そのクラスの学級日誌には、変わった記入欄がある。それは「秋山が立たされた理由」という欄だ。
出席番号二番の秋山道久は、毎日毎日、廊下に立たされる。まさにそれは、予定調和。
本作は、その秋山道久が毎日立たされる理由を解明しようという大作「『秋山が立たされた理由』欄のある学級日誌」の特別編「青いピカピカ」である。
本来、一日一エピソード、その日秋山が立たされるにいたった経緯を語ってゆく連作短編形式の本編「秋立」とは打って変わって、本作は中編小説。しかも夏休みのエピソードが語られている。
よって、当然秋山は立たされない。学校がないからだ。
本来の意義が失われているはずの特別編である本作は、もちろん本編を読んでいなくても、十分楽しめる構造になっている。だが、本編を読まずに本作を閲覧したあなたは、絶対に後悔することになるだろう。
なぜならば、「ふだん学校に行っていない人間に、夏休みの本当の楽しさは分からない」からだ。なぜならば、「なぜ毎日秋山が立たされているのかを知らない人間に、秋山を、そして藍川穂咲を理解することは難しい」からだ。
本作では、夏休みに海に行った二組の家族。秋山家とお隣の藍川家の一泊旅行の様子が描かれている。
学校では毎日立たされている秋山道久と、クラスの人気者でヒロインの藍川穂咲。二人は幼馴染である。そしてこの海を、何年も前、まだ小さいころに二人は訪れていたのだ。
当時の想い出に浸りつつ、夏のバカンスを楽しむ二人だが、いくつか、どうしても思い出せないことがある。小さいころに来た時に、こんなことあんなことがあったのだが、あれ?なんでそうなったのかな?という記憶の欠落だ。
これは、二人の記憶の欠落を埋める作業であり、新しい記憶の創生である。その物語である。が……。
ギャグ満載のおバカ・ラブコメ展開を見せつつ、そこかしこに散りばめられるミステリー要素。生粋のミステリーファンの作者は、あちこちに読者へ対するヒントを散りばめながら、各話キーワードとなる花言葉を決めて、見立て殺人ならぬ、見立てラブコメを展開し、そのうえで全体を貫く大きな謎解きに読者をいざなう。
ここは短編集である本編「秋立」が同じ構造になっているところにも、注目だ。
相変わらず自由奔放で破天荒なヒロイン穂咲ちゃんに振り回される秋山。果たしてこの海で二人の関係は進展するのか? さらに、なぞの「青いピカピカ」の正体とは?
クライマックス、大きな感動に涙させ、それが乾かぬうちに大笑いで別の涙を上塗りさせる御業は、さすがラブコメの達人である作者。
本編未読でももちろん読める。
だが、本編読んでからここに来て、心底良かったと、ぼくは思っている。