第3話 出会いは必然?偶然?
――私と凛華ちゃんは寮までやって来た。
ここに来るまでの間、私と凛華ちゃんの話題はあの風神という男性の編入生についてだった。
私と凛華ちゃんはあの場に居たが、彼と目があったのは私だけだった。
他にもいたかもしれないが、知っている中では私だけである。
凛華ちゃんは運命だと言うが、どうもそういった色恋に私は疎(うと)いようだ。
私は彼と目が合い、顔が熱くなって俯いたのは、男性がいるという環境に慣れていない所為だと思っている。
しかし凛華ちゃんの考えは違った。凛華ちゃんは、それを運命の出会いだと言う。
そういう意味では私が彼を独占出来るのではないかと羨(うらや)ましがっている。
……勝手に羨まれても困るんだけどな……。
私は彼のことをどう思っているのか、それは良く分かっていない。彼のことを思い出すと、顔が熱くなり鼓動が高鳴る。
やはり男性がいるという環境になれないのだろう。中学生の時も女子校で、父親との接触さえほとんどなかった所為(せい)だろう。
まぁこれからも学園内で会うかもしれない。
だが、この話題も十日を過ぎればなくなるだろう。人の噂はそう長続きはしないのだ。
しかし私が彼のことについて気になっているのはこれだけではない。
彼は編入生としてこの学園に来たのだ。私が気になっているのが彼の学年についてだ。
私の予想では彼は上級生だ。
そもそも一年なら入学という形でこの学園に入る。
彼は編入して来たのだ。ということは二年生以上ということだ。
……風神……先輩か……。
何だかいい響きだ。別に私がそう呼ばれる訳でもないのに、いい響きだと思ってしまう。
彼を意識している訳ではないが、もっと知りたいと思ってしまう。
「美空ちゃんここだよ」
考えに耽っていた私は、凛華ちゃんの声で我に返った。
ここが三〇六号室か。中に誰か居た場合失礼だから、先ずノックをしないと。
ノックをしてみて返事がなかったので、寮監の先生からもらった鍵を使ってドアを開けた。
入ってみるとなかなかいい感じの部屋だった。
間取りもいいし、掃除も部屋の隅々まで行き届いていて、いかにここに住んでいる先輩方が綺麗好きであるかが見てとれる。
「ねぇねぇ、どこの部屋が空いてるのかな?」
入室して部屋を見ていたが、すぐに興味が逸れたのか、別の話題を振って来た。
「私、あの隅の部屋がいいな」
位置としては一番間取りのいい個人部屋だろう。きっと窓から見渡せる景色は凄い筈だ。
そんなことを考えていると、自分が教室に忘れ物をしていることに気が付いた。
「凛華ちゃんごめんね! 私教室に忘れ物したみたいなの」
「本当⁉ 何忘れたの?」
「えっとね、携帯なんだけど……」
そこまで言って口籠る。その先を言いづらいからだ。
「それって、明日じゃだめなの?」
「私ね、毎日両親に電話してるの。私中学の時から寮暮らしでね、その……両親とあまり一緒にいられることがなかったから、せめて何か話したくて……」
「そっか。なら急がなくちゃね。無事入学したって報告しなきゃね」
「うんごめんね。ちょっと行ってくるね」
そういってドアノブに手を掛けた時、押す前にドアが外に開いた――
――俺は千守瑠に連れられ寮へとやって来た。この寮は校舎と空中廊下で繋がっており、正面入り口と西空中廊下、そして北空中廊下の三つの出入り口がある。
俺の寮の場所は、校舎から離れている為一度外に出る必要があった。
そこから寮までは一本道だという。
道案内は必要としないが、このまま寮に戻るということで同じ方向に向かっているという状況だ。
道中千守瑠に説明を受けたが、この学園の寮はシェアルームというらしい。ちょっとしたコテージのような間取りに、四人から五人までの個人部屋が備わっているという。
リビングやキッチン、風呂場は共有スペースで、トイレは各部屋に備わっていると聞いた。
これなら誤解を産むトラブルは起こりそうになさそうでありそう? いや、大いにありそうだな……。
なかなかに面白い寮生活が送れそうだ、と諦めるしかないか。
ふと、今朝の出来事が脳裏に過(よぎ)った。赤髪のロングヘアーで整った顔立ち、大人しそうでスタイルも良い。
その所為で途中からあの子の胸に目が行ってしまっていた。
男として自然と視線が下に逸れたが、それに気づかれたのかその子は顔を赤くして俯いてしまった。
……変な噂が広まったらどうしよう……。
その時は事情を説明して、理事長に言ってなんとかしてもらうか。
そんなことを思っていると、どうやら目的の部屋に着いたようだ。
「言っておくけど、この部屋は私ともう一人去年からいるの。今の時間だといないと思うから、入っても大丈夫だよ」
そう言われたので俺は遠慮なく部屋のドアを開けることにした。
ドアを開けると目の前に人が現れた。
一瞬驚いたが、その人物の顔が目に入った――
「「――あ……」」
一瞬時が止まっているかのように感じた。
先程まで俺の考えていた女子生徒が目の前に現れたのだ。ドアに手が伸びてきたってことは、この子もこの三〇六号室なのか?
それとも部屋を間違えて出てきたとか?
はたまた友人の部屋に遊びに来ていたとか?
理由はどうであれ、突然先程まで思考の全てを占領していた本人が現れたのだ。
驚かない方がおかしい。
しばらくお互いに固まって、思考が戻り始め状況を理解して、
「「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇ‼」」
叫んだ。
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