第4話 人間失格だね




【守るんだ】



僕はアリスの行方を追いかけていた。


今、アリスと別れた場所に来ている。



確か、アリスはこの先を真っ直ぐ走っていったんだっけ?



僕はアリスの向かった方向へ走り出す。



走っている間、誰かが僕の前を通り過ぎた気がする。


誰かは確認出来なかったが、なんだか、その者からはおぞましい気配を感じた。


が、僕は後ろを振り返らずにそのまま真っ直ぐ走っていく。



そのまま走っていると、地面になにかが落ちていた。


アリスの黒いリボンだ。


この近くにいる気がする。


早く通り魔から守らないと……!



「きゃあああああああっ!」



近くで悲鳴が聞こえた。



それは、彼女の声そのものだった。


僕はその声のする方へ息を切らしながら走っていく。


運動不足の足がズキズキする。



ああ、こんなことになるなら普段から運動しておけばよかった!!!!



✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱

*************

********


【脅威】



なんなの……!


何が起こってるの……!!!


もう何がなんだか分かんない!!!!



私は今、カマキリのバケモノに追われている。


バケモノはヨダレを獣のように垂れ流しながら必死になって4つ足でカマを振りかざしながら私のことを追いかける。



私はカマキリから少し距離を置くのがやっと……


住宅街の道でバケモノと追いかけっこ。


ああ、これがリアル鬼ごっこなのね……



どうしよう!


どうしよう!


ずっと走ってても無駄だよ!


どっかで力尽きちゃうよ!


やだ……


やだ……


死にたくないよ……



「私死にたくないよぉお!!!!」



私の目から溢れんばかりの涙がこぼれ落ちた。



死にたくない。



闇雲に走り続けたせいか、気がつくと私は、


行き止まりの暗くて狭い道へとたどり着いてしまった。



バケモノが私にカマを振りかざそうとカマを構える。



「やだ」


「やだ……」


「嫌だ……!!!」



「こんなところで……!」



手元に転がっている鉄パイプを手に取る。



「死ぬわけには!」



バケモノを目掛けてパイプを振りかざす。



「いかないの!!!!」



振りかざしたパイプがバケモノに勢いよくヒットした。



けど……



「酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い」


「同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪同罪」


「死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑」


バケモノは怒り狂ったように私を睨みつける。


バケモノからは、「憎悪」の感情がした。


恐ろしいほどの憎悪。


その瞳からは、この社会を、世界を全てを恨み憎んでいる気が感じ取れた。



「来ないで……」



その恐ろしい負の感情に、私は恐怖感を覚えた。


額の汗が止まらない体の震えが止まらない。


心臓の音がバクバクと聞こえる。


鼓動が、とても速い。


頭が真っ白になった。


頭が、身体が暑い。



私は体が動かない。


動けない。


私はずっとコンクリートの地面に座り込んでいる。










もう……





だめ……




私……



ここで、死ぬんだ……



最後に……



…………と、



神崎くんと、……で…



あの日みたいに……



笑い合いたかったなぁ……





そうだ、



笑い合うんだ



あの日みたいに……










「アリス!!!!」






あれ……




凄く、聞き覚えのある声が聞こえた……











「神崎……くん?」








バケモノの後ろに、一人の少年が立っている。



その少年は、頼りないはずなのに、弱虫なはずなのに、ヘタレなはずなのに……




絶望感にとらわれている私には




希望のヒーローに見えた。





*******************

*************

*******


【ごめんね】




やっと、



やっと、見つけた……



アリス……



けど、



前にいる得体の知れない生き物はなんだ……?



緑色で、足が四つあって……



なんだか、デカイカマキリだ。



よく出来た着ぐるみだな……


こいつが男の人とアリスを襲った通り魔か……



「アリス!ぼ、僕が何とかするから!その隙に逃げて……!」



「なんとか、逃げ道は、作る!」



僕は地面に落ちてあった鉄パイプを手に取り、後ろからカマキリの着ぐるみ野郎を殴ろうとした。



その時、アリスが真剣な声色でこう叫んだ。




「今すぐ逃げてッ!!!!」




あれ?




おかしいな……



僕、鉄パイプで殴ったはずなのに……










なんでこいつ微動だにしないんだ?


なんで、鉄パイプ、折れてるんだ?



あれ?


あれ?



なにこれ……




「殴った」



着ぐるみから、薄気味悪い女の声がする。




「DVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDVDV」


「酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い」


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」




メキメキメキっとカマキリ野郎は首を僕の方へねじ曲げる。



そのカマキリ野郎の表情には狂気を感じた




あ。



こいつ。



着ぐるみじゃない。






人間じゃない。





バケモノだ。










「う……」



「うわあああああああっ!」



僕はガタガタと身体が震える。



足がすくんで動けない。



なんだこれ、


なんだこれ、


なんだこれ、




この世の生物なのか……!?




「神崎くん!!!!はやく逃げてッ!!!!」



アリスの甲高い叫ぶ声が聞こえる。



「死んじゃうよッ!!!!!!」











そっか、



こんなバケモノに勝てるわけないし



僕、死んじゃうね。








いつの間にか、僕の胴は、半分に切れていた。



たくさんの赤い血が胴の断面から吹き出す。



痛い



痛い



痛い



痛い



痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。




痛い。









痛い。











痛い……



意識が……遠のいていく……



アリスの…………悲鳴が……聞こえる…………



ごめん…………



アリス…………



僕の……唯一の……




友達……なの……に…………



守れ……くて…………



ご…………め……ね


******************

***********

*******


【返してよ!!!】



神崎くんは、バケモノにカマで切り刻まれた。


神崎くんが、バケモノに、殺された。


身体を真っ二つに引き裂いて無残に殺した。



嫌……



嫌……嫌……



「いやああああああああああああッ!!!!」



「神崎くんんんんんんんんんんんんッ!!!!」



やだよ……



ねえ?どうして?



神崎くん……





やだ……



「嘘………」


「嘘よ…!!!」


私の目元から多量の涙が溢れ、それが頬を伝う。



すると、バケモノが口元をニヤリと歪ませた



「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」



バケモノは壊れたように神崎くんの真っ二つになった身体をみて笑う。



「……なにが、おかしいの…」



ガタガタと震える両足で、ゆっくりと立つ。



「返してよぉっ!!!」



ものすごい音の歯ぎしりがギリギリと鳴る。


「私の、友達を……」


無意識に右拳に精一杯の力が入る。



「返せぇええええええええええッ!!!!」



気がついた時には、バケモノの腹を右拳で殴っていた。





なにしてるの……私……



なんで、なんで、



たった1人の友達殺されて、悔しいんだ



私の、大切な人を奪われて、



きっと悔しいんだね私。



馬鹿だなぁ。



敵いっこないのに。



返り討ちにあって、死んじゃうだけなのに……




バケモノは何ともないような顔で私を見下げる。



「かわいそう」


「かわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわいそう」



バケモノは抑揚なく「かわいそう」と連呼して、狂ったように私を嘲笑う。



バケモノは私を振り上げ、カマで斬り殺そうとする。




私……


死んじゃうんだ……



神崎くんと同じように……



でも、いいや……



どう足掻いても、どうせ、死んじゃうから…



それに、一人ぼっちなまま生きてたって、



寂しくて、虚しいだけだから。



だから、死んじゃっても、いいかもしれないね













「なあ」




「一体なにしてんだ」



「そこのクソでかいオオカマキリがよ」




近くから、低い男の子の声がする。



✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱

✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱

✱✱✱✱✱✱✱✱


【骨蜘蛛のヒーロー】



だめ……




「きちゃダメ!!!!!」



「死んじゃう!!!!」



「逃げて!!!!!」




私は力いっぱい叫ぶ。



だめ!だめ!逃げて!!!



これ以上、人が死んじゃうなんて嫌!!!



バケモノは声に反応して後ろを振り返る。




男の子は私を見て、ニヤリと笑みを見せた。



「俺がこんなクソ雑魚に負けるだって?」



「こんなクソカマキリなんて」




「5秒あればスグにぶっ殺せる」



白い歯を見せながら笑った後、男の子はそう言って、鞄を投げ置いて上着を脱ぐ。



「はやく逃げてってば!!!」



だめだめ!!!



男の子は凄く筋肉質な体型で強そうだけど、とても敵う相手じゃない……



人間とバケモノが戦うなんて……




「え?」



男の子の身体が徐々に変化し始める。


どんどんと男の子の身体が骨のような身体になっていく。


左半身の全てが白骨化していく。


だけど、その腕は、身体は、なんだかとても強そうにみえる。



そして彼の背からは蜘蛛のような骨の足がしゅるりと8本出てきた。



「安心しろよ」



「俺もこいつと同じで人間じゃねぇから」



男の子が真剣な顔で私を見つめる。



でも、なんでだろう、


この人は、怖くない。



むしろ、ヒーローでも見てるような気分……



男の子は蜘蛛のような8本の骨の足を束にして、バケモノの頭を一瞬で貫き、足をバケモノの頭から引き抜く。



「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



バケモノは多量の血を吹き出しながら、バタンと倒れ、動かなくなった。



私は骨の様な姿になった男の子をまじまじとみた。



「あ、ありが…………とう……」



無意識に感謝の言葉がこぼれる。



「礼なんていらねぇよ」


「俺のこんなバケモンみたいな姿見て、驚かねぇのな」


「なんだかヒーローに見えちゃって……」


男の子はふふっと笑みを見せるが、一瞬にして驚いた表情を見せた。



「おい」



「はい?」



「お前はさっさと家に帰ってろ」



男の子が焦った表情になる。


どうして……?


バケモノは死んだから安全じゃ……



「え?」



「いいから帰れっていってんだよ!!!」



私は男の子に右腕を掴まれ、男の子は私を追い返そうとする。



「痛い!痛い!やめてください!」


「私!帰るわけにはいかないんです!神崎くんが……!!!」



するとうつむき、男の子は悲しそうな暗い表情を浮かべ


「知ってる」



「俺、あいつの友達だから、後は俺が何とかするから」


「だ……だめです!!!!私が……!私が……!」







「さっさと帰れつってんだ、聞こえねぇのか」





男の子から、身が震えるようなおぞましい気配が出ている。



彼の綺麗な紅い瞳を見ていると、今にでも殺されそうな感じがしてたまらなかった。



「い、嫌です……」



「……」


「神崎くんは!私の唯一の友達だから!!!」



「私が……神崎くんの死体を、なんとかします……!救急車呼んで……」



あれ……?


神崎くん……?



神崎くんの真っ二つになった身体がなんだかおかしい。


「オォ…………」


神崎くんは両手を使って起き上がり、私の方を見た。



「グオォ…………オォ……」



「神崎くん……!?」



生きてたの……!?!?


そんなことがあるなんて……!!!


でも、様子が……変……



「……だから帰れって言ったのに!」



男の子がめんどくさそうな顔をしてため息をつく。


神崎くんの身体が断面から徐々に再生していく。


どんどんと神崎くんの身体に変化が現れはじめる、身体は人間とは思えないほど筋肉質になっていき、額からは青く長い角が生え、鋭い牙が生え始める。



その姿はまるで、



鬼のようだった。



✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱

✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱

✱✱✱✱✱✱✱✱✱


【助けられなくて……】



「いやあああああああっ!!!神崎くん!!!」



「どいてろ!」



男の子が鬼のようになった神崎くんを勢いよく左足で蹴った。



神崎くんは吹っ飛び、その身体は壁に貼り付く。



「グルル…………オォ……」



「……」


男の子は悲しげな表情で変わり果てた神崎くんの姿を見つめる。



「ごめんな……ごめんな……」


「お前のこと、助けてあげれなくて……」



男の子は悔しげな表情で、唇をぎゅっと噛む。



「ゴメン…………」



「!!!」


神崎くんが、苦しそうにそう言った。


「ゴメン…………」


「守レナク………………テ」



「オォ…………」



男の子は、歯をぎゅっと食いしばり、神崎くんの言葉に耳も貸さず神崎くんの首を思いっきり絞めた。



「なにしてるの!!!!」


「やめて!!!」





「俺だってこんなことしたくねぇよ!」



「あのな、こうなった以上、人が怪人化して自我を失うとな、さっきみたいなカマキリみたいに人を襲うようになるんだよ!」



「このまま生かしておいたら、こいつは人を襲うようになる」



「そんなの、こいつがかわいそうだろうが…!」




男の子は叫びながら私に言う。




そして、悔しそうげにこう言った。




「もう……死んだんだ、神崎ミコトは……」




違うよ……


違うよ……


生きてるよ……神崎くんは……



だって、だって……




「そうです」



「その方は、まだ生きています」



長いロングヘアーの金髪のヨーロッパ風の小さなな女の子が現れた。


その子は、真っ白な綺麗なドレスをヒラヒラとさせながら、男の子と神崎くんの方へと歩み寄った。



「なんだよ、ガキンチョ」



男の子が少女を見下げながらそう言うと、少女は男の子の足に触れる。



「私は、子供ではありません」



「ああああああっ!!!」



男の子は電撃でも浴び、バタリと倒れ込む。


「いっ!いきなりなにすんだよ!クソガキ!」



「もう1発食らいたいですか?」


女の子はもう1度男の子に電撃を浴びせる。


男の子は悲鳴をあげながらジタバタと暴れる。



なんなの……この女の子……魔法使いか何か……?



女の子は神崎くんの変わり果てた足に触れた。



「……愚かですね」



そう呟いた後、女の子と神崎くんは大きな青い光に包まれた。



「うわっ!」


「きゃっ!」



眩しい……ッ!


なにこれ……!?


神崎くんに何が起こってるの……!?



しばらくすると、光は消え、元の人間の姿の神崎くんがぐったりとして、倒れていた。



「……!?」



「な、なんだ、テメェ……手品でも使ったか?」



「魔法です」


「馬鹿ですか?」



少女は見下した表情で男の子を見る。



「とりあえず、この坊やは私が連れていきます」



「めんどくさいからこの出来事を夢だと思ってほしいですね」



「おい、ガキ」



「ガキじゃないです、死にたいんですか?」



「怪人になった人間を元に戻せるってマジかよ」



男の子は驚いた表情で少女を見る。


少女は呆れた表情でため息をつく。



「違いますよ、馬鹿ですか?」


「めんどくさいから、私は帰ります」



白い光に包まれて、神崎くんと女の子は消えしまった。



なんだったの……?


一体、あの女の子は……


神崎くんは、元の姿に戻って、ちゃんと無事なのかな……?



「なあ」



男の子が私に話しかける。



「?」


「神崎ミコトと、デキてたの?」



男の子はキョトンとした表情で私を見る。



「はぁ!?違います!!!」



「じゃあ、なんであいつ必死になってお前守ろうとしたんだろ」



「……分からないです」



「でも、まあ、これだけは分かるよ」



「お前はあいつから大切に思われてる」



なんだか、その言葉は私の心を熱く溶かした。


なんでだろう、嬉しい。


でも、その反面、嬉しくない。


なんで、なんでだろう。



「てか、神崎に友達いたのがビックリだな!あいつ絶望してますって感じがスゲェしたのに」



男の子がクスクスと笑った。



「なっ……!」



「でも、あいついい奴だから友達いるのも分かるわ〜」



「お前も神崎も、お互い、いいダチに出会ってよかったな」



男の子はポンポンと軽く右手で私の頭をなでた後、普通の人間の姿に戻り、上着を着替えた。



「あの……」



「あ?」



「貴方……何者なんですか……?」




「俺?」


「俺は、周 骸」


「ただの怪人だ」



男の子、周という子はにこりと笑ってみせた。



「あ、これ、俺とお前だけの秘密な」



周くんは鞄を持ち、ぶんぶんと元気に左腕を振りながら何処かへ走って行ってしまった。



その場にはバケモノの死体と私だけになってしまった。


怪人は、人を襲う悪いバケモノだって、世間では言われてるけど、


あんないい人も、いるんだ……!!!









自然と笑みがこぼれる。



神崎くん……



ちゃんと、無事だよね?



それと、神崎くん……



私、なんとなく、神崎くんが学校でうまくいってないって分かってた。



ずっと、10年間、一緒に暮らしてきたからなんとなく分かるんだよ?



でも、神崎くん、よかった……



神崎くんのことちゃんと想ってくれてる友達がいて、よかった……



神崎くん、今度こそ、幸せになるんだよ……!



絶対に……



絶対にだよ……

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miseria puer うるち @perukun_

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