第98節 パーティー



 俺の17歳の誕生日たんじょうびである5月14日火曜日、学校が終わってからの放課後、俺は友達らと一緒に大宮おおみやえきからすぐ近くのカラオケ店でパーティーをしていた。


 10人くらいが入る中規模のカラオケルームにて、俺とさとしすぐる高広たかひろの男子4人、萌実めぐみ可憐かれん西園寺さいおんじさんと凜奈りんなさんの女子4人の、二年生になった男女8人で高校生らしく指定ブレザー制服姿のまま友達同士でのカラオケに興じていた。


 なお、明日5月15日は二高ふたこうの体育祭が予定されており、クラス対抗で点をうばきそう、様々な競技きょうぎもよおされることになっている。


 俺とすぐるで一緒にカラオケ台に上がり、おたがいに十八番おはこきょくである『青海波せいがいはむすめ』を昨年さくねんあきみたく二人で共に歌い終わったところでそれぞれの席に戻る。 


 内巻うちまきにかみねた清楚せいそ黒髪くろかみロングで、その頭にはホワイトデーに俺がプレゼントした新しい革製かわせいのヘアバンドを着けている、ながいスカートのブレザー制服せいふくをスタイルのほそ身体からだまとった西園寺さいおんじ桜華はるかさんが、隣にいる俺にこんなことを話してくる。


「とても伸びやかで綺麗きれいな声でお上手でしたわ。たちばなさんって歌の才能がおありなのですわね」


 うま毛並けなみのようなつややかな黒髪くろかみを伸ばした西園寺さいおんじさんの隣に、深山みやまのごとく腰を落ち着けた俺は、その柔らかな賛辞さんじに照れながら感謝の言葉を返す。


「ああ、めてくれてありがと、西園寺さいおんじさん。さっきの歌はちょっとばかり自信があるんだよ」


たちばなさんがお誕生日にたのしんでいただけたたようで良かったですわ」


 俺が大金持ちになる以前からと同様に、対等たいとう関係かんけい気遣きづかいを続けてくれている西園寺さいおんじさんが、そんな風におしとやかに微笑ほほえんでくれるのが俺はうれしかった。何でも、この俺の17歳の誕生日パーティーは西園寺さいおんじさんが発案して皆を誘って企画してくれたものらしい。


 一年生から二年生になって、文系である俺とさとし高広たかひろ、そして萌実めぐみ可憐かれんはまた同じクラスになったが、同じ文系の西園寺さいおんじさんは俺たちとは別クラスになり、凜奈りんなさんも一年生のときとおなじく俺たちや西園寺さいおんじさんとは別クラス、そして一人だけ理系であるすぐるもまた別クラスになった。


 だが、すぐるは休み時間や昼休み時間にはちょくちょく俺たちのクラスに来て、一年生の頃のように同じ教室で何かと男友達四人同士で駄弁だべっている。


 新しいクラスでも学級委員長をしているらしい西園寺さいおんじさんが、こんなたのしいはなのようなうたげもよおしてくれたことに、感謝の気持ちを抱いていた俺は問いかける。


「そういえば、西園寺さいおんじさんって誕生日いつなの? 良かったら今度は俺の方から祝うよ?」


 すると、西園寺さいおんじさんがお嬢様っぽい口調で応える。


「4月の2日がわたくしの17歳のお誕生日でしたわ」

「え? じゃあ……もうとっくに過ぎたって事? 祝えなくってごめん」


 俺が申し訳なく応えると、西園寺さいおんじさんは気にしないといった表情を見せて、両手をブレザースカートの太腿ふとももの上で重ねつつ微笑ほほえむ。


「お気になさらず」


 そう言ってくれた西園寺さいおんじさんが、まるいミラーボールがはる満月まんげつのようにかがや薄暗うすぐらいカラオケパーティールームにて、少しだけ暗い表情を見せた気がしたが、すぐに元の笑顔に戻った。


――俺より一か月半くらい年上だったんだな、西園寺さいおんじさん。


 そんなことを心の内で思った俺は、気遣きづかってくれた西園寺さいおんじさんに言葉をかける。


「来年の誕生日にはまた俺から祝うよ」

「そう言っていただけると有難ありがたいですわ」


 俺と西園寺さいおんじさんとでそんなやりとりを交わしていると、反対側に座っている小学生の頃からの親友である、大きなむね谷間たにまを上を開けたブラウスからせた、金髪をシュシュでポニーテールに結ったギャルの可憐かれんが俺を指でつっつく。


「ちょっと、ケータ。話あるんだけどイイ?」


 可憐かれんがそのぱっちりとしたツリで俺を見つめて、真剣な表情で尋ねかけてくるので、俺は返す。


「ああ、なんだ?」


 すると、可憐かれんは背筋を伸ばし、その H カップあるらしい大きな胸をブラウスの下から張りだすような格好になって、頬をあかく染めながら視線を逸らしつつ小声で伝えてくる。


「エーっと……ここじゃみんながいるからちょっと……。廊下ローカで二人だけの話ってことでイイ?」


 そんな、金髪お嬢様ギャルである幼馴染の思わせぶりな要求に、俺は少し疑問を感じたが、もちろんうなずいて承諾した。





 で、カラオケルームを出てから廊下ろうかの突き当り、すぐ近くにて緑色みどりいろ非常口ひじょうぐちランプが頭上ずじょうともっている仄暗ほのくらしずかな空間くうかんにて、俺は可憐かれん二人ふたりだけでかいってっていた。


可憐かれん、話ってなんだ? みんながいるとこじゃできない話みたいだけど」


 俺がそう尋ねると、可憐かれんは相変わらず顔をあかめたまま、シュシュでった金髪きんぱつのポニーテールをよこらし、視線をらしてこたえる。


「んーっと、ちょっとね。ドーしても、ケータとアタシの二人きりじゃないとできない話だし」


――なんだろな? 友達ともだち同士どうし遠慮えんりょすることなんかないのに?


 俺がそう思っていると、可憐かれんが相変わらず視線をらしたままこんなことを尋ねてくる。


「ケータ、その前に教えて欲しいんだケド……もしアタシが、たまたまケータとメグと同じ高校こうこうに通わずに、アタシとはなばなれになったままだったら、ケータはアタシをさがしてくれた?」


 そんな可憐かれんのためらいげな態度たいどに、俺は後ろめたい気持ちを抱きながら応える。


「あーっとな、それは……さがすもなにも、方法ほうほうがなかったからな。俺たちがわなくなったの小学五年生の頃で、おたがいにスマホとか持ってなかったし。ラインのアカウントは無理むりでも、連絡先れんらくさきとして電話でんわ番号ばんごうくらい交換こうかんしとけばかったなって、あとになってやんだよ」


 すると、可憐かれんがまるでおぼろこうにずかしげにかくれたつきのように、すこうつむ加減かげん表情ひょうじょうくもらせ、ほほめたままれたような上目うわめづかいでかえしてくる。


「それは……アタシも、そんときはケータとメグに対して本当ホントーの名前も名乗らないで男の子のフリしてたからね。ちょーっと、うそついてたのがバレたら何思われるかって怖かったってーか……もしかしたら、きらわれるんじゃないかとか……」


 高校生のギャルらしく短めのスカートから美しく伸ばした生足なまあしを、なんとなく内股うちまた気味ぎみにもじもじとさせ、おびえたように段々だんだんと声を小さくしていく可憐かれんに、俺はなごやかな口調くちょうで話しかける。


「そんなことくらいで俺がおまえのこと、きらいになんかなったりするわけないだろ。可憐かれん萌実めぐみにとっても勿論もちろんそうだけど、俺にとっても大切たいせつ存在そんざいなんだからな。だから、もし高校こうこうちがっててこんな風に再会できなかったとしても、俺はいつかはくさを分けてでも可憐かれんことさがしてたと思うぞ」


 すると、可憐かれんは照れくさそうに上目遣うわめづかいでこちらをちらちら見ながら、躊躇ためらいがちに俺に尋ねる。


「じゃあ……ケータはアタシのことを……えっと、別れてからもずっとずっとアタシにいたかったってコト?」


「そんなの言うまでもねーっての、当たり前だろ。俺はレンって呼んでた可憐かれんと小学五年生のときにあの公園で別れてからも、本当ほんとう萌実めぐみと同じくらいずっとずっともう一度いちどいたいっておもってたんだからな」


 俺と可憐かれんくら廊下ろうかでそんなやりとりをわしている最中さいちゅうに、俺の心の中にこんな思いが浮かぶ。


――子供こどもころからのおも共有きょうゆうしている、大切たいせつで、えのない親友しんゆうだもんな。


――もし仮に、家族かぞくでのハワイ旅行で買っていた宝くじが当たらなかったとしても。


――可憐かれん再会さいかいできたというだけで、進学先しんがくさき二高ふたこうにした価値かちはあったと思う。



 可憐かれんほほめながらかおげ、ふたた視線しせんよこらしつつこんなことを言う。


「まー、アタシも生徒せいと会長かいちょうやってた真希菜まきなねえちゃんが学校がっこうだってススめてくるから軽い気持ちで二高ふたこうを受けたんだけどね。ケータとメグがいて、しかも同じクラスになるなんて、アタシもこんなラッキーツカむなんて思わなかったし」


「そうだな、俺にとってもそこはラッキーだったよ。萌実めぐみとのちがいによるトラブルもあいだって仲介ちゅうかいしてくれたしな。そしてまた、こうしてむかしみたいに一緒いっしょあそ関係かんけいもどれたんだし。もしかしたら、俺と可憐かれんとは前世ぜんせからの宿さだかったえんがあったのかもしれねーな」


 俺がおだやかな感情かんじょうでそう言うと、可憐かれんはますます顔を赤くしてこんなことを小声でつぶやく。


前世ぜんせとかすのはちょっと……卑怯ひきょうだし」


――卑怯ひきょうか。まあ、その通りだけど。


 俺がそんなことを思ってると、可憐かれんはブレザー制服のポケットから、なにやらお洒落しゃれ包装紙ほうそうしで、三日月みかづきのシールでふうをされたレター封筒ふうとうを取り出した。そして両手で持ち、覚悟かくごを決めたような顔つきになって前のめりになり、むね谷間たにまをアピールしたような姿勢しせいのまま俺に差し出す。


「はい、これ。アタシからケータへの誕生日たんじょうびプレゼント! 受け取って!」


 顔を真っ赤にして目をつむり、小さめのレター封筒ふうとうを両手でもって差し出した可憐かれんの申し出に、俺は戸惑とまどってこたえる。


「え? 今日きょう誕生日たんじょうびプレゼントはないって聞いたけど?」

「いいからケータはだまってれ! これ以上イジョーなにわせんな!」


 ブラウスからなまめかしいむね谷間たにませたセクシーな金髪きんぱつポニーテールギャルである可憐かれん口調くちょうが、なんとなく小学生しょうがくせい時代じだい活発かっぱつなスポーツ少年しょうねんりをしていたころもどったがしたが、俺は気にしないことにしてこころより、その三日月みかづきがたのシールでほどこされたふうろうとする。


「ああ、ありがとな可憐かれんけてみるよ」


 俺は三日月みかづきかたちをしたシールの糊付のりづけをビリっとおとやぶりかけ、そのレター封筒ふうとうなかにあるかみそうとする。


 すると、目を開いた可憐かれん咄嗟とっささkぶ。


て! ここでけんな!」


――やっぱり可憐かれん口調くちょう小学生しょうがくせい時代じだいに戻ってるな。


 俺がめそんなことを思っていると、可憐かれん性的せいてき奔放ほんぽうさをアピールしているギャルらしいみじかいスカートから露出ろしゅつした、脚線美きゃくせんびせたその両脚りょうあし相変あいかわらず内股うちまた気味ぎみにもじもじとさせつつ、うつむ加減かげんになってこんなことを小声こごえってきた。


「アタシもケータのリクエストにはなんでもこたえてあげたいケド……できればノーマルなのがいいかな。アタシはこんな、いかにもあそんでるってファッションだけどじつはソーいうの、はじめてだし……ま、ほかでもないケータが相手あいてならちょっとくらいフツーじゃなくてもユルすけど」


「へ? ノーマル? はじめて? 可憐かれん、おまえなんはなししてんだ?」


 俺が呆気あっけにとられながらまえ親友しんゆう意味いみ不明ふめい言葉ことば真意しんいたずねると、可憐かれんほほあかめたまま、さけぶようなこえはなつ。


「いいから! 年頃としごろおんな男子だんしにあんなずかしい写真しゃしんおくるってのはソーいうこと! とにかくその封筒ふうとうは家に帰ってから誰も見てないところで開けて! ケータが17さいむかえたこのはるよるに、アタシがケータにあげられるもので、ソレ以上イジョーのものなんてないし!」

 

 ほほめた可憐かれんの言っている『あんなずかしい写真しゃしん』というのは、俺が多国籍たこくせきマフィアに誘拐ゆうかいされて警察けいさつ実況じっきょう見分けんぶん協力きょうりょくした夕方ゆうがたに、可憐かれんからおくられてきた写真しゃしんのことだろう。


 可憐かれんはおそらく自分じぶん部屋へやから俺のスマホに、けていない十五夜じゅうごや望月もちづきのようなまんまるな巨乳きょにゅうかくしもせず、ふくおうぎのようにひらげて桜色さくらいろのグラデーションのかかった乳首ちくびをチラリとせつけるような、大胆だいたん自撮り写真セルフィーを送ってきたのである。


 そんなことを思い出していると、頭上ずじょう非常灯ひじょうとう緑色みどりいろ仄明ほのあかるくらされたこの廊下ろうかきあたりに、活発かっぱつ黄色きいろこえ制服せいふくスカートのしたにスパッツを穿いた人影ひとかげともんできた。


「ああーっ! いたいたーっ! 可憐かれんちゃんが大声出してくれたからすぐわかったよっ!!」


 そのかげは、日仏にちぶつハーフでまれながらの金髪きんぱつそとハネのシャギーショートにしているボーイッシュな仕草しぐさ元気げんき新庄しんじょう凜奈りんなさんの姿であった。


 スポーツ少女っぽく元気げんきに飛び込んできた、その金髪きんぱつ前髪まえがみ部分ぶぶんにいくつものヘアピンをけたハーフの美少女びしょうじょである凜奈りんなさんは、俺のブレザー制服せいふく袖口そでぐちつかんで強制的きょうせいてきかおわせるように俺の方向ほうこうえる。


 そして、手紙てがみはいっているようなレター封筒ふうとう片手かたてって、俺にたいして快活かいかつす。


「はいっ! これ太郎たろうくんにワタシからお誕生日たんじょうびプレゼントっ! 一日いちにちなんでもしてあげるけんっ!」


 そんな、年頃としごろ女子じょし高生こうせいなのに少年しょうねんっぽい威勢いせいのいい挙動きょどうをとる凜奈りんなさんに、俺は戸惑とまどいながらかえす。


一日いちにちなんでもしてあげるけん? そんなとんでもないもの俺にくれんの?」


「そうだよーっ!! このけんがあればワタシのことを一日いちにちだけ太郎たろうくんのおもいのままっ! 太郎たろうくんと一緒いっしょにデートでもサイクリングでもお菓子かしづくりでもなんでもおねがいてあげるっ! あ、でもエッチなおねがいはダメだよっ!」


 可憐かれんとは対照的たいしょうてきれもせず、表情ひょうじょうくもらせもせずに太陽たいようみたいに明朗めいろう闊達かったつに俺にはなしかけてくる凜奈りんなさんに、俺は一応いちおう友達ともだちとしてレター封筒ふうとうっておれいべる。


「あーっと……ありがと凜奈りんなさん。気持きもちと一緒いっしょっとくよ。っつーか、なか友達ともだち普通ふつうはエッチなおねがいなんてしないから」


「ま、そりゃそーだろーねーっ! こんなときにおんなにエッチなおねがいするおとこなんてヘンタイさんだよーっ! もちろんぎゃくおんなおとこにおねがいする場合ばあいでもねーっ!」


 凜奈りんなさんがそんなことをほがらかにしゃべ視界しかいはしで、なんだか可憐かれんが体ごとそっぽを向いて体を震わせ、自分の顔を両手でおおっている様子が見て取れた。


「どうした可憐かれん?」


 俺がそう尋ねるが可憐かれんは顔を両手で隠したまま何も答えない。そして凜奈りんなさんが俺が持っているもう片方のレターセットを見てたずねる。


「そっちのは? もしかして可憐かれんちゃんのプレゼント?」


 俺はこたえる。

「ああ、そうだけど。さっきここでもらったんだ」


「へーっ! 見せて見せて!」


 凜奈りんなさんはそう言うが早いか、すかさずネコ科の野生動物のような俊敏しゅんびんな動作で、何も断りを入れず可憐かれんからもらった方のレターセットを俺の手からうばり、そのままながれるようにふうった。


――え、ちょっと。


 俺は可憐かれんから渡されたプレゼントをいきなりうばわれふうけられたことに当惑とうわくしたが、その即座そくざ行動こうどう反応はんのういつかなかった。


 そして、凜奈りんなさんはその中身であったチケットのようなものを取り出して見て、無遠慮むえんりょはなつ。


「なにこれ? 何も書いてないけど? 最後さいごに『けん』って書いてるだけじゃん!」


「へ? それってどういう……」


 俺が凜奈りんなさんの手元をのぞようとすると、凜奈りんなさんはその紙を俺に向けてくれたので、そのプレゼントの正体が空白に何も書かれておらず、最後に『券』とだけある四角しかく紙切かみきれなのがわかった。


 その可憐かれんのプレゼントの意図いと理解りかいした俺は、体ごと明後日あさって方向ほうこうに向けながらかお両手りょうてずかしげにかくしている、すぐ近くにいる親友しんゆう遠慮えんりょがちにたずねる。


「あーっと、可憐かれん。これって……もしかして、白紙券はくしけんってやつか?」


 非常灯ひじょうとう薄暗うすぐららされた廊下ろうかにて可憐かれんはそっぽを向き、赤くなっているのが横からわかる顔を両手でおおったまま、躊躇ためらいがちに小さくうなずいて無言むごん肯定こうていする。


 すると、凜奈りんなさんが気兼きがねなく元気げんきいっぱいにはなつ。


白紙券はくしけんんっ!? つまりなにいてもなんでもしてあげるってこと!? なぁーんだ、じゃあワタシと同じじゃんっ!! 可憐かれんちゃんも太郎たろうくんとそんなに一緒いっしょあそびたかったんだねっ!!」


――あそぶ、か。


――そのあそぶ、って凜奈りんなさんとおな意味いみかな、本当に。


 俺がそう思っていると、別の方向からよく知った悪友あくゆう高笑たかわらいがひびいてきた。


「ふぁっはぁっはぁっ! 女子じょし男子だんし誕生日たんじょうびプレゼントとして白紙券はくしけんを渡すなんざ、やっぱり色ボケのビッチだったようだな貴様きさま!」


 その声は、いつの間にか近くにきていた、ヒョロ長ノッポで眼鏡めがねをかけた悪友あくゆうすぐるのものであった。


「お前、いつからいたんだよ」


 俺がそう尋ねると、すぐるこたえる。


「そこの元気げんき貴様きさまらのもと突撃とつげきしていったあたりからだな」


 すると顔を赤くした可憐かれんが、すかさずすぐるかって、小学生時代にサッカー少年のふりをしていた頃の活発さを取り戻したかのように血気けっきさかんに反論はんろんする。


「ふざけんな! だぁれがビッチじゃ! それもよりによってケータの前で!」


 そして、凜奈りんなさんが不思議ふしぎそうなかおをしてすぐるたずねる。


「ビッチって英語えいごおんなワンちゃんって意味いみだってパパからいたことがあるけど、どういうこと? 可憐かれんちゃんが可愛かわい動物どうぶつみたいってこと?」


 すると、自信たっぷりにすぐるが返す。


「ふふふ、まあ間違まちがってはいないな。雌犬めすいぬのようにオスに甘えたくて甘えたくてたまらんメスの人間にんげんのことをぞくにビッチと呼ぶのだ。オスをもとめてあそびにさそうところなんざピッタリだな」


「へぇーっ! そうなんだっ! ひとつかしこくなったよっ! 可憐かれんちゃんは男の子に甘えたがりなビッチだったんだねっ! わかるよっ!! うんうんっ!!」


 凜奈りんなさんが俗語ぞくご意味いみたがえて悪気わるぎなくそんなことを言うと、すぐる凜奈りんなさんに対して説明せつめい追加ついかする。


「いや、その認識にんしきは違うな。つまりこの巨乳きょにゅうビッチはそのけもののようにたぎらせた情欲じょうよくをもてあましたおのれ肉体にくたいで、手近てぢかにいるおとこ友達ともだち啓太郎けいたろう身体からだほっしてだな……」


「メガネはだまってろ! っていうかアタシはこんなギャルっぽいファッションだけどビッチじゃないし! おもいっきり純潔じゅんけつだし!」


 可憐かれんむかし公園こうえん活発かっぱつ少年しょうねんりをしていた時代じだいみたいにおとこ顔負かおまけな威勢いせいさですぐるかえし、そして凜奈りんなさんに対して文句を言う。


「そもそもアンタもアンタよ! 人が人に渡したプレゼント、本人に何も断らずにうばって即座そくざ中身なかみるとか、不文律ふぶんりつのルールらないっていうか常識じょうしきないの!?」


 すると、凜奈りんなさんはあと一年ともう少しで成人になるはずの高校二年生女子とはとても思えないような子供っぽい態度たいどで、笑顔えがおせつつ悪気わるぎなく応える。


「えーっ? ワタシもせっかく仲良なかよくなったお友達ともだち太郎たろうくんと一緒いっしょあそべるっていう恩恵おんけいけたいもん! よぉーっし、じゃあ太郎たろうくんをどっちが独占どくせんできるかを、明日あした体育祭たいいくさいで勝負だっ!」


 そんな、ネコ野生やせい動物どうぶつのように自由じゆうままな性質せいしつ凜奈りんなさんがした提案ていあんに、伝統でんとうある名家めいか子女しじょらしく道理どうりおもんじる性質せいしつ可憐かれんはライオンが咆哮ほうこうするかのようにハッキリと返す。

 

「わーったし! ケータとあそ権利けんりをどっちがられるか、乙女おとめ意地いじをかけてけてやろーじゃない! アタシもケータの前でここまで好き勝手かってされて言われて黙ってられるワケないし!!」


 廊下ろうかはし侃々かんかん諤々がくがく対立たいりつをする、かがみなかうつったもう一人ひとり自分じぶんであるかのように正反対せいはんたい性質せいしつ同士どうし可憐かれん凜奈りんなさん、そしてそれをにやつきながら見ているすぐるはたからながめ、今日きょう17さい誕生日たんじょうびむかえた俺はこんなことをやるかたない気持ちで思っていた。


――俺の自由じゆう意思いしは……? 二人ふたりとも無視むししてない……?




 ◇


 【筆者よりおことわり】

 申し訳ありませんが筆者の私事につき、次回(第99節)以降の公開は未定となります。第4編を全て書き切ってから順次公開予定とします。

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クラスカースト下位の俺が宝くじで300億円当てたらちやほやされ始めたんだがどうすればいいのだろうか? 水無月六八 @minazuki_68

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