第5話 また来週も押入れへ
初めての場所はワクワクするけど、帰りのことをきちんと考えておかないと大変なことになるとわたしは改めて実感しています。
朝ごはんの時間までに家に帰らないと家族が心配する!
この危機を脱出するためには・・・
「ルネさん、送ってください」
素直に頭を下げるのが吉。
「言ってくると思った」
あなたさっきからわたしの行動予測しすぎじゃない?
それ言ったら送ってくれなくなりそうだから言わないけど。
「送り方はなんでもいい?」
何だその聞き方は。怖い予感しかしないぞ。
「速ければなんでもいいかもしれないけど怖いのはいやだ」
「わがままだな」
わがままかこの注文。わがままなのか。
「高いところ平気か?」
「平気だけど」
猛烈にいやな予感しかしない。さっきよりもはっきりといやな予感しかしない!
「じゃ、我慢しろよ」
いうやいなやルネさんはわたしをひょいと抱きかかえた。
抱きかかえた?
「顔が近い!」
ルネさんの顔を手で押す。
「我慢しろって。置いていくぞ」
すんません。
置いていかれたら困るので大人しくすることにした。
「首に腕まわせ。ちゃんと捕まっとけよ」
「うぅ~、顔が近いぃ~」
「あーはいはい」
ルネさんの背中からばっさあと羽が出てきた。
羽いいな。わたしも欲しいわ。
何度かばさばささせてから、ルネさんは大きく地面を蹴って飛んだ。
みるみる地面が遠ざかっていく。
ルネさんが飛んでいるところは何度も見たことがあるけれど、一緒に飛ぶのは初めてだ。
「えーと、どっちだったっけな」
「ルネさんも迷子とか本当にやめてよ。帰れなくなる」
そしてそれはとても困る。
「わかってるって」
こっちだなと軽く方向転換をしてからスーっと飛んでいく。
こういうとき下を見て怖くなるのがかわいい反応なんだろうけどあいにくわたしはかわいさとは無縁なので、下を見ても模型みたいで面白いなーとしか思わなかった。
人がちっさく見えるときってこういいたくなるよね。
「見ろ、人がゴミのようだ」
「急にどうした」
「アニメのセリフ」
「ふーん。もう着くぞ」
さすがに速いですね。
着いた先はネコの大将の店の前だった。
助かった。
「ルネさんありがとー」
「どういたしまして」
じゃ、帰るとしますか。
「またね」
「おう、じゃあな」
軽く手をあげてわたしは元の世界に帰るべく最初の場所を目指して歩き出した。
そして。
そっと押入れを開けて自分の部屋に帰ってきた。
「お風呂入ろ」
簡単にシャワーだけ浴びた。
その後家族と朝ごはんを食べて、自分の部屋にこもってゲームしようと思ったんだけど・・・
なんでああいう中世ヨーロッパの町並みに河童がいたのか今さらだけどすごく気になってきてしまった。
え、もしかして純和風な町とか中華な町もあったりするのかな。
その中に悪魔とか天使とかそんな人がいたり?
だめだ、考えただけでおもしろい。
来週言ったときに大将かルネさんに聞いてみるか。
さて、まずはソシャゲの体力消費と石が溜まったから昨日課金してでなかったお目当てのカードを出すべくガチャをまわしてっと。
!?
嘘でしょ。
限定SSRが3枚きた。
今回運出し切ってしまったかもしれない。
そしてニヤニヤが止まらない週末を過ごしたわたしは月曜日のバスでまたもニヤニヤして千穂に「気持ち悪い」と一刀両断されましたとさ。
押し入れのファンタジー 白石王 @shiraishi-o
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