだったか教えてくれよ。今後の参考に……」
言い終わらないうちに、彼の首に友人の腕が回る。
「ばーか。お前も行くんだよ、強制参加!」
「はあ? 俺もかよ?」
にやっと笑う友人に対して、冗談じゃないとでも言う顔をする。
そんな二人のやり取りを聞いた後、琥珀は友人たちと別れて自宅に向かって歩き始めた。
その時、電柱と軒下にしめ縄を付けている男性の姿が目に入った。
路上にはもう一人男性がいて、梯子に上ってしめ縄を括りつけている男性を見上げている。
琥珀が背後を振り返ったその先には、いくつものしめ縄が間隔をあけて吊るされていた。
(そっか、祭りもうすぐだもんな)
琥珀は顔を前に戻してから、男性たちのすぐ横にある狭い通路に入った。そのまま、まっすぐ進んで行く。
少しすると、石段が見えてきた。傍にある看板には神社の名称が書かれている。
顔を上げれば、石垣の上から朱色に染められた鳥居の一部が見えた。
その瞬間、彩街にあった神社が頭の中に浮かんだ。常磐や山吹と待ち合わせする時によく利用したのを思い出す。
そのまま階段を上って境内へと足を踏み入れる。自分以外に人の姿はない。
目の前に構える鳥居も石灯籠も奥にある本堂も、全てに朱色が使われているのがこの神社の特徴だ。
まっすぐ本堂に向かって歩いて行く。近くまで歩いた時、あることに気が付いた。何故か一部だけ本堂の色が濃い。大人の男性が両手を広げられるくらいの幅がある。
「何でここだけ?」
琥珀が手を伸ばそうとした時、変色した部分の範囲が小さくなった。
「え?」
少しの間眺めていると、その範囲はまた小さくなった。少しずつ濃い部分が消えていっているのが分かる。
「これって、もしかして……」
そう呟いたのと同時に、色の範囲がまた狭くなる。気のせいかどんどんペースが早くなっている気がする。
(ここを通ればまた彩街に行けるのかな、俺?)
琥珀は恐る恐る手を伸ばした。以前のように紅月の声は聞こえない。
それでも。
琥珀は決心すると、その濃い紅色の箇所に飛び込んだ。
(了)
極彩遊戯 野沢 響 @0rea
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