第9話

「と言いますと、加藤沙夜はそちらの世界にしばらく滞在する、という認識でよろしいのでしょうか……?」


 冷や汗をかきながら、役人が京介に問いかける。魔界に日本国民が長期的に滞在するなど、前代未聞の大事件だ。


「いえ、完全な移住ではありません。今の学校を卒業するまでは学校に通いたいというのが本人の希望です。したがって平日は今まで通り学校に通うことになります。なので彼女は卒業まで二つの世界を行ったり来たりすることになりますね」


 うろたえながら「しかしですねぇ……」と反論しようとする役人に対し京介は、

「私だけでも彼女の意思を尊重したいのです。それは魔界の王も承諾してくれました。私の役に立ちたい、そう本人が言ってますので、私はなるべくそれを叶えてあげたいのです」

そう毅然と言い放った。


 そう言われてしまっては、役人も引き下がる他なかった。自分たちが沙夜の意思を無視同然にして、ここへ連れてきた負い目もあるのかもしれない。


 そんな冷え切った部屋の空気を打ち破るように、

「お待たせしました!」

と制服姿の沙夜が駆けていく。その顔は花が綻んだかのような明るい笑顔だった。

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魔界の門番はじめました 降川雲 @fulukawa_1

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