第8話一筋の流れ星

「あ〜楽しかったねっ」


「お、おう……」


 気になっていた映画を見終えた高橋さんは、いつにもに増して、上機嫌である。まぁ、高橋さんが楽しんでくれたから、文句無しの映画作戦は大成功だ!


 しかし、誠人はというと……


 ホラー系がかなり苦手だったので、途中からほとんど内容が頭に入ってこなかった。

 疲労感をあらわにしている誠人をみて、高橋さんは手を口に当ててクスクスと笑っている。


「まさくんがホラー系苦手なんて……」


「ん?」


「んーん、何でもないっ」


 高橋さんは小声でボソボソとなにか喋ったようだが誠人の耳にまでは届かなかった。


「んーじゃあ、カフェでも行って少し休む? それとも、まさくんがどこか連れてってくれる? 」


 高橋さんは豊かな胸の前で、一つの選択肢を提案すると同時にピーンっと、人差し指を空に向かって立てた。


「カフェでお願いします」


 実は今日のために、高橋さんが喜びそうな場所を、いくつかピックアップして準備していたのだが、今の誠人には少し厳しかったようだ。


 映画館の近くのカフェに入ると、コーヒーの独特な香りが店内に広がっており、オレンジの照明が程疲れを癒してくれそうな、憩いの空間であった。


「んー、じゃ抹茶フラペチーノを一つ。まさくん何飲む?」


「じゃ、同じのをもう一つお願いします……」


「はい、かしこまりました。抹茶フラペチーノ2つ入りましたー! では、あちらでお待ちください」


 注文が終わると、店員さんにカウンター横の受け取りコーナーに勧められた。待つこと2~3分ほどで注文の品を受け取り空いてる席へと腰をかけた。


 おしゃべりしながら時間を潰し、誠人が元気になったところで、ウインドウショッピングをすることになった。もちろん、ショッピングなんて、誠人のプランに入っていない。


 人気のセレクトショップに入ると、高橋さんが誠人の服をチョイスしてくれた。しかし、誠人がいつも選ぶようなものではなく、ビビットカラーのパンツなど、派手目のものを高橋さんは選んだのだ。


 正直、これを着るのは抵抗がある。


 自分では似合わないと思っていても、高橋さん目線からだと似合ってるらしいのだ。高橋さんチョイスなら、まず間違いないと思う。


 予約していた時間まで、店内をあちこち見て周る。2人で回るといつもとは全然違うのだ。1人の時よりも視野が広く感じる。そして、何より楽しい。1人だと欲しいものに、一直線で向かうのは普通だろう。しかし、女子がいると普通男子が行かないような店にも立ち寄るのだ。新鮮なのは当然だった。


「高橋さん、そろそろ夕食にしない? オススメの店予約しておいたんだっ」


「行こういこう! で、どんな店なの?」


「行ってからのお楽しみってことで」


◇ ◇ ◇


「いらっしゃいませ〜」


「予約していた坂井です」


「ご案内します」


 そう言って2人が案内された席は、二人用の和室だった。部屋には一つの円形の窓があり、床の間には初夏を彩るアジサイやユリなど青と白のコントラストが見ている者を、涼しくさせてくれる。


「すごい落ち着くね。まさくんよくこんな所知ってたね」


「だろ? 内装だけじゃなく料理も美味しいんだよ」


 そんなことを話していると、店員さんが和食を運んでくる。 赤と白の刺身や伊勢エビ、黄色の卵焼き、ふとキノコの入ったお吸い物など、色とりどりでとても美味しそうである。


「うわー、きれい……」


「ささ、お腹も空いたし食べようか」


「「いただきます」」


 高橋さんは一品一品、目を輝かせながら口に運び、とても美味しそうに食べてくれるのだ。誠人は食べる女子が好きなので、とても満足する。


 最後のデザートに、白玉抹茶アイス〜抹茶わらび餅添え〜が出てきた。抹茶好きにはたまらない一品だろう。カフェで高橋さんは抹茶フラペチーノを頼んでいたので好きなはずだ。


 いままで一番大きなリアクションを貰えて、誠人は内心ガッツポーズだ。


「うっわ~、なにこれ!  これ食べたら死んでもいいや」


「高橋さん大袈裟すぎっ」


 笑いながら突っ込むと、高橋さんも笑って返した。でも、でも、表情は笑っていたが、顔は本気だった。


「「ごちそうさま」」


「いやー、まさくん、ごちそうさま! こんなに美味しい店初めてだよ」


「また今度行こうや」


「うん、約束だよっ」


 店を出る頃には当たりはすっかり暗くなって、夜空には星が瞬いている。


「ねね、ちょっと近くの公園にでも行かない?」


「ん? 良いけど」


 公園まで来ると近くのベンチに二人で腰を下ろした。高橋さんは、空を見上げたまま黙っている。誠人も釣られて星空を見ていると、夜空に一筋の光が走った。


「高橋さんっ、今流れ星が……」


 横を向いた誠人の目には、一筋の涙が頬を伝う高橋さんが映った。


「うん、流れたね」


「あ、あの、それより……」


「んーん、何でもない。大丈夫だよ」


 そう言うと、さっきまで涙を流していた顔は、嘘のようなニッコリとした笑顔に変わっていた………

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