第9話カフェでランチを
(何なんだよ、この状況は!)
先日誠人は、土曜日にご飯でも食べに行かないかと、亮から誘いを受けたのだ。亮と二人でご飯を食べるかと思いきや、亮は女子をひとり連れてきたのである。
これはどういう事か、説明をしてもらわなアカンで! ってことで、亮を問い詰めた。
で………
「いやー、それで來未ちゃんと意気投合しちゃってよぉ! あの後何回か飲みいったりして、俺らは付き合ったってわけよ! 」
「「ねーっ」」
「……左様ですか……では、お幸せに!!」
亮と來未がイチャイチャしているのを、我慢して見ているのにも限界が来た。代金だけ置いて、さっさと帰ろうとすると
「ちょっと待て待て、まだ話は終わってないって!」
「はぁ、まだなんかあるのかよ……」
「んで、誠人はあの後、高橋さん送っていってどうなったん? 何もなかったってのは、なしやぞ? 」
「何も無かったよ! 強いて言うなら連絡先を交換したよ」
「「「………」」」
「帰る」
「まてまて待て! お前がこの前LINEで聞いてきた返事! 來未の口から直接聞かせてやろうと思って連れてきたんだよ!」
ハッとする誠人は、渋々席に着く。
「で、そ、その、どうでしたでしょうか?」
「何それうける。何テンパッてんのよ」
浅田 來未さんは、顔を赤くしてテンパってる誠人をみてケラケラと笑っている。
「で、返事なんだけど……」
ゴクリッ
「脈アリみたいよ」
「ほ、ほんとか! 神様、仏様、來未様! なんまんだーなんまんだー」
「ふふっ、よく分かんないけど、まぁ頑張んなさいよ!」
自分でもいけそうだなとは、薄々感じてたんだが、こう他人の口から脈アリと言われると、そりゃあ嬉しいに決まってる。
「で?告白はいつするの?」
「よーし、じゃ誠人今度ある花火大会で告白しよう! 決定な」
「ストーップ! 今度の花火大会って七月の終わりのか? 早すぎるだろ!? まだ、出会って1ヶ月しか経ってないんだぞ?」
「チッチッチッ、誠人そうやって奥手になってると、他の男に取られちゃうぞ」
「海めっちゃ可愛いからねー。他の男に取られる可能性は、かなり高いよね~」
「ぐぬぬ、でも…」
「往生際が悪いっ! ぺしっ!」
急遽、次の花火大会で坂井 誠人は高橋さんに告白することが決まったのである!
「あっ、そういえば……前々から気になってたことがあるんだが、相談に乗ってくれないか?」
「まぁ、話してみ」
亮も來未も頷いてくれたので、了承の意と捉えた。
「実は合コンの時に、高橋さんから俺のことをまさくんって呼ばれたんだよ。その時さ、ふと違和感の様なものを、感じたんだよね」
「あー、そういえばまさくんっまさくんって、合コンの時ベタベタしてたね」
「誠人の記憶にない、昔の幼馴染とか?」
亮が幼なじみの可能性を示唆してきたが、誠人もその可能性は考えていたのである。
「いや、俺もその可能性を考えたんだけどさ、俺小さい頃は都会じゃなくて、田んぼと畑しかない田舎に暮らしていたんだよな」
「そうね、海はずっと昔からここに居るみたいだよ。大学の時に海の幼なじみ達から、聞いたことある」
「だよなぁ……」
うーんと唸る3人は、アレコレ考えては、その可能性は有り得ないという結論に至っていた。
結論の出ないまま、今日はお開きということになったのである。
◇ ◇ ◇
誠人は帰りに、食材や日用品など補充するために近くのショッピングモールに来ていた。土曜日ということもあって、多くのお客さんで賑わっている。
食材売り場で、今晩のどれにしようかと考えていたところ、高橋さんが横から顔を覗くように、声をかけてきたのである。
「まさくんっ! こんばんわ」
「た、高橋さん!? こ、こんばんわ」
「ちょっと、ビックリしすぎ! こっちまでビックリしたじゃない」
「ごめん……それより、高橋さんも晩御飯の買い物ですか?」
「まぁね、まさくんもでしょ? 良かったら一緒に食べない?」
「是非!」
「じゃ、何作ろうかー」
「高橋さんのオススメメニューで!」
「そうねぇ……じゃあ、パスタにしましょう!」
そう言うと、誠人と高橋さんは、パスタの麺、ベーコン、ガーリックとサラダ用の野菜を、いくつか購入したのである。
「ねねー、まさくんはどっち派?」
そう言って高橋さんが見せてきたのは、赤ワインと白ワインだった。
「高橋さんが決めていいよー」
「じゃあ、せーので!」
「「白!」」
「だよな!」
「さっすがまさくん! 気が合うー!」
高橋さんに、肘で脇腹をちょいちょい、とつつかれる誠人、なんとも幸せそうな顔をしているのであった。
レジで会計を済ませて、2人は誠人の家へと向かう。
◇ ◇ ◇
包丁で野菜を刻むリズム、グツグツとパスタが茹でられてる音、そして赤のエプロンを付けて料理をしている美女。誠人は三つが織り成す、見事な調和に見とれていた。
「絵になるな~」
独り言をボソボソと呟いていると、盛り付けが終わり、高橋さんがパスタを運んできたのである。
「お待たせ~、何ぼーっとしてんの? お腹すいたし食べよっ?」
「お、おう! うわっ超美味そうじゃん!高橋さん料理もできるとか、マジ尊敬します!」
「まーね! 伊達に長年やってるからね」
パスタの上にはカリカリのベーコンが乗ってる。また、にんにくの香りが漂い、誠人の食欲をそそるった。
「上手い……」
「ありがとっ」
ニコニコしながら、高橋さんは器用にパスタをクルクルと巻いて、上品に食べている。
誠人もパスタをモグモグと食べていると、カフェで亮と來未に、花火大会で告白って言われたことを、ふと思い出したのである。
「あの、高橋さん」
「んー?なに」
「もし良かったら、今度ある花火大会、一緒に行きませんか?」
「そっか………うん」
高橋さんはとても嬉しそうに、どこか悲しそうに、誠人の誘いを受けた。
(あれ? 一緒に行くことが決まって素直に嬉しい。高橋さんも嬉しそうにしていた。でも……高橋さんの目が悲しそうにしていたのは、どういう事だ……)
誠人の心にまた引っかかったものがあった。
100回目に迎える冬はどんな味だろうか? 社畜の歌姫 @utahimeYM
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