ある夜の酔っ払い

(三話目です。時系列は二話目のすこし後。…ですが実はこちらを先に書いているのでまーた色々と矛盾があります。流してください(笑)ある意味、一話と二話を繋ぐようなエピソードです)



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 オルダート・リーアウェールが寮の部屋へ帰ると、必ずと言っていいほど目にする光景がある。それは、彼のルームメイト、アルスロッド・カーシェがトレーニングをしている様子だ。


「……、ただいま」


「あ、おかえり」


 背中の半ばまである亜麻色の髪を高い位置で一つに括り、片手腕立て伏せをしているアルスロッドが顔を上げた。


「毎日ご苦労なこって」


「どーも。オルダもする?」


 オルダよりも明らかに細く白い腕一本で体重を支えながら、息も乱さずにアルスが返す。


「いーや、遠慮しとくよ」


 そうは答えたが、最近、自分よりも一回り小柄なアルスロッドに、このままでは腕力で追い抜かれかねないと危機感をつのらせているオルダートである。言い方は悪いかもしれないが、十六歳の男子としてはアルスは、細っこい。女子の好む言い方をすれば華奢である。


 しかし、薄暗い夕方の部屋の中、野郎二人で黙々と筋トレやっても虚しいだけのような気がして嫌だった。


 学校での付き合いの薄いアルスは、放課後も終るや否やさっさと帰ってしまう。大抵友人とだべったり遊んだりしてから帰ってくるオルダよりは一時間は早くアルスは帰り着き、ひとり黙々とトレーニングに励んでいるのだ。


「飯は?」


「まだ」


「食べに行こうぜ、クルトたちと食うんだ」


 クルト・ナイザスはオルダの入学以来の友人の一人で、ちょこまかとにぎやかなお調子者、その場の盛り上げ役といった人物である。オルダとアルスが同室になってから、単独行動のアルスをオルダが連れ回すため、アルスとも交流があった。


「今すぐ?」


「ああ。半に」


 あと十五分といったところか。オルダが着替えている間に残りの腕立ての回数を消化して、アルスロッドが立ち上がった。


「んじゃいこうぜ」


 二人は連れ立って離れの食堂へと向かった。






 その日のメニューは鮭のムニエルとコンソメスープ、ホウレン草のあえものにロールパンである。食事に必ずスープが付いてくるのはパンをひたすためだという説があるくらい硬くてボソボソしたパンを、オルダは真っ先にスープ皿に放り込んだ。一方アルスは先にあえものに手をつけ、パンは真面目に一口大にちぎっては、それでもそのまま食べる気がしないのか、スープをくぐらせてから口に入れている。


 並んだ二人の食べ方の対照性を見とがめたクルトが、面白そうに眉を上げた。


「オルダってさ、一応は旧貴族系の家だろ?」


 リーアウェール家はたしかにイエナ国建国以前からの旧家である。首都ケムニッツの一級地に建つ屋敷は年代物としての貫禄すら感じさせるものだ。


「んあ? 一応な」


 ふやけたパンをフォークにひっかけてかぶりつきながらオルダが答える。


「アルスは?」


「別に。グラーヌムの親戚ってだけで、何にもないけど?」


「でも、『カーシェ』っつったらうちの元首だよな」


 そうくちばしを挟んだのはクルトの隣に座るディーロという少年である。オルダ、クルト、ディーロの三人は大抵つるんでいた。


「ただの偶然」


 そっけなくアルスが答える。実はそうではないのだが、堂々と名乗れる状態に今はないのだ。


 得たりとばかりに頷いて、クルトがフォークで二人の皿を指し示した。


「だよな? なのに見ろよ、この作法の違い! オルダなんかパンをスープ皿にボチャンだぜ」


 一つ目のパンを平らげて二つ目と三つ目を一気にスープに投下したオルダと、鮭のムニエルをナイフで切り分けて口に運んでいたアルスが互いの皿を見やる。


「たしかに!」


 その様子をみたディーロが笑い出した。


「アルスの方が断然育ちがイイっぽい!」


「だよなあ! オルダってお育ちがよく見えねえよ」


 けたけたと笑っている二人を、不本意そうに一瞥して、オルダが無言で目の前のクルトの皿から、パンを一つかっさらった。斜めの位置にあるディーロのスープにそれを突っ込んで問答無用と一口で飲み込む。


「だあっ、何しやがる! 返せっ!」


 そうして今日もまた、食卓上におけるフォーク同士の攻防が始まった。不参加のアルスを除いては、全員が勝率三割といった所か。なかなか実力が伯仲しているらしい。






 にぎやかな夕食を終えてアルスは一人部屋に帰ると、浴室に入って汗を流した。オルダはクルトの部屋に立ち寄るとのことで、先に帰ることにしたのだ。


 体が温まると、風呂上りでも汗がふき出る季節である。長い髪を括り上げて、アルスは短パン、タンクトップの状態で飲み物を取り出しにすえつけの小さな冷蔵庫へと向かった。


 飲料水を瓶のまま飲む。水道も引かれてはいるが、飲みたい代物ではない。

栓を閉めかけたときに戸が開いてオルダが帰ってきた。アルスの手元をみやって手を伸ばす。


「俺にもくれ」


「自分の飲めよ」


 そう言って瓶を戻しがてら冷蔵庫をのぞいたアルスが、自分の物でない飲料を取り出して妙な顔をした。


「これ飲むの?」


 手にしているのは酒である。果汁の入った度数の低いものであるが、基本的に寮内での飲酒は禁止されているはずだ。


「おう。かしてくれ」


 嬉々としてそれを受け取って、オルダは栓を抜く。そのまま奥の共用のテーブルのところで飲み始めた。


「そういや電気くらいつけろよ」


 外の明かりの関係で、カーテンさえ閉めなければ物にぶつかることもない程度に室内は明るい。特に気にしていなかったアルスは電気をつけていなかった。


「ん」


 オルダがカーテンを閉めてアルスが灯りをつける。灯りと言ってもほの暗い白熱灯で、読み書きができるほどの明るさはない。そういったことをしようと思えば各自のデスクに電気スタンドがある。


 部屋の中央奥、窓の正面にあるテーブルに、窓に向かう形で小型のソファが置いてある。ソファのオルダの隣に座って、アルスが身を乗り出した。


「一口ちょうだい」


 外側の付き合いにおいては、何か自分から言い出す人種ではないアルスである。しかし、既に一年近く昼も夜も顔を合わせるオルダと、アルスの養い親の娘、エアカナ・グラーヌムに対しては多少違った態度を取る。


「自分の飲めよ」


「酒なんて持ってないし」


 すり寄ってきたアルスに驚いたようにオルダが返す。普段、多少最近は付き合いもよくなったとはいえ、くっついてくることなど間違ってもなかった相手である。

なおもめげずに食い下がるアルスに、仕方なさそうに言った。


「んじゃ金払え。六ルー五十リル」


「がめつ!」


「卸価格だ。俺の引き出しの一番下に入ってる。冷えてねえけど」


 ごそごそと本当にオルダのデスクの引き出しを漁り始めたアルスの背中に、オルダが声をかける。


「にしてもお前、酒なんか飲むのな」


 そういうタイプには見えなかったのだが。まさかアルスが酒類に目の色を変えるとは思いもよらなかったオルダである。


「自分飲んどいて何?」


 柑橘果汁のものを取り出してアルスがそれを横に振ってみせる。


「いや、お前が飲むと思わなかった。隠して損したな」


「結構好き。オルダこそ、良家の坊ちゃまだろ?」


 食堂でのネタを引きずったコメントにオルダが憤慨する。


「坊ちゃまじゃねえ、気味の悪い。関係ねえよ、家のことなんざ」


「うるさい親じゃないんだ」


 簡単な流し台からコップを取り出して氷を入れると、それに酒を注いでアルスがソファに戻ってきた。


「金」


「はいはい」


 もう一度席を立って財布を取ってくる。


「別に? 放任だったしな。まいどあり」


「ふうん、そんなに意外? 僕がお酒飲むの」


 普通学生の間は飲酒は禁止である。


「意外。それこそお前って良家のお坊ちゃま、優等生に見えるし」


「見えるだけだけどね」


 そう言って横でコップを傾けるアルスを、珍しいものを見る目でオルダは眺めた。彼から見ればアルスは、授業を受けているか、本を読んでいるか、筋トレをしているか、勉強をしているか、寝ているかのどれかしかない人物であった。もちろん成績も優秀である。


「へー。陰でなんかやってんのか? それとも昔悪だった?」


「うーん、昔、の方かな。中身的には変わってないつもりなんだけど」


「何やってたんだ?」


「売春」


 オルダがふき出した。あまりに突拍子もない返答である。なにか質の悪い冗談かとアルスのほうを見ても、特に表情に変化は見られない。


「それは……なんだ、異性相手か? それとも、その、同性?」


「成人男性」


「お前、そのテのネタは嫌いなんだと思ってたんだがな」


 外見的にアルスは非常にかわいらしい。それがあだとなってからかわれたことも危険な目に遭ったこともあるはずだ。黙々と体を鍛えているのはそういった状況を抜け出すためだとオルダは思っていたのだが。


「ネタ? 女装の趣味はないけど」


 常に穏やか、というよりは人付き合いの少ないアルスは、決してノリがいいとは思われていない。存外に力は強く、変な色気を起こした先輩が叩きのめされたという噂もあって、そういった話は禁句だと思われていた。


「それは……あー、お前の本意でなく?」


 少しその様子を想像してしまったオルダが赤面する。似合いすぎるだろう。


「いや? 別に。まあ財政事情もかなりあったけど」


 隣が仰け反っていることなど知らぬげに、嬉しそうに杯を重ねている。たちまち一本空けて、次をねだった。


「もう一本ちょうだい」


「おいおい……」


 勝手に引き出しに取りに行って、財布から金をよこす。


「まあいいけど。金はいいから今度買って来い。結構大変なんだぜ?」


「んー、でも僕が行って売ってもらえるかな」


「別に、制服着てなけりゃ大丈夫じゃねえ?」


「それならいいけど」


 やたらいつもと違うアルスにそれ以上何の話題を振ったらいいのか分からなくなって、オルダはぱくぱくと口を開閉する。どうやらアルコールが入ると、アルスは雰囲気がやわらかくなるらしい。酒に弱くはないようで、ほろ酔いといった様子で酒を舐めている。


 幸せそうにちびちびと飲むアルスは、ふんわりと体の力を抜いて前を見ている。その視線にもいつものような硬さはなく、伏せがちの睫毛が長く濃く影を落としていた。


 先程の話題に戻したくても、恐ろしくてそれもできないオルダは、自分も飲むことに専念するつもりで視線をカーテンへ投げた。唐突な爆弾発言で醒めた酔いが再びまわり始める。


 しかし一体どういう状況でそんなことをしていたのだろう、いや、そもそも本気で言っているのだろうか?


 つらつらとそんなことを考えながら瓶に口をつける。隣で何を思ったか、あげていた髪をアルスが下ろした。水滴が肩や腕を濡らす。


 背中に濡れた髪がくっつくのが嫌なのか、ソファに沈み込んだアルスは髪を背もたれにかけた。そのままの姿勢で更に飲む。


 いつもはガードが固く、容易に他人にくつろいだ所など見せないアルスが、とろけたような定まらない視線を前方へ投げているのを見て、つい、オルダは世迷言を吐いた。


「……、んなら、別に男にキスされたりとか、嫌じゃねえわけ?」


「うーん、相手による」


 どれほど馬鹿を言っても怒り出しそうにないアルスに、酔いも手伝って好奇心が恐怖心を駆逐した。


「じゃあ、俺がしたら?」


 自慢ではないが恋愛経験は十六歳男子として標準的な程度にはある。いずれも対象は女性だが。かまわないと言われても錯乱するだろうが、男が平気だと言っている相手に嫌だといわれるほど、顔も性格も悪いつもりはなかった。


「いいよ、べつに」


 したいならどうぞ、とばかりに見上げてくる。薄暗い中で顔だけ見れば、そこいらの女子よりも数段美しい。相手も十六歳の男子だと酔っ払った頭で把握していた所で、大した抑止力にはならない程度に、アルスロッド・カーシェは美少年というやつだった。しかも髪は長く、今に限っては表情も柔らかい。


 もしもオルダがしらふなら、アルスが酔っているということにも、今のオルダの発想がネジの一本外れたものだということにも気づいたはずである。アルスがしらふなら、おそらくオルダの心中を読み取ってからかったに違いない。


 だが不幸なことに、このとき二人ともアルコールのせいでネジが緩んでいた。


 最後の一口を飲み干して、瓶をテーブルの上に置いたオルダが、ゆっくりとアルスにかぶさった。そっと降らすように唇を重ねる。


 何を思ったかその首に、アルスが片腕を回して引き寄せた。もう片方の腕はテーブルへと伸びてコップを静かに置く。


 目を見開き何か言おうとするオルダにアルスが侵入した。そのまま背もたれから斜めにずり落ちるようにしてソファに横になると、積極的にオルダを誘う。 

 数秒、そのままの状態で二人は舌を絡めあっていた。


 訳の分からないままアルスに絡め取られて、覆いかぶさった状態でくちづけていたオルダが、唐突にばね仕掛けの人形のように跳ね起きた。どうやら正気に戻ったらしい。


「な、な、な、な、なっ!」


 真っ赤になって口に袖口をあてるオルダに、ちらりと失望の色をみせたアルスが起き上がる。


「なにしやがる!」


「自分からだろ?」


 起き上がってきたアルスは、オルダのまったく知らない人物のようであった。


 乱れた長い髪にいろどられた微笑は妖艶で、流れるような仕草は遊女顔負けの色香を漂わせる。いや、オルダは実際の遊女になどお目にかかったこともないのだが。


 あまりの事態に凍結しているオルダを楽しそうに見やり、今度はアルスがくちづける。同時にそのなめらかな指がオルダのほほを辿り、首筋へと降りて襟へとかかった。


 ――こいつっ、マジで慣れてやがるっ――!


 やっとの思いでアルスの剥き出しの肩をつかんで引き剥がすと、喉の奥から声を絞り出した。


「俺を、襲う気かよっ!?」


「だめ?」


 無邪気に首を傾げてみせる。騙されるものか、とオルダは心中で声を張り上げた。今日ほど目の前の相棒が怖かったことはない。襲われる側の恐怖がちょっぴり分かった気がした。


「駄目っ!」


「男はダメなの?」


「そーいう問題かっ!」


「心配しなくてもオルダに女役をやらせるつもりはないんだけど」


 あまりに直接的な言葉にめまいすら覚えながら、何とかその場から逃げるべくオルダは立ち上がった。


「風呂に、入ってくるっ」


 それだけ言うと、アルスの顔を見ないまま、オルダは脱衣場に駆け込んだ。


 浴室に入ると、オルダは真っ先にシャワーを全開にして冷水を頭からかぶった。


 とりあえず動悸とほてりをとって頭を冷やさねばならない。アルスに言い寄られて何が一番恐ろしかったといって、何より自分がかなりその気になりかけたことである。


 唇に残るやわらかく湿った感触、扇情的に自分を辿る指の感覚。間近に迫った白い首筋、濡れて芳香を放つ長い髪。


 様々なものがフラッシュバックしてきてシャワー程度ではどうにもなりそうにない。


「ったく、何しやがんだ……。何考えてんだよ……」


 豹変した相棒を呪いつつ、目の前の鏡に頭突きをかます。


 ごん、と派手な音をたてて頭をぶつけたまま、しばらくオルダは静止していた。

 何よりも問題なのは、既に体の芯が熱く疼いていて、それを冷ます手だてが見つからないことであった。






 オルダに逃げられて、しばらくそのままほうけていたアルスは、浴室からの激しい水音を聞きながらばったりと後ろに倒れた。


「……あれえ? かなり酔ってるか、もしかして」


 エアカナ・グラーヌムがこの場にいたら、「完っ全な酔っ払いじゃない!」と突っ込んだことであろう。普段押さえ込んでいる情欲がアルコールと共に体と頭の大半を占領していた。


 そんなに簡単に酔うとは思っていなかったため、随分と無思慮なことをしたような気がする。


 久しぶりに他人に触れた気がする。昔は毎晩、何人もの相手と肌を合わせていたのに、普通の生活というやつは、こうも触れる機会のないものなのか。


 そんな妙なことに感心しながらアルスは、ただぼんやり暗いオレンジ色の照明を眺めていた。少し冷静になってみれば、これから先のオルダとの付き合いの長さとその深さを考えると、一夜のアヤマチなどという馬鹿げたものは害にしかならないと分かる。


 この先、士官学校を卒業するまで実技訓練などはほぼ全てオルダと一緒である。イエナの中枢を管理するスーパーコンピュータ、セラ・ディアナルーンが選定した最も作業能率のいい組み合わせ、それが訓練、寝食を共にしていくのが、イエナの士官学校の基本であるからだ。


 ごん、という音が浴室から聞こえてきた。どこかにぶつかったのか、頭突きでもしたのか。頭突きならもしかして脈アリなのか、と馬鹿なことを考えて首を振る。


「だめだ……おさまらないし。どうしたもんかな?」


 いっそのこと酔いつぶれてしまえば寝られるかもしれない。このまま布団に入ったところで寝られそうもない。それよりも単語でも覚えるだろうか。しかし実際に彼がとった行動は、瓶の残りの酒をコップにあけて飲み干す、というものだった。







 いい加減体が冷え切ったためシャワーを温水に切り替えて、オルダは体を洗った。なんとかおかしな衝動がおさまったとみて、体を温めて浴室を出る。


 寝間着代わりの半そでTシャツと半パンを着て、なんとなくこっそり脱衣場の戸を開けた。薄暗い室内にスタンドのあかりは灯っておらず、アルスのベッドも空だった。


 もしやと思ってソファをのぞくと、アルスがすうすうと寝息をたてている。


「……このやろう……」


 少し腹が立った。何能天気な顔で寝ているのか、こいつは。


「おいこら、起きろ。そこで寝ると風邪引くぞ」


 酔いつぶれているのか起きる気配がない。濡れた髪も肩も冷え切っている。放っておけば間違いなく、馬鹿の引く風邪を引くだろう。


「おら、起きて髪をなんとかして、てめえの布団で寝ろ。起きろっつーんだよ!」


 乱暴に揺すると嫌がるように身じろく。まったく、見れば見るほどかわいらしいが、既に正気に戻っているため、襲いたいというより頬をつねってやりたい衝動に駆られるオルダである。


「んー……」


 本当に両手で顔を横に引き伸ばしてやろうかと考えていると、アルスが薄目を開けた。


「寝るなら自分とこで寝ろ」


 そういって腕をつかんで引き起こす。まだ半覚醒の状態でアルスが焦点の合わない目をオルダに向ける。そのまま腕を上げて抱きついてきた。


「この、酔っ払いがっ!」


 色沙汰うんぬんというよりも猫が懐くようにすり寄ってくるアルスに、邪険に払いのけることもできずオルダは、仕方なくそのまま抱えてアルスのベッドまで運んだ。ベッドに着地してもまだしがみついているアルスに、オルダは困惑する。


「俺は抱き枕か」


 二度とこいつに酒など飲ませまいと固く決意して、オルダはそのまま、自分たちの上に布団をかぶせて寝てしまうことにした。多少どこか痛くなりそうな気もしたが、そうなれば湿布代は相手持ちだ。


 この時、同級生相手にまるで、幼子のように抱きつくアルスロッド・カーシェの過去を色々と憶測したオルダート・リーアウェールが、本人の口からその真相、ある意味壮絶な生い立ちをきくのはもう少し後のことである。そして、アルスロッドが実は、人前では酒にめっぽう強く、全く乱れないと知るのもかなり後のこととなる。





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十年も前に書いたはずなのに、全くブレてない。ウチのBLCPの基本形です。

飲酒ネタは番外編のド定番ですよね!

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深夜、爪を磨く 歌峰由子 @althlod

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