第4話 ルームメイト1

 いろいろと驚くことがある。最初に驚いたのは今朝目が合った女子生徒がルームメイトだということ。これはもうどうしようもないので受け入れたが……。

 現在俺達五人は、このシェアルームにおいて居間に当たる場所にある机を囲んで座っている。

「千守瑠、去年からルームメイトがいるって、まさか生徒会長とはな」

 今は居ないといったのは、生徒会の業務で居ないということだったらしいが、今日はもう業務が終わったということであの後部屋に戻って来た。

 更に、生徒会長は俺がこの部屋だということを予め知らされていたらしく、俺に会ってみたいというのが本音だったようだ。

 千守瑠に聞いた限りだと、生徒会長は俺達と同じ二年だそうだ。

 始めは敬語にしようかと迷っていると、千守瑠が教えてくれたのだ。

「ねぇ風神君、さっきからなかなか目を合わせてくれないけど、私と一緒の部屋なのが嫌なの?」

「別にそういうわけじゃない。ただ……」

 生徒会長はただ? と繰り返して首を傾げる。

 ……言えない……理事長以外の女性に免疫がないなんて……! あと千守瑠もだ。昔から知っているということもあり慣れているのだろう。

 男として情けなくもあり、それを女性に知られることに恥じらいを覚える。

 まぁ、理事長には全て悟られているのだが。

「……その、言いづらいことなんだが……俺もこういった環境になれてなくてさ。どうしたらいいのかわからないんだよ」

 ここは恥を忍んで告白するしかない。変な誤解を産むよりはマシだろう。

「へぇ~。そうなんだ。私もね、男の子がいる環境は初めてなんだけどなぁ……」

「そうなのか?」

 以外だ。普通に男子と話したりしたことありそうな感じなのに。

 俺の何気ない問いに生徒会長は返答する。

「驚いた? 誰とでもフレンドリーに話してるように見えても、私女子校出身なの」

「珍しいのか? ここでは」

「いいえ。むしろほとんどの生徒がそうじゃないのかしら?」

 生徒会長がそういった時、

「あのさ、とりあえず皆自己紹介しよっか。初対面の人もいるしさ」

 一年生二人がどうしたらよいか分からずにただ黙っている中、千守瑠が提案した。

 そういえば、すっかり二人だけで話し込んでしまった。失礼なことをしてしまったな。

「すまない! すっかり話し込んでしまって! えっと――」

 俺があたふたしていると、生徒会長の方から話を進めてくれた。

「そうね、皆ごめんなさい。なら私から自己紹介させてもらうわ」

 そう言って、呼吸を整えてから生徒会長が自己紹介を始める。

「私は斧研綾芽。入学式の時も言ったけど、生徒会長よ。好きに呼んでくれて構わないわ。皆よろしくね」

 生徒会長がにこやかに自己紹介し終わると、千守瑠が発言した。

「綾芽はもうわかってるからいいと思ったけど、一度聞いただけじゃ人の名前なんて覚えるの難しいよね」

「それはあなたが勉強が苦手ということかしら?」

 生徒会長がにこやかに千守瑠を茶化す。

「もう綾芽ったら、ひどいよ。下級生の前でそんなこというなんて」

 生徒会長はニコニコ笑ったままだ。

 それから千守瑠は調子を整えてから言った。

「じゃあ次は私ね。私は刄金千守瑠、同じく二年よ。まぁ勉強は苦手だけど、実技は綾芽にだって負けないんだから」

「じゃあ次は……そちらのあなた、お願いします」

 千守瑠の自己紹介の後、生徒会長が次の順番へと進めた。

「はい! 私は金沢凛華と言います。私は、中学は共学だったので男子がいることに違和感はありませんが、女子がほとんどということにまだ慣れそうにありません。ですので、無礼なことを言うかもしれませんが、新参者の所行として見逃していただけると幸いです」

 入学したての割りにしっかりとした挨拶をするな。

 金沢さんの自己紹介が終わっってすぐ、千守瑠がフォローを入れる。

「共学なの? 私もそうなんだ」

「そうなんですか!」と金沢さんが驚く。

 それに千守瑠が丁寧に答える。

「ええそうよ。最初は慣れないと思うけど、一周間もすればなれるわ。何か分からないこととかあったら、綾芽だけじゃなく私も頼ってね。きっと力になれる筈だから」

 同じ境遇ということなら、金沢さんも千守瑠に対して親しみ易いだろう。

……いつの間にか立派な先輩になりやがって……。

「ねぇ凛華ちゃん……あ、凛華ちゃんって呼んでもいい?」

 生徒会長は律儀に呼び名の許しを得てから話を始めた。

「その髪綺麗ね。いつも自分でお手入れしているの?」

 確かに金沢さんの髪は綺麗だ。生徒会長もだが、日本人独特の黒髪ロングヘア―。理事長も今は銀髪に染めているが、昔はこんな感じの黒だった。髪は肩で切り揃えているが。

「はい。長いのもあっていつも大変で。先輩方の髪もお綺麗ですね」

「そう? ありがとう。私は癖毛でふわふわした感じになるんだけど、それをごまかす為にサイドをカールにしているの」

 そういう理由だったのか。このふわふわした感じは癖毛だったのか。

「私も? あんまりそういうこと言われたことないからちょっと恥ずかしいけど、ありがとう……」

 千守瑠が嬉しそうに照れ笑いしながらお礼を言った。

「その焦げ茶でストレートの髪質、確かおじさんの方の遺伝だったよな?」

 昔聞いたことを思い出して、皆の疑問の解消を図った。

「そうよ。よく覚えてたわね。千とは昔からの知り合いでね、いわゆる幼馴染ってやつ?」

「そうだな。小学校の時一緒だったな。いっつも髪が長いと邪魔だって、そうやってショートにしてたっけ」

「そうそう。千ったら何も言わずに突然転校しちゃってさ。ただ、引っ越した後で私の鞄の中に千からの手紙が入ってるのに気が付いてね。読んでみたら謝罪と別れの挨拶が書いてあったわ。その時はわんわん泣いたけど、最後に『またどこかで会おう』って書いてあってさ。あれが嬉しかったなぁ……」

 二人で昔の思い出に浸っていると、生徒会長の咳払いで現実に戻された。

 また話が逸れていた。

 そして生徒会長が元の話しに戻そうとした時だった。

 俺の腹が鳴った。

 そういえばもう十二時半を過ぎている。どうりで腹が空く訳だ。

「あら、もうこんな時間⁉ じゃあ私がお昼ごはん作るから、続きは食べながらしましょう」

「あの、私もお手伝いします!」

「じゃ……じゃあ、私も」

 すると金沢さんが立ち上がって手伝いに志願し、それに続いて赤毛の子も志願した。

「ありがとう。それじゃあ一緒に作りましょうか」

 生徒会長は皆にアレルギーがないかだけ訊くと、二人と共に台所へ消えていった。

 その間、俺は千守瑠と昔話や、これまでについて語ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

狙われた世界の双生児(イエーガー) 天宮城スバル @mairu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る