先輩と後輩
YUYU
第1話
先輩と後輩
桜が舞い散る、この季節。
生徒会室には部活動の連中の声と吹奏楽の演奏が響き渡る。
受験に合格した俺は、やりのこしていた書類等に目を通していると、
「はい、先輩紅茶です」
1つ年下の後輩、矢倉彩希が差し出してくれたカップにはほんのりと湯気が立っている紅茶を受け取る。
「ありがとう」
とお礼を言う。
矢倉は、自分のカップを持って隣に座る。
いつも紅茶を飲むときは二人で飲む。
「先輩とこうして一緒に飲むのも、あと数日しかないんですよね」
矢倉はそんなことを呟く。
「そうだな卒業したらここに来ることはないからな俺は」
自分でも素っ気ないなと思いながらもそう返してしまう。
その時、
「私不安なんです」
突然、矢倉は声を出す。
「何が」
「先輩が卒業してしまったら私は先輩みたいに上手くやっていけるかどうか」
紅茶にそえているカップの手を震えながら言う矢倉に俺は、そっと手のひらを乗せる。矢倉は一瞬驚き、ほんのり顔を赤める。
「ちょ、先輩何してんですか」
「お前はもっと自信を持て」
俺の言葉に、足をじたばたしていた矢倉は動きを止める。
「お前が生徒会に入ってきた時のことはよく覚えてる。泣き虫で人前に立つのでさえ嫌だったお前は、そんな自分が嫌で変えたいがために入部して俺の後輩になった」
俺は矢倉を見つめる。
「そして、お前は俺の隣に立って精一杯頑張ってきたじゃないか」
矢倉の目にはみるみる涙が浮かぶ。
「自信を持てよ新生徒会長、矢倉彩希」
俺の言葉に矢倉は涙を流しながら、
「はい」
と答える。
顔を上げた矢倉にはもう不安の面影も残っていない。強い意志が感じられる。いつもの俺が知っている矢倉の顔だった。
「それじゃ、先輩先に失礼します」
満面の笑顔を浮かべながら失礼する矢倉に、俺は手をふる。
これでもうあいつは、大丈夫だろう。
「さて、俺ももう一踏ん張りしますか」
俺はそう呟く。
あの日から数日がたち。
卒業式。
「卒業生答辞。卒業生代表、荒木隆次」
「はい」
さて、最後の仕事だ。
俺はゆっくり壇上に上がっていき、辞表を読み始める。
卒業式が終わると、俺は生徒会室の前まできている。
扉に手を伸ばしノックする。
三回ノックすると。
「どうぞー」
という声が聞こえる。
「久しぶりだな」
俺は扉を開けながら、生徒会長の席に座る矢倉に声をかけた。
「そうですねー、先輩が色々と準備で忙しかったので」
「まぁな。大学の手続きとかしてたからな」
俺は近くにある椅子に座る。
ここには、矢倉と色んなことをやったな、俺の脳内にはその思い出が走馬灯のように巡る。
「ところでお前はどこの大学に行こうとしているわけ」
俺はなにげなく聞く。
「先輩と同じ大学に行こうと思ってます」
俺は驚く。
「何でだよ」
「先輩と通えたら、楽しいからです」
矢倉は笑みをこぼしながらそんなことを言うので、俺は思わず明後日の方角に向く。
「でも、あそこは難関だろう大丈夫か勉強」
「問題ありません」
そうかと俺は立ち上がる。
矢倉も立ち上がる。
そして、
「ご卒業おめでとうございます
荒木先輩」
矢倉は言葉を発す。
「じゃー今日は先輩の新たなる門出に誓って一緒に帰りましょう」
「分かった」
俺たちは二人で学校を後にした。
先輩と後輩 YUYU @YUYU
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