眠り金融でまいにちハッピーライフ!

ちびまるフォイ

いい加減に起きてくれ!

「いらっしゃいませ。眠り金融へようこそ」


「店員さんはひとりなんですか?」


「はい。ほそぼそとやらせてもらっています」


眠り金融なんて名前に引かれて中に入ってみた。

キャッチコピーは"あなたの睡眠預かります"だ。


「睡眠を預かるってのは?」


「はい。こちらでは忙しい現代の人の睡眠をお預かりし

 眠らなくても活動できるようにお手伝いしています」


「おもしろそう。さっそくお願いします」


「かしこまりました。1日ぶんの睡眠をお預かりします」


睡眠借用書を受け取り、睡眠を預かってもらった。

夜になっても昼間のように目がさえて嘘のように頭がまわる。


「すごい! 全然眠くならない!」


夜通し、溜めていたゲームをプレイしまくった。

徹夜したときに一番眠くなる早朝になっても睡魔は出てこない。

眠らないことによる疲れも感じない。


最高だ。

俺はまた眠り金融に訪れた。


「本当に眠らなくていいんですね! もう最高ですよ!

 こんなにも1日が有意義に過ごせると思わなかった!」


「みなさんそうおっしゃいます。

 眠り金融ではみなさんの限られた時間をより有効活用できるため

 お手伝いさせてもらってますから」


「それじゃ1ヶ月分お願いします!!」


すっかり眠り金融にハマってしまった。




「おい、佐藤。今日も残業か?」


「はい! ばりばり働きたいんです!」


「ここのところ3日間も寝ずに働いてるけど大丈夫か?」


「眠りは預けているんで」


眠る必要がなくなった分の時間は趣味と仕事にあてた。

大好きな趣味には没頭できるし、仕事をすれば金はたまる。

金がたまればまた趣味の幅が広がる。以下、ループ。


「ああ、もう本当に幸せだ……!」


たかだか1日のうちの活動時間が増えるだけでこんなにも世界は変わって見える。

もうこの生活以外は考えられなくなった。


数日後、期間延長をするため眠り金融に訪れた。


「追加で1年分をお願いします!」


「すみませんが、それはできません」


「さすがに1年単位はダメでしたか。では1ヶ月」


「それもちょっと……」


「1日は?」

「ダメです」


「はあああ!? どうして!? 前はできたのに!」


店員は借用書を突きつけた。


「あなたの眠りが返済されないまま放置されています。

 眠り利子もついて3年分の睡眠が必要です」


「さ、3年!? そんなに眠ったら仕事もなくなっちゃうよ!」


「ですがこれ以上は……」


「わかりました! 眠り返済するためになんとかします!

 なんとかするために、1年分の睡眠を預かってください!」


「かしこまりました」


なんとか言いくるめて睡眠をあずかってもらった。

その日こそ、なんとかして返済しなくちゃなと思っていたが

仕事と趣味に睡眠時間を費やしているうちに頭からすっぽり忘れ去られた。


ドンドンドン!!


「なんだよ、朝からうるさいなぁ。今いいところなのに……」


玄関のドアを開けるといかつい男が立っていた。


「佐藤さん、眠り返済してませんねぇ?」


「え、あ、あの……今日眠り返済しようかと思って……」


「だったら早く眠り返済して、眠り金融から返済書もらってくださいよ!

 返済書をいただけないようでしたら、こちらも考えがありますさかい」


「か、かんがえ……?」


「永久に眠ってもらうこともあるって話です」


「ひぃぃぃぃ!!」


借金取りならぬ眠り取りが家にやってきた。

あの目は完全に本気の色をしていた。


眠り取りが帰ってからもひざはがくがくと震えていた。


「どどどどどどうしよう……今から眠るって言っても

 3年なんて寝ちゃったらどうなっちゃうんだ」


目覚めたときには浦島太郎。

仕事もなければ、友達もいなくなってるかもしれない。


いやだ。眠りたくない。

ずっとこのまま趣味の時間を満喫し続けたい。


「そうだ!! 誰かに俺の睡眠を肩代わりしてもらおう!!」


そんなことができるのかわからなかったが、

幸いにも眠り借用書には「連帯保証人」が書いてある。これを使うしかない。




【急募】僕の代わりに眠ってくれる人募集!

時給:10000円



眠らずに仕事したかいあって金だけはあるのでバイトを募集した。

広告出したとたん、1人が見つかったのでネットでやりとりした。


『それじゃ睡眠の代行をお願いします』


『かしこまりました』


礼儀正しい人で良かった。

顔は見てないけどきっといい人だ。


眠りを代行してからというもの、ぐんぐん睡眠は削られていった。


「やった! 最初からこうしておけばよかった!

 こうすれば、毎日眠らない生活をずっと続けられるぞ!」



ドンドンドン!!


あの忌々しいノック音が聞こえた。

ドアの向こうには、悪そうな男が立っている。

でも、もう怖くない。


「佐藤さん、いい加減に眠り返済してもらえませんかねぇ?

 いつまでも返済しないとこっちも相応の手段をとらせてもらいますよぉ」


「ふふん。まだそれ言ってるんですか?

 こっちは返済するあてが見つかったんですよ。

 ちょうど今から眠り金融に言って返済書を受け取るところです」


「そうですか。じゃあ、俺らもついて行かせてもらいますわ」


「どうぞどうぞ。今日の返済分をすぐに返してやりますよ」


眠り取りのチンピラをしたがえて、眠り金融に向かう。

返済したときのこいつらの顔がどうなるか楽しみだ。


眠り金融につくと、俺はまっすぐカウンターへ進む。


「店員さん。ほら、眠り返済したので返済書をください」


「…………」


「あれ? ちょっと、聞いてるんですか!? 早く返済書を!」


机につっぷしたままの店員の肩をゆさぶった。

それでもまったく起きる気配がない。


「お、おいって! なにいつまで寝てるんだよ!」


ゆすった拍子に店員のネームプレートが見えた。

その名前には見覚えがあった。



「この店員、俺の睡眠代行バイトをしてくれた人じゃないか……!!」



「兄ちゃん、返済書はまだかぃ?」


ガラの悪い男たちはどこからか持ってきた金属バットを構える。


「こ、この人が起きれば返済書もらえるんです!」


「ほお、それでいつになったら起きてくれるんだ?」




「利子含めて、さ……3年後」


金属バットがフルスイングされた。

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