第8話-後
京介は初めて彼女と出会った時のことを思い出していた。そうあの時も、沙夜は全ての感情を殺したかのような姿で立っていたのだ。京介の我慢が限界を超えた。
「君は、本当にそれでいいのかい!?」
肩をつかんで揺さぶるように激しい口調で問いたてる。ここでようやく沙夜が顔を上げた。やはり緊張で青ざめた顔をしていた。
「だって私には……こうするより他に無いですから……」
京介は沙夜がこの屋敷に初めて来たときのことを思い返していた。そういえば共に過ごした二週間の間、沙夜は役人に連れられて、以前のように登校していたのだ。しかし学校から帰った沙夜の表情は緊張なのか硬直しきっており、見ている側の京介の心が痛んだ。
京介はそれまでの厳しい口調から一転、優しげな声色で、
「僕は君にこの役目を押し付ける気なんて毛頭ないんだ。だから君の意思を、僕は尊重したい」
そう語りかけ、沙夜の答えを待った。
自分の意思を尊重したいという京介の思いに背中を押されたのか、か細い声で「私は……」と絞りだした後、感情の蓋が取れたかのように、
「私は、誰かに必要とされたい! 今まで私は親の事で遠巻きにされるだけで友達もいなくて……でも京介さんは私の意思を尊重したいと言ってくれた! だから私も京介さんから必要とされる存在でありたい!」
最初はか弱い口調だったが、沙夜の気持ちを反映するかのように声の大きさも大きくなり、言葉に確かな意思をみなぎらせていた。沙夜の言葉が、この場を圧倒していた。
それに京介は驚きと困惑を隠せない様子だった。自分の役に立ちたいという思いがこれほどまで心を揺さぶられるなんて考えもしなかったこともあるだろう。そんな京介を見ながら魔界の王は肩をすくめて、
「ずいぶんと好かれたようじゃな、京介」
と茶目っ気たっぷりに言葉を投げかけたのだった。
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