火の無いところに煙はなんとやら
高水慶
第1話
これはある友人の話です。
ー私はあの夢の事を恐らく一生忘れないと思います。私は結構霊感が強いのか、白いモヤモヤした奴や丸いナニカが横切るのをしばしば見かけます。慣れているので特になんとも思いませんが、あの公園の側を通る時はいつも身構えて用心しています。
別に、その場で何かが見えるわけでは無いのですが、お守りを持たずにそこを通ると必ず悪夢を見るのです。日頃おやすみ3秒で夢すら見ない私が夢を見るのです。その中でも一等恐ろしかったのは、やはり最初の小学2年生の時の夢でしょう。
小学2年生の私は社会科学習で、班のみんなと地域の探索をしていました。その時、探索を終えて時間に余裕があったので道中の公園で遊ぶ事にしました。珍しい遊具があってみんな夢中で遊び、時間になったら学校へ戻り、そして下校したのでした。
帰り道でも何も異変は無かったけれど、布団に入って眠りに落ちて暫くすると、怪しいやたらと髪の長い老婆がいました。老婆の周りには猫が群がっていましたが、老婆の姿がとても生きた人間には見えず、咄嗟に逃げ出しました。
老婆は老いているだけあって進みは遅いのですが、確実に後ろを取られているのです。振り返ったら負ける、というのが直感的になんの根拠もなく感じられました。
そのあとはもうひたすら追いかけっこです。歩いても問題無いのが幸いでしたが、道中、他のクラスの子が捕まって、どうも捕まると猫に変えられるらしいのが悲鳴の終わりが猫の声になっているのでわかりました。
人間が猫になる。このありえない現象でこれが夢の中だと初めて気が付きました。今思えば馬鹿としか言いようがありませんが、老婆のただただ黒い容姿と引きずられたように歩く気配が不気味で動転したのでしょう。
夢なら覚めろ!と念じながら逃げていましたが、一向に覚めません。これは本当に強い何かだ、と幼いなりに悟りました。
ここで、ずっと学校近辺から近所を逃げていましたが、途中から川と橋とをぐるぐるまわりだしました。ぐるぐる廻ると後ろが見えそうで嫌だったので、ちょっと橋の先へ進むと、そこでいきなり視界が崩れて真っ暗になったのです。
真っ暗なのは頭まで布団に潜っていたからでした。目が覚めたようです。しかし鼓動の激しさと足の重さがリアリティを持っていましたが、生来のおやすみ3秒によって意識がまた途切れ、よくわからないまま寝ていました。
登校日に、逃げたルートで帰ってみると、いきなり視界が崩れたところにはお地蔵様が立っていました。お地蔵様が救ってくださったのかな、と漠然と思いました。
その後、あれ程の夢を見たくせに、珍しい遊具につられてまた同じ公園に私は遊びに行ったのでした。もちろん、今度はお守りをちゃんと持って。
火の無いところに煙はなんとやら 高水慶 @Kanariatakenoko
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