小説DLC、横から課金するか。上から課金するか。

ちびまるフォイ

俺は課金するぞ、ジョジョォォォォ!!!!(?)

近所の本屋さんが閉店した。


いつも小説買っていた場所なので残念だったが、

店のたたずまいを見るだけで末期だったのもわかっていたから驚きもしなかった。


「はぁ、今度からは街の本屋さんにいかないとな」


新刊が出る日、電車に揺られて街の本屋まで買いに行った。

大型書店だけあって、見たこともない新しい本も平積みされていた。


「これください」


「ありがとうございます。DLCはいかがしますか?」


「は?」


「小説DLCは入れますか?」


お会計で俺はフリーズした。

店員の言っていることがわからない。


「でぃ、でぃーえるしー?」


「ダウンロードコンテンツ、の略です。

 小説購入とは別に追加でお金を払えば、小説に追加コンテンツが増えますよ」


「そうなの!?」


「このラノベですと……。あ、新規セリフが追加されますね」


「うーーん。ちょっと興味あるので追加お願いします」


「かしこまりました。DLCいっちょーーう!!!!!」


「それわざわざ言う必要ある!?」


DLC付きで本を買ったのははじめてだった。

本が売れない時代とは聴いていたが、最近はいろいろ工夫してるんだなぁと思う。


家に帰って本を開いてみると、たしかにセリフが追加されていた。



――――――――――――――――――


「さて、ゴブリンも倒したことだし、町に戻るかな」


「かっこよかったです! ヤマト様!!」 New!

「なんてたよりがいがあるんでしょう!」 New!

「抱いて!」 New!


「ところで、魔王がこれから何をすると思う?」


「そうだな……きっと魔王四天王を復活させる気かもしれない……」


「素晴らしい洞察力です! ヤマト様!!」 New!

「圧倒的な発想力、素敵です!」 New!

「抱いて!」 New!


――――――――――――――――――



「これ……いるか……?」


メンバーの女性メンバーがやたら主人公を持ち上げるセリフが追加されていた。

物語の内容を壊さずにセリフを追加されてはいるが、なくてもいい気がする。


主人公に感情移入していれば、かわいい女の子が自分をやたらほめるので

キャバクラ以上に気分がよくなるのはあるけれど。


「わざわざ、追加で金払うほどじゃなかったなぁ」


貧乏性な俺は少し反省して、次巻を待った。



やがて、次巻が発売されたころまた町の本屋さんに行った。


「DLCはいかがしますか?」


「いえ、いらないです」


「本当に大丈夫ですか?」


「ええ、いりません」


店員からは心配されたが今度はDLC抜きの本を買った。

さっそく中身を読んでみる。



――――――――――――――――――


「やっとここまで来たか……! もうすぐ魔王城だ!」


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DLC購入で解放

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「やった! 四天王マケナーイをやっつけた!」


勇者は階段をかけあがる。

そこには……!


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DLC購入で解放

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そしてついに魔王の間へ。


「みんな、準備はいいか!?」


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DLC購入で解放

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「なんだって!? それじゃ勝てないのか!?」


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DLC購入で解放

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DLC購入で解放

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DLC購入で解放

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――――――――――――――――――



「いや、展開わかんねぇよ!!!」


思わず本をぶん投げて壁で跳ね返った本が頭にぶつかった。


なんだこのDLCありきの本は。

これじゃ追加で金払わなきゃ本編すらまともに読めない。


「もの売るってレベルじゃねぇぞ!!」


とはいえ、大好きなシリーズ作品ではあるので購入はやめられない。

DLC版を購入しなかった自分を悔いた。


「今度からはDLCの内容をちゃんと確かめてから買おう。

 追加課金しないと、まともに本編読めないなら払わなくっちゃ……」


今回の反省は次巻に生かすことにした。




ついに次巻が発売されるや、俺は覚悟を決めて書店へ向かった。


お金を支払う前にDLCの内容を確かめる。


「この本を購入したいんですがDLCないと楽しめませんか?」


「そうですねぇ。本は全部書いてからDLCでアンロックしてますから

 逆にいえばDLCないと作品の30%くらいしか読めなくなっています」


「これはDLC版のがよさそうだな……」


前回の失敗を反省して、やや高めだがDLC版の購入にした。

レジを通すその寸前で店員は言った。


「カスタムDLCはしますか?」


「は?」


「小説DLCとは別に、小説をカスタマイズするDLCもあるんですよ」


また追加課金。でも慌てない。

大事なのは内容を落ち着いて確かめることだ。


「その、カスタムDLCとはどういった内容なんですか?

 必要であれば課金しますけど」


「本編のキャラクターが下着になります」



「なん……だと……!?」


そんなエッチなDLCがあるなんて。

俺の底知れない性欲が財布のひもをゆるめていく。



「さらに、挿絵もそれ用に変更されます」


「なんだとぅ!?」


ヒロインがあられもない姿になるのか!

俺の推し女キャラの肌色多めの挿絵になるのか!



「どうしますか?」


「買います!! 買わせてください!!!」


「下着DLCいっちょーーう!!」


「言わんでええ!!」


すでにDLCぶんの代金が本単体の価格よりも高くなったが

下着DLCを迷わず購入した。


まるでエッチな雑誌の袋とじを開けるような期待感が詰まっている。


どんなあられもない姿になるのか。

下着姿の挿絵がどうなるのか。


想像しただけで鼻の下がのびていくのを感じる。


「よし、読んでみよう!!」


家に誰もいないことを確認してから、下着DLC付きの小説をひらいた。



――――――――――――――――――


「ついに見つけたぞ。父さんを殺した魔王!」


「フハハハハ! よく来たな、勇者ヤマトよ!

 しかし、貴様の冒険もここまでだ! 我輩の腕の中で悶え死ぬがよい!」


下着姿の魔王は大きく手を開いた。


「兄貴! 俺も加勢するぜ!」


「お前は……! あのときのやくざ軍団!」


下着姿の異世界ヤクザたちは、各々の武器をかまえて加勢してくれた。

男らしい腹筋が下着姿であらわになる。


「モニュ! ヤマト、がんばるでち!」


下着姿のマスコットモンスターが、毛皮を脱いで応援する。



「やってやる! 父さんのかたき、俺がとってやる!!」



下着姿の勇者ヤマトは、走馬灯のようにかけめぐる父親の記憶を思い出した。


下着姿でいつも優しくしてくれた父親。

下着姿でいつも守ってくれた父親。


「俺が! 俺がお前を倒す!」


「さぁこい勇者ヤマトーー!」


下着姿の勇者は、下着姿の魔王に斬りかかった。


――――――――――――――――――





「下着って……全員下着姿になるのかよ……」


描かれた筋肉むつまじい挿絵を見て、俺はもう課金しないと心に誓った。

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