第2話 再会
――俺は風神真千、今年から鏡ヶ丘学園に編入することとなった。別に編入することに異議はなかったのだが、直接現地へ赴いて分かったことがある。
……ここ女子校じゃねぇか! あのクソ上官! ここが女子校なんて言ってなかったじゃねぇか!
入学式の後、俺は担任の教師と一緒に教室へ向かわなければならないが為に、一度職員室まで行った。その時理事長に問い詰めたのだが、
「上官に逆らうか貴様! いい度胸だ。貴様の訓練だけ他の生徒とは別メニューにしてやろう」
と、窮屈(きゅうくつ)さが増しただけなので、これ以上何か異議・申立てを言うのは最悪な事態を招きそうなので止めておいた。
当の理事長はというと、仕事があるので失せろと理事長室に引き籠ってしまった。
これではどうしようもないので、俺は担任教師の元へ向かった。担任は案外優しい人だった。更に、聞けば彼女は理事長の部下であり、俺の妹分ということだった。
……担任の教師から敬語で話され、挙句の果てに敬語は止めてほしいと言われてみろ。立場上それは拙いと、丁寧に説明しないとなかなか分かってもらえなかった。
そうしてようやく担任教師とホームルーム教室へとやって来た。
二年の教室は、昨年からの友人や新たに出来た友人達の集まりで賑(にぎ)わっていた。そんな中、授業を告げるチャイムと同時、担任の教師らしき人物が入ってくる。
生徒達はそれぞれの席へと戻り、担任が発言するのを待つ。
一年学園にいたからか、流石に私語をする者は誰もいない。
担任が出席簿を教卓に置き、黒板に名前を綴る。
「どうも始めまして。私は城端(しろはた)夕理恵といいます。今年赴任したばかりですが、皆さんが安心して生活出来るホームルーム作りをしていくので、よろしくお願いします」
夕理恵はおっとりとした声で言うと、綺麗な一礼をした。
最も、ホームルームの雰囲気作りはクラス委員長の仕事なのだが。
その時一人の女子生徒が手を挙げた。
「先生、それってクラス委員長の仕事じゃないんですか?」
言われ、夕理恵は動揺する。
「ええ!? ほ、本当だわ! 私ったら! あーもう恥ずかしい」
夕理恵は慌てふためき、恥ずかしさのあまり顔を隠してしまった。
その光景に生徒全員が笑う。
しかしいつまでも恥ずかしがっている訳にもいかないので、夕理恵は気を取り直してホームルームに戻る。
「ごほん。では、本題に入りましょう。今日よりこのクラスに編入生が来ます。どうぞ」
『編入生』という言葉に、クラスが騒めく。
その中、入り口から足を踏み入れる者がいた。
俺は城端……先生の合図で教室に入った。目を合わせたら騒がれそうなので、前を向いたまま黒板の前まで行く。
そして先ず黒板に名前を書き、自己紹介をする。
「編入生の風神真千です。よろしくお願いします」
告げると瞬時に、先程発言した女生徒が再び挙手した。
「先生! どうして風神君はこの学園に編入出来たんですか?」
その後も挙手する女生徒が増えた。
……収集つくのかこれ……?
「皆、まだホームルーム中よ」
先生の満面の笑みでの忠告に、クラス内が静まり返った。それ程までに理事長の弟子という肩書きが恐怖されているようだ。
皆先生とは初対面な筈なのに、言う事を聞くということは、先生がどんな人物かある程度知っているということなのだろう。
さっきからいなかった時のことを知っているかのように言っているが、知っている。何故なら先生が扉を閉め忘れていたので、話しが全部筒抜けだったからだ。
先生は静かになったのを確認すると、話しを続けた。
「風神君、君の席はあそこよ」
俺は言われた通り、後ろの扉の席、つまり入口側の最後尾の席に座った。
俺が落ち着くのを確認し、先生は発言し始める。
「今日は入学式だけだから、このホームルームが終わったらもう授業はないわ。明日からは普通に授業があるから忘れないでね。配布物なんだけど、説明のプリントが机の中に入ってると思うから、取り出して各自読んでおいてね」
そしてすぐチャイムが鳴る。他のクラスから席を立つ音が聞こえる。
「では、今日はここまでにします」
そう言うと、クラスの全員が解散した。
それと同時、クラスのほとんどが俺の所にやって来た。
囲まれ、質問攻めにされる。しかし俺にはそれに構っている余裕はない。先生に寮の部屋について訊くことがあるのだ。
「悪い、俺先生に用があるからまた明日な」
そう言って俺は先生を追い掛けた。
一年の教室ではホームルームが行われていた。
さっきはあの風神って人のことで驚いちゃったけど、私だけじゃなくて皆そうなんだ。皆が驚いていることなんだ。
風神真千のことを思い出すと胸がドキドキする。
……思い出すだけでも恥ずかしい……!
挙動不審だと思われたくないので先生の話に集中することにする。
「入学おめでとう。私が君達の担任となった四月一日(わたぬき)美夜子だ」
この先生は、確かさっきの入学式で司会してた人だ。まさかこの先生が私の担任になるなんて思ってもみなかった。
堅そうな先生だけど大丈夫かな?
美夜子の言葉は続く。
「移動に時間が掛かり過ぎたが為に、ホームルームの時間がもう数分しかない。一度しか言わないからよく聞いておくように。本日は入学式である為、このホームルームが終われば終了となる。一年だけ、まだ部屋に荷物が届いていない者の為に一週間は午前だけの授業となる。それと寮についてだが、入学前の資料にもあった通り、我が学園はシェアルームとなっている。各部屋四人ずつの割り振りになっている。何か質問のある者はいるか?」
教員がクラスを見渡す。すると、一名挙手をしている者がいた。
「何だ金沢?」
凛華ちゃんだった。何か気になる点があったかな?
「先生、シェアルームってどんな感じ何ですか? プライベートは保障されているんでしょうか?」
確かに。シェアルームと聞いて、どんな感じか想像が出来ない。もしかして四人一緒のベッドで寝るとか?
それではプライベートがないか。
「それについては問題ない。説明してもいいが、それより実際に見た方が分かりやすい。プライベートも各自の部屋がある。詳細は先程配布したプリントに書いてある。明日からの授業の詳細もそこに書いてあるから、各自一度は目を通しておくように」
美夜子が言い終わると同時、終了のチャイムが鳴る。
「それではこれでホームルームを終了する。私は職員室に向かう。用のある者は付いて来い」
やっと終わった。慣れるまでは少しゆっくりな授業カリキュラムでよかった。
それに凛華ちゃんが隣でよかった。
ホームルームが終わるなり、凛華ちゃんが私の席にやって来た。
「美空ちゃん部屋何号室?」
……そうだった。私の部屋番号いくつだろう?
私は部屋番号を確認する。
……えっと……三〇六号室だ。
「三〇六号室みたい。凛華ちゃんは何号室?」
「凄い! 私も三〇六号室なの」
この偶然は確かに凄い。だが私としてこれは嬉しい。
「ほんと偶然ね」
いきなりシェアルームなんて言われ、ルームメイトと仲良くなれるかどうか不安だったのだが、凛華ちゃんが一緒なら大丈夫そうだ。
「私一度部屋に行っておきたいんだけど、一緒に行ってみない?」
凛華が少し興奮気味に言う。
……それもいいかもしれない。私も一度部屋を見ておきたかったし。
「そうね。私も行ってみようかな」
私と凛華ちゃんは部屋へ向かった――
俺は先生を追って走った。そのおかげで寮の部屋について訊くことが出来た。
寮の部屋と言っても、記載ミスがあったという訳ではない。
……このままだと女子と同じ部屋になってしまう。
だから部屋をせめて黒姫姉さんと一緒にしてもらおうと思ったのだが、
「黒姫姉さん? ああ、理事長のことね。けど、この部屋割りにしたのは理事長だし、もし理事長に異議申し立てをするのなら覚悟が必要なのはせ……風神も分かっている筈よ」
と言われ、何も反論出来なかった。
それでどうしようか迷っていた時、
「やっと追いついたわ千!」
誰だろうと振り返る。
「あれ? 千守瑠(ちずる)じゃないか!」
そうだ。やっぱり千守瑠だ。
彼女は刄金千守瑠(はがねちずる)、小学生の頃まで一緒だった、いわゆる幼馴染というやつだ。
活発そうな体系に、あの頃と同じポニーテール。絶対にそうだ。
俺の予想は当たっていた。
「久しぶりね千。あんた全っ然変わってないわね」
「お前こそ、その呼び方変わってないな」
俺達はお互いの拳をぶつけた。昔やっていた挨拶だ。
「あら? 二人共知り合いなの?」
先生が俺達の関係について尋ねてきた。
「そうです。私達幼馴染なんです。小学校まで一緒で」
すると先生は満足そうな顔をした。
「そうなの! だったら助かったわ。刄金さんと同じ部屋だから、部屋に連れて行ってあげてもらえるかしら」
「「ええぇぇぇぇぇぇ!」」
そりゃ驚きもする。久々に再開した幼馴染と同じ部屋だとは思わなかった。
だがこれは好都合かもしれない。
千守瑠が来なかったらどうやって部屋に入っていいものか分からなかった。
千守瑠に先導してもらえるなら、道に迷うこともないし、うっかり着替えを覗くという事故も回避出来る。
俺達は顔を見合わせ、お互いに頷くと、千守瑠が先生の頼みに答えた。
「はい、分かりました。ほら千行くよ」
俺達は先生に一礼して部屋に向かった――
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