第3話 難敵
「ここにお集まりの皆さまには治安維持法の危険性について改めて認識していただきたい!!
政府は治安維持を名目に、皆さんが納めて頂いた血税から1兆円近くの巨額予算を使い、新規の武装兵団と諜報機関の組成に注ぎ込もうとしています。
政府の狙いは
それは専守防衛の原則を捨て去り、政府が敵対視する国々への先制攻撃すら可能にする法の制定に向けた第1段階としてこの法律を制定した可能性があると私は
背筋と胸をピンッと張り、眼には
男は"
この年48歳になった彼は街頭演説とゴルフや海外視察で真っ黒に日焼けしており、少し腹の出たラグビー部のOBといった
国会議員である彼にとって “最高のツール” になっているのだろう。
田崎の後ろには彼が代表を務める“ 治安維持法廃止推進議員連盟 ”に所属する超党派の議員17名が
田崎は集まった聴衆を見渡しながら腕を大きく広げ、時には拳を天に向かって突き上げながら演説を続けていた。その様は一流のバリトン歌手のようでもあり、あるいは商業演劇の人気役者のようでもあった。
「そうだぁ! 間違いない ! 軍国主義反対! 即刻、治安維持法を廃止せよ! 政府は目を覚ませ!」
眼つきや服装だけで無く、
「そうですよね、皆さん。私は学生時代からどんなことにも不可能は無いの精神で全力でぶつかってきました。議員になる前に勤めていた機械メーカーでは営業をやっていましたが、そりゃなかなか大変でしたよ。色んな営業先がありました。喧嘩のようなこともありました。その経験で分かったことがひとつ。心を込めて
「そうだぁ! その通り! いいぞ田崎! 」
「まずは私たちから先に武器を捨てましょう。そして笑顔を相手に向けるんです。私たちは貴国とうまくやりたい、共にやっていきたいと心を込めて伝えるんです。今の政府にはその誠意が足りない。
「その通り! 税金の無駄遣いは許さない! 」
聴衆の賛同に眼を細め
やや丸みを帯びたレトロチックなフレームの眼鏡をかけた学者風のその男は、防衛省から文部科学省所管の国立開発研究法人 科学技術振興機構 (JST) に出向中の
彼は本省(文部科学省)での会議に出席するために埼玉から上京していた。
「誠意と
「生田さん、"お仲間” が一杯いるから聞こえたら袋叩きに遭いますよ」
不安と焦燥をブレンドした胃液が上がってくるのに耐えながら、
「アホだと思わないか、葛西。あいつテレビの討論番組に出演して2時間かけて
「分かりますが、猫と犬の関係のように我々は共通言語を持ってないんですから仕方ないですよ。向こうには 私達の声は “ニャー” としか聞こえないんですよ」
「なんで我々が猫なんだよ? 」
「いやだからそういうことじゃなくて。とにかく 14時からの会議遅れますよ。あと25分くらいしかないですよ。予算確保のためにも今日のプレゼンは重要なんですから」
「あいつらが "北の説得” に成功したら防衛予算費の大幅削減につながるじゃないか。だからここで説教してお前らが行ってこいと伝えるのは大事だと私は思うがね」
「行くわけないじゃないですか、生田さんらしくもない。いつもの合理的思考してくださいよ。さあ走りましょう。資料の事前準備もしなきゃならないんでマジで時間ないですよ。本省の
生田は、焦りと不安を含んだ冷や汗の水玉が、葛西の額・鼻の下・首筋におびただしく浮き上がっているのを見て “説教” することを諦めた。
「役者気取りの偽善者共が。私は騙されないぞ。会議から戻るまで待ってろよ」
生田は舌打ちと共に捨て
生田と葛西が街頭演説会場から離れて15分後、
目の
白い
それは “
ある者は火だるまの人間を見た衝撃、ある者はそこにあった
先ほどまで
100
兇悪で圧倒的な暴力の前では、理想と博愛精神で固められたフィロソフィーなど無力であることが浮き彫りになったと言っても過言では無かった。
生田と葛西は爆破事件の現場から1kmも離れていない場所にいた。霞が関3丁目にある中央合同庁舎第7号館東館16階 科学技術・学術政策研究所会議室に
議題の中心は、2年後に組織化が迫っていた国内治安維持部隊の装備品に関する意見交換が目的だった。
有効性・妥当性・合目的性などの観点から参加者が自由に議論した末に導き出した結論を予算化検討の際の一助とすることにあった。今回で5回目の当該会議は大詰めの局面にあり、生田らにとっては重要な会議であったのだ。
参加者は総勢29名。主な参加者は以下の通り。
お付きの課長補佐級も多数参加していた。
内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当) [議長]
内閣府副大臣(科学技術政策担当)
内閣総理大臣補佐官 科学技術革新会議 議員
内閣府政策統括官(科学技術革新担当)
内閣官房日本経済再生総合事務局企画官
経済産業省 産業技術環境局長
国土交通省大臣 官房技術総括審議官
環境省大臣 官房審議官
防衛装備庁 防衛技監
警察庁長官官房技術審議官
総務省大臣官房総括審議官
外務省軍縮不拡散・科学部審議官
文部科学省 科学技術・学術政策局長
文部科学省 科学技術審議官
会議が始まり約10分後、議長の
メモを見た佐久島は唇を
会議場は、
佐久島は両手を伸ばして上下させながら、全員に静粛さを取り戻すように呼びかけた。
「皆さん、会議は一旦ペンディングしようかと思いましたがあえて続行します。恐れていた事態です。一定のプロセスを通らなければなりませんから、新たな国内治安治安維持部隊の創設を早めることは困難です。せめて充実した装備の支給を目指し一層真剣に話し合いましょう」
新部隊隊員100名用の基本装備品の見積もりだけでも5,000億を超えていたことに異論を唱えていた多数の会議参加者達は、爆破事件の推定被害者数を聞いて意見を一変させた。
なにしろ “お膝元” で兇悪テロ事件が起きたわけであり、“明日は我が身に災厄が降りかかる” と考えて
爆破事件自体は極めて
「葛西、ありがとう。あのまま残ってたら我々も
ペルセウスが発足した背景には悪化の一途を辿っている国内治安情勢にあった。特に移民受入れの受け皿となった1都3県の惨状は深刻だった。
①不満を抱える移民による暴力・破壊活動
②敵対国から送り込まれるスパイの激増
③テロリスト激増
大きくはこの3点による悪影響が顕在化し始めたのがきっかけだった。国内情悪化に危惧を抱いた政府関係者達は事態解決のために2つの機関創設に動き始めていたが、折りしも国会議員を狙った爆破テロが警戒厳重な霞ヶ関で起こされ、野党議員3名と一般人62名が凶行の犠牲となった。
通称 “国内治安維持法” と云われる国内取締り強化に向けた法の妥当性と、国内治安維持のための武装兵団及び諜報機関の創設に関し、平和主義を連呼する野党は政府にバッシングを連日浴びせかけていた。時には法案成立の過程で “汚職” や “収賄” が有ったのでは無いかと騒ぎ立てたり、“話し合えば分かる。警察力強化やスパイ機関の創設などとんでもない” との主旨で強行に
当該テロ事案は、平素は与党政策に辛口報道に徹しているマスメディア各局のスタンスすらものの見事に
もはや事態は話し合いという
首都東京を始めとする大都市圏では、パニック気味の傾向が見られ、生活必需品の買占めや転居などの行動に出る者も相当多数発生していた。
2024年 東京オリンピックから4年後のこの年、1つの重要法案が衆参両院で可決成立した。通称 "移民受入れ法” と呼ばれる当該法の可決により、2024年から年間20万人規模の移民受入れをする事が決定したのだ。
それは人口減少の影響による労働力低下の補完と国際的な移民受入れの流れに追随する事が目的に有った。
労働力減少への対処としてはロボットの積極導入により対処可能との意見も一部には出ていたが、米国・EUからの圧力を受けていた時の政府が強硬に進めたものだった。
移民受入れ法と併せて
但し、“自治区” とは言っても日本政府が一方的に定める自治規則遵守を前提したものであり、移民者の自治に関する自由度は極めて低かった。
ある意味において隔離政策の意図もあったのだ。
また、移民受入れ法の制定に合わせて、法務省入国管理局の大幅な権限拡大と増員を図り、“外国人住民に係る住民基本台帳制度” も移民者管理強化に資する改正が行われた。
移民受入れ法の制定は、日本政府の
12カ所設けられた移民自治区 (後に通称 "移民街"と呼ばれる)は東京に7ヶ所が集中し
この
移民自治区の開設にあたっては1都3県で盛大なイベントが開催された。特に3県(神奈川・埼玉・千葉)では県活性化の起爆材料とすべく自治体が全力を挙げて盛り上げた。
移民受入れ初年度の2024年には15カ国 20万人の移民が流入、 2035年に至るまでに累計で約240万人の移民者を受け入れした。
移民受入れ開始から年を重ねる毎に様々な問題が
正確かつ不平を言わないロボットによる労働力補完の進展が著しく、移民受け入れ当初の期待から大きくはずれて無職移民者を毎年量産した。
国が無職移民者に対して支給する生活保護費は劇的に増加していくなど、日を追うごとに状況は悪化していった。
次第にスラム化する移民自治区周辺の治安悪化が社会問題としてマスメディアにも取り上げられるようになり、2031年に移民受入れの一時停止に関する議論が始まった。
莫大な移民受入れ関連予算の増大に加え、当初は想定しなかった移民自治区の取り締まり等に要する間接コストも増大している事に関して、衆議院予算委員会において極右の野党議員が所管大臣に質問をした事に端を発した。
殆どの野党議員が法案賛成に傾く中、当該野党議員だけは、最後まで移民受け入れ反対を掲げていただけに政府の先行きの読みの甘さを
2032年移民受け入れの一時停止措置を日本政府が決定した。世界各国から厳しいバッシングと圧力を受けたこともあり、激変緩和経過措置として一時停止措置は2036年からと決まった。結果的に一時停止措置がなされるまでに約240万人の移民者を受け入れる事となったのだ。
また移民者の出生率は想定外に高く、今後加速度的に移民自治区の人口が増加することが予測された。
移民の内、職を得られず困窮を極めている層は次第に徒党を組みギャング化すると共に、政府が準備した移民自治区 通称 “移民街” を中心にスラム化が拡大するなど大きく問題化していった。
移民街に根を張るギャングは移民街1ヶ所につき1〜3グループ組成され、自らの居住区域以外の地域にも遠征し、殺人・暴行・強盗・放火・器物破壊など極悪非道な悪行を極めていた。
18〜35歳の男女1万数千名余りの者で構成された東京に
“生きるために奪うこと”を正当化する彼らは異国の地である日本において独特の連帯感を形成し、悪行を働いた者達を移民街全体で
2035年6月17日、ギャング数人が暴行略奪をしているところを現認した警察官2名が逮捕のため追跡したがギャングらは移民街に逃げ込んでしまった。聞き込みを行う警察官2名は数百名に及ぶギャングメンバーに取り囲まれ激しい暴行を受け1名が死亡、もう1名が重傷、そして乗ってきたパトカーも原型が不明なほど破壊された。
2名の所属する警察署が連絡の取れない警察官2名の身を案じ、パトカーから発せられる所在発信電波を頼りに捜索を続けた結果、多摩川の河原に放置されている2名と破壊された車両を発見した。
移民街での犯行を裏付けたのは、パトカーに取り付けられたナビゲーションの車両走行履歴によるものだった。この事件を契機として警視庁は移民街への追跡は原則禁止の
まずは追跡するか否かの判断を管轄警察署の署長に求め、許可があった場合にだけ追跡を行うという前提であったが、当該示達以降に追跡許可を出した署長は誰も居なかった。
これは事実上、警察力の限界を示すと共に警察機関が犯罪集団に対して敗北宣言をしたに等しかった。
この背景には、ギャンググループの圧倒的暴力があったのも事実であったが、犯罪行為を行ったギャングを捕まえる過程でギャングを
警察に残された手段はパトロールを強化し、移民街から離れたところで現行犯逮捕するという方針であったが、現実の運用に
一方、移民政策により月間約17千人弱の移民が新規に流入し続けている現状もあり治安情勢悪化に拍車かかり始めていた。
現在のROBSのリーダーは
短髪、薄い唇、高い頬骨に加え、
この男は多摩の移民街に居住し始めて3ヶ月足らずでリーダーにのし上がった。
タイやベラルーシ・ブラジルなどの他の国所属の者達をあっという間にまとめ上げたこの男は
移民者が日本に早く馴染むため、移民街での共通言語は日本語を使用せよという移民街自治規則はあったが、移民教育の不備により日本語の浸透は遅々として進展しなかった。そうした背景の中で、
しかし
取り巻きの一人である
取り巻きの中には190cmはあろうかと思われる者も含まれていたが、
当然のように前リーダーは
そして今や
政府は移民者管理の観点から移民者毎に居住区域を指定し勝手な転居を認めていなかったが、治外法権のような移民街において拘束力は皆無だった。
「キム、アシタセタガヤデカセグ。パクタチト」
「フェル、お前日本来て1年は経ってるんだろ。言葉もう少し練習しろ。AIの音声応答以下だな」
「ワカッテルワカッテル」
「今、世田谷を始め都内は警戒がきつい。他の移民街の奴らがやり過ぎてる。埼玉方面ならまだ警戒度が低い。とりあえずそっちで稼いで来い」
「アタラシイヒトノタメ ジュウガイル」
「何丁だ」
「20チョウ」
「 “道具屋” に調達を頼んどく。現金600万渡すから明日新宿寄ってから行け。受領の際は念のため
「ワカッタ。ワルイジュウアッタラヤッチャウヨ」
「余計なことするな。手っ取り早く武器が入手出来る先が減るだろうが。少しは頭使え」
「ワカッタ」
「横浜、多摩、福生、八王子、横須賀の移民街は押さえた。総人数1,056,920名、 ROBSのメンバーは12,500名弱まで増えた。あと2ブロック位がマネジメント出来る限界だろう」
「キム、フェテモダイジョウブ。サカラウヤツイタライツモミタイニャッテクレ」
「たまには自分でやれ。明日から3日ほど留守にする。お前とヤンで仕切れ。モバイルも
「ドコイク? 」
「お前は気にしなくて良いんだよ、馬鹿が」
入居条件が厳しいマンションのため、と或る法人を契約主体にして住んでいる。
家賃は220万強と高めだが最高の
「この暮らし悪くない」
マンションの大きな窓の前に置いたソファに座りポツリと
“千里馬旅団” は精鋭揃いの北朝鮮 偵察総局員20万人の中から選抜された者を、トランスヒューマニズム技術・遺伝子工学・薬剤ドーピング等々、人体強化技術の粋を集めて強化された者の集まりである。
超人的な力を持つ "旅団メンバー” が約1,000人ほどが存在するといわれている。
その内の10名程はクローン技術も用いて作られた
通信機能を用いれば六法全書や判例集をものの30秒で転送することが可能であり思い立った瞬間に司法試験を突破する能力が具備される。
長男の
毎日クタクタになるまで働いたが稼ぎは
こんな生活を2年ほど続けると、
極めて優秀な男がいるという噂が軍隊内に流れていたほどだ。軍隊の幹部クラスのと或る
人材発掘に動いていた人事担当者は翌日には
中学しか出ていないことが、むしろキムの噂を
2032年、偵察総局内からエリートを選抜し、" 千里馬旅団 ” が組成されることになった際に、
書類はA4サイズで12枚にも及ぶものだった。
そこには作戦実行中の事故(怪我·死亡)に旅団は責任を負わないことや、知的能力・身体能力の向上に資する外科的処置を施す場合があることなどが記載されていた。
それはトランスヒューマニズムという思想に基づく措置であった。新しい科学技術を用い、人間の身体と認知能力を進化させ、人間の状況を前例の無い形で向上させようという思想である。
他にはDNA操作により能力向上も承諾対象項目として記載されていた。
自分が強くなり国に貢献出来る。家族への仕送りも安定して続けられる。理由はそれで十分だった。
1つは記憶・計算能力向上。もう1つは身体能力向上だった。手術はほんの2時間ほどで終了。全身麻酔から覚めたキムには手術による変化が全く自覚出来なかった
しかし翌日驚くべき変化に気付いた。
"千里馬旅団” の72頁に及ぶ部隊規程を手渡された
初めて読んだにも関わらず内容をなぜか知っていた。しかも一字一句全てである。部隊規程を手渡した上官が不敵な笑みを浮かべながら話しかけた。
「驚いたか? 今の気持ちを日本語で表現してみろ」
「晴天の
「3ヵ月後日本に行って活動してもらう。日本語は完璧にインプットされているはずだ。他にも予め情報を
お前はもう "超天才並み”だ。会議室にある百科事典が並んでるだろ。あれに換算すれば
見たものは完璧に覚える。それから思い描く通りに身体を動かすことが出来るはずだ。
今、陸上や体操競技の選手になればオリンピックに出場してメダルも取れるだろう」
「他にインプットしたい情報があればPCから伝送出来る。なんなら “性技” に関するプログラムもあるぞ。お前はまだ女を知らないだろう。ハニートラップミッションのために女性隊員向けが最初に作られ、後に男性用も追加されたのだよ。
それからもうひとつプレゼントがある。
" Doctor Molecular(ドクター マァラァキュゥール) " という “
「信じられない。こんな力が」
「トランスヒューマニズムだ。テコンドー、少林寺拳法、剣術の達人クラスの身体活動記憶も入れてある。始めてでも達人並みの動きが出来る筈だ」
「決め手は “脳” だ。武術やスポーツ達人の脳の
"海馬”にマイクロチップをインプラントし運動記憶をコピーをした。君のチップには武術の他、“千里馬旅団” のメンバーが困らないようにありとあらゆる知識・経験をDLLしてある」
「私は大学に行ってないのでありがたいです。"経験”まで移植出来るなら学校は必要ありませんね」
「その通りだ。しかし“インプランター”を大量に増やすことによる社会的影響などが計れてないので、まだ我々のようなエリートか特権階級にしかこの措置は施されない。手術にはそれなりの資金も必要だ。それに倫理的価値観に照らし反対をする者も内外に多い。しかし近い将来、“学校に行く必要がない者” "学校に行くもの” “学校に行けない者”の3階層に分かれることになるだろう。学校に行く奴が馬鹿にされる時代が到来するかもな」
「マイクロチップをインプラントした“インプランター”を増やした場合の社会的影響に関しては、スーパーコンピュータを用いて影響シミュレーションをする予定だ。前提条件の整理などに時間がかかっているだけで、コンピュータにかければあっという間に確かなシミュレーションを行うだろう」
「素晴らしい。大規模に推進すれば、我が国は圧倒的優位に立ちますね」
「まずは経済強国として力をつけ、そして南を
国土や保有資源は米国・中国・ロシアには到底及ばないが科学力では
“最高司令官” の偉大なる采配がなければここまで来ることは出来なかったろう。様々な犠牲を払ってきたが、我が国のような小国が大国に
飢えにあえぎ、まともな教育も受けられない人民が多数いる。彼らにも
悲願達成まであと一息だ。そのためにも貴官らには一層頑張ってもらわねばならない」
「頂いた力を最大限活かし、必ずやお役に立ってみせましょう」
時は2032年9月、
世界各国からの外圧と野党やマスメディアの
彼の使命は、首都東京において動乱を起こして混乱を巻き起こすこと、そしてその
明日は日本各地に散らばっている "旅団メンバー” の定期会合が東北の温泉地で行われる予定である。
この定期会合の目的は異国でのメンバーの寂しさを紛らすため、状況や成果情報の共有化等が表向きの事情としてあったが、本国の本当の意図は裏切り防止にあった。"旅団メンバー”は、様子がおかしいメンバーを検知した場合には本国に報告(密告)を行うように教育されている。
超一級の人材である彼らは洞察力も優れていた。つまり仲間同士で監視し合う仕組みが構築されているのだ。"裏切りは死” を意味していた。
裏切り者の判定を受けた途端に、それまで仲間だった数十人の超一流工作員が裏切り者を狙う殺し屋となるのだからたまったものではない。裏切りなど出来るわけもなかった。
この非情の掟の中で牙と爪を研ぐ一級のハイパーヒューマン達が、長い間ぬるま湯に
出来ることならば、“平和な日本” に貧しい生活をしている家族を連れてこれたら……という考えが
そして日本での悪行にほんの
「金王朝のためじゃない。祖国、家族のためだ」
全てが順調に推移しているにも関わらず、夜景を眺める彼の
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