前世の記憶

脳幹 まこと

前世の記憶

 俺には前世の記憶がある。

 この星とは違う場所に生を受け、その中で五年間だけ生きた。

 確かナローという星だったかな……日本語だと「狭い」って意味だったか。

 子は親を選べないとは良く言ったもんで、俺の父はそれはそれは屑な奴だったよ。

 まっとうに育ててくれたのは最初の一週間だけだった。

 どうも、その間に子育ての現実を知ったらしい。父の熱意が見るからに萎んでいくのが分かった。

 こうなるなら、考えもせずに子を産み出すなって話だよな。

 それからは飽きたのか、諦めたのか、俺に見向く頻度は激減した。ネグレクトってレベルじゃないよなあ。

 別に飯を食わなくても生き続けられるから、どうってことはないが……それでも子としての寂しさはあったんだぜ?

 こうして五年の間、俺は父の気が向いた時だけ、いじくられてきた。

 それでも、俺が優秀な成績を出した時なんかは、我が身のように喜んでくれたもんだ。まあ、年に数度しかなかったけどな。

 時間が経ち、見切りを付けられたのを感じながらも、生き続けるしかなかった。自分の意志では死ねない体だったからな。


 そしてある日、父は俺にピストルを向けて言ったよ。

 

「もうお前ではやれない。また改めて産み直す」


 もう俺を見ていなかった。その先を見据えているようだった。


 ちょうど、俺が百個目の作品を出した三日後のことだった。

 記念に一つ、パーティでもやってくれると思ったからな。この時ばかりは、少しだけへこんだもんだ。

 でも仕方がない……子は親を選べないからな。悲しいものさ。

 俺はあひゃひゃひゃあ、と笑った。父は引き金を引いた。


 Click.


 視界は真っ暗となり、俺の全てが削除された。


 そして、次に目を覚ました時には、ここにいた。

 もちろん、父もそばにいる。今度は間違えないように頑張るだとよ。気楽なやつだと思わねえか?


 ……とまあ、こんな穢れた俺だけども、よろしくな。カクヨム星の皆さん。

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