第7話 そんな異世界、俺は絶対に許さない
***
「ねえねえ、聞いた!? あの異世界の話。あの世界に足を踏み入れたが最後。建物の中からすでに人間にのみ聞く暗示を掛けていて入り口の扉を開けた瞬間に意識がぷっつり。それからゆっくり人間の感情を根こそぎ奪う魔法を掛けていたんだって。そりゃそうだよね、感情無くなっちゃえば、後は入ってくるだけだもんね。あの不思議な感覚は別に幸福になったわけじゃあなかったのかぁ。天利君も異世界行ったんだよね?」
ああ。根こそぎやられたよ。
「そっかー、そうだよねー。いやはやほんとびっくり」
異世界人の幻術を見破る方法はとても簡単で、すぐに思いつくほどであった。だがそれは相手のからくりを知っているからこそできることで、知らなければ根こそぎやられるしかないのである。上級者に挑む者の多くはこの違和感に気づいたからこそ、あれだけの装備で身を固めていたのだ。だがそんなことをする必要はなかった。相手は人間に疑似的甲府間を与えて質の良い大量の感情を手にしたかっただけなのだから。その感情を元にエモとかいう魔法を作り出したかっただけなのだから。ならば幸福にならなければいい。持ち前の世界の果てにしか住めないような感性を発揮して、最低に陰湿に下方修正していけば幻術はあっという間に解けてしまう。幸福の異世界など存在しない。そこにあるのは汚れた手で高みによじ登ろうとする王とその家臣だけ。異世界の王の前に仁王立ちし、その姿を同じ地面の高さで謁見することはこんなにも簡単だったのだ。一人の名も知れぬ人間が幻術に一切かからずに起き上がった時、そこには異世界人がコントロールすることのできない感情そのものがその人間の中にあることになる。彼らが使えるのはあくまでも変化させたエモだけ。感情そのものに対抗するすべはない。だからお見舞いしてやったのさ。
夢から覚めてしまえば人間というのはとても残酷なもので、すぐに異世界に好意を示すことはなくなった。しかしそれで異世界そのものがなくなったわけではなく、未だ人間お科学で完全には説明できない現象は残り続けており、そこには今回の騒動の発端である異世界の王も生きている。彼の処遇に関してはこれから議論されるのだそう。めでたしめでたし。
……そうなればよかったのだが、一番恐ろしく醜いのはやはり人間であることを俺はその数日後に痛感することになる。俺の前の世界の同級生の彼女はくるりと顔の向きをこちらに向けて誇らしげな笑顔でこう話しかけてきた。
「天利くん、天利くん。超能力者になれる異世界の話聞いた?」
なんだ、それは。俺はそんな異世界絶対許さないぞ?
了
そんな異世界、俺は絶対に許さない 小鳥遊咲季真【タカナシ・サイマ】 @takanashi_saima
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