第1話 幻種

 幻種。現代社会ではその存在は物語の中、都市伝説上の存在とされているが、現実は人類に紛れて表向きは人類として生活している。

 ただ幻種と言っても自然の力を利用し力を使う妖精に普段は人間の姿をしているが必要な時に転身しその力を振るう龍、獣と人間の混合種と言える半獣、さらに吸血鬼やバンシー等の伝承に出てくる様なものから最近目撃者によってくねくねだの八尺様だの名付けられたものまでそのバリエーションは多岐に渡る。

 式吹と朧も、その幻種である。


『本日早朝、――県で全身を刃物で刺された遺体が発見されました。警察は通り魔的犯行と見て捜査を進めています』

 ニュースキャスターが原稿を読み上げるのを朧は珈琲を啜りながら聞いた。場所からして自分の主人、式吹が片付けたあれで間違いないだろうと判断した。

「……おい、犬」

「やっと起きましたか。もう午前8時ですよ」

 広いリビングに式吹が入ってくる。これでこのリビングにいるのは2人。ワンルームであれば家族4人が暮らせるのではないかというほど広いリビングに、たった2人。

「貴方の御家族はもっとちゃんとしていましたよ」

「うるせえ。毎朝5時起きなんて出来るか」

 式吹がソファにドカリと座り込む。せっかくの上質な革張りであるのに、これではすぐ傷むと朧は眉をひそめた。

「……なあ、あの男が関わってる違法マーケットの情報、何か掴めたか?」

 式吹が訊ねる。

 違法マーケット。売買が禁止されている幻種を奴隷の様に売り、買う場のこと。基本客は幻種だが、極稀に代々幻種を収集しているコレクターが訪れることがある。嗅覚、シンパシー等能力によって判断できる幻種と違い人間として生きている幻種を見破ることが難しい人間にとって、そこは金さえあれば確実に幻種を入手出来る場だった。

 違法マーケットは見つけ次第即警吏の幻種に通報しなければならない。しかし、稀に自分達でマーケットを潰そうとする者もいる。式吹もその中の1人だった。

「貴方が求めるものがいるとも限りませんよ?」

「構わねえよ」

 式吹は朧を見据え、言い放った。

機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナ、その居場所を知ってる奴がいるかもしれねえだろ?」

 幻種には強弱が存在する。人間に毛が生えたような力しか持たないものから国家1つを軽々と滅ぼせるものまでその幅は広い。

 その中で最上位に位置するのが、『神』。日本では天照大御神や天鈿女命、海外ではゼウスやインドラ等、種類としては多いが殆ど自分が創り出した神域と呼ばれる空間に引きこもっているため会うことすら儘ならない。

 そんな中、1つのプロジェクトが動いた。

「神に会えぬのなら、我々が神を作り上げてしまえばいい」

 その考えの元作り出されたのが、多くのヨーロッパの物語に登場する実在しない神、デウス・エクス・マキナ。人の望みを叶える為に作られた、機械仕掛けの神。

 しかし、そのプロジェクトは突然終わりを告げた。何者かが作られたデウス・エクス・マキナを外に持ち出した上で今までの研究データも、何度も試行錯誤しながら作り上げた装置も全て破壊され、研究に携わった人々が殺害された。

 それ以降、幻種はそのデウス・エクス・マキナを探すようになった。自分の望みを叶えるために。

「会ってその気にさせれば俺の望みが全て叶う。そんなもの、探すしかないだろ?」

 式吹が笑う。

「それじゃ、情報頼むぞ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ブラッド・マキナ くるす @krus_0209

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ