社会に出て何年か経つと、厳しい現実に打ちのめされ「すべてに行き詰まった感」を抱えてしまうことがあります。私もそういう経験があります。そして、この物語の主人公もその一人。不運な境遇に意気消沈する彼は、妙な声が聞こえてきても、驚くどころか、「自分が壊れてしまった」と嘆くほど。
しかし、声の主である通称「ぶーねこ」は、「壊れているのはこの世界」という意味深な言葉を発して、主人公を猫に変え、「ちょぼっと昔の世界」へと連れて行きます。そこは、既視感のある、しかし、確かに何かが「壊れている」世界。壊れている世界で生きる幼い少女と出会った主人公は、彼女に安らぎを与えたいと切に願うようになりますが…。
やがて、読み手は主人公とともに「ぶーねこ」の言葉の意味を知ることになります。「壊れている世界」が、「幼い少女」が、リアルの何を象徴しているのか分かった時、そして、意気消沈していた主人公が猫としてできることを精一杯やり遂げた姿を見届けた時、リアルの世界でぼんやりしている自分は何をしたらいいのだろう、と考えずにはいられません。
メッセージ性の強い作品ですが、「猫」というアイテムを使いファンタジー童話として書かれているため、かえって自然と物語世界に入っていくことができ、作品の言わんとするところを素直に受け止めることができます。作中でも「ぶーねこ」が「猫は何かと都合がよいから……」と語っていますが、まさに言い得て妙なセリフです。