挿話 めあねすの幸福
「…めあー?……めあねすってば。」
「……んー?」
四時間目終わって、机に突っ伏していたら、誰かに呼ばれる声がした。
四時間目はターニャ先生の授業。
体育とは名ばかりの実戦模擬訓練。
もぉ。ターニャ先生ったら、私にはすっごい厳しいんだから。
他の子たちは、三人一組でターゲットをトレイスして、ターゲットのお腹に付けられた的にペイント弾を撃ち込めばクリアー。
フィールドも学校内。
ターゲットはターニャ先生の出したレベルの低ーい使い魔。
私はといえば……
たったひとりきりでターゲットをトレイス。
ターゲットの降伏または戦闘不能状態でクリアー。
フィールドは、アクセルの街全域。
ターゲットは……
ケルベロスよ?!
しかも三匹‼ 意味分かんない‼
地獄の番犬なのよ?!
とうさまだって手こずったって言ってたのに…。
ってか、まだ中二よ私?!
中学生のか弱い女の子に、あんな凶暴な地獄の番犬三匹と戦わせるって、 どんなスパルタよ?!
おかげでアクセル中飛び回っちゃったわよ‼
時間内に間に合ったからいいけど…。
まぁ
あの子たち、見た目に似合わずほんとすっごいいい子たちで、今はもぅすっごく私に懐いちゃって、別れがたくなっちゃったからターニャ先生にお願いして、時々ウチに連れて来てもらえるように約束したのだけど。
てな訳で
お昼ごはん時間にも関わらず、私はこんなに疲労困憊で机に突っ伏しているのでしたー。
「…なんだ……リーゼ。どしたの?ふぁーぁ。」
「ふぁーぁじゃないでしょ。お昼よ?ごはんよ?どうすんの?」
「あー。それよか眠いのよー。しんどいのー。」
「もぅ。……じゃぁちょっと寝て待ってて。あたしスムージー作って来るから。」
「ふぁーい。おやすみー。」
リーゼは相変わらず世話焼きだー。
助かるのよねー。
小学校の頃から私にはすっごい優しい。
頭いいし、気立てもいいし、男女別け隔てなく接する人柄は、校内でも大人気。何よりかわいいの。
薄いブルーの長い髪をひとつに束ねて、まつげの長いくりくりっとした大きな目は水色の瞳。
小柄でスレンダーな身体は、ウェアキャット族のお母さま譲り。
かわいい猫耳と長くしなやかなブルーのしっぽが彼女のトレードマーク。
お父さまは普通の人間だけど、猫族の血が濃いため、興奮すると猫化して、度々常人離れした能力を発揮する。
敏捷性やジャンプ力が、けた外れに違うし、シーフのクラスマスターで、潜伏スキルは生まれながらにマスタークラスらしいし、暗視や遠聴能力も使える。
彼女の家は弟妹が多くて、全員で10人。
その10人の長女がリーゼ。
だから、お料理もすっごい上手。
遅くまで働いてる両親に代わって、幼い頃から弟妹の面倒を見てきたため、オールマイティに家事をこなしている。
そんな完全無欠な女の子なんだけど、たまーに、
ごくたまーに、
発情しちゃうことが、ほんとに玉にキズなんだよねー。
猫だけに、ある時期と条件が重なると、見境なく、本人の意思とは関係なく、発情してしまうの。
もぅ。そうなると手がつけられない。
とにかくすべてがえっちモード。
その時は
彼女のまわりに漂うフェロモン?香りに、惹きつけられた男の子たちでいっぱいになる。
本人も、よっぽど気合い入れて理性を保とうとしてないと、すぐに発情期に流されてえろえろになっちゃう。
どんな風にえろえろになるのかって?
やーん。私からは言えないわー。
本当にえっちぃの。
もぅ、ぐっちょぐちょのびちょびちょ。ほんとにえろえろ。
ひとたび発情してしまえば、その時期を過ぎるのを待つか、発情条件を解消するか、発情を不思議に止めてしまうキルスイッチを押さないと、絶対に直らない。
その、発情の時期は分かるから予防は出来るけれど、発情の条件があんまし分かんない。
だから本人もすっごく気にしてるし、それが彼女唯一のコンプレックス。
そしてもうひとつの、発情を不思議なことに止められるキルスイッチ。
それが、どうやら私みたいなの。
遠く小学校低学年の頃から、私がそばに居ると、なぜだか彼女の発情が治まっちゃう。
どんなにぐっちょぐちょのびちょびちょにえろえろでも、私が彼女に触ると、ぷしゅーって治まる。
不思議なのよねー。
一回レヴィたんが、彼女の中に潜って隅々調べてみたんだけど、そのメカニズムは解らずじまいだったの。
あっ。
そのー。えーっと。彼女はまだ……処女よ?
一応。念のため。
まぁそんな訳で、
リーゼは昔から私のそばに必ず居るの。
先生たちもまわりも、それを理解してるから、私たちを引き離したりしない。いつでも、私たちは一緒に居るの。
元々、ウマも合うしね。
「お待たせ。めあ?ほら。起きて?」
リーゼがおっきなグラスに、美味しそうな黄色い液体を入れて持って来た。
だけども。
「……んー。眠いー。」
「うーん…。…あんな化け物三体も一時間以内に捕まえて来ちゃったんだから、それくらい疲れちゃうのは当然でしょうけれど……」
むむっ。それは異なことを。
顔だけリーゼのほうにキッと向け
「化け物じゃないもん‼ キリーとモリーとミリーだもん‼ いい子たちなの‼」
リーゼは呆れ顔で、私の頭を撫でてストローを私の口に放り込む。
「はいはい。キリーにモリーにミリーね。何でもすぐに仲良くなっちゃうんだから。あんなの、私たち普通の民間人からしたら充分化け物なの。いろんな書物にも地獄の番犬って書いてあるわよ?今日実際に見るまで伝説上のモンスターかと思ってたわよ。マスタークラスの聖騎士やアークプリーストが束になったって一匹倒せるかどうか分かんないくらい凶暴で強いの。それを…三匹も手なづけて、乗っかって笑顔で帰って来るなんて。マンガのヒロインくらいじゃないとしちゃダメなの。呆れるにもほどがあります。ほら飲んで。」
「¢$£●*☆!……おいち…。」
「ゆっくりでいいから全部飲みなさい。おかわり作ってあげるから。」
「もきゅもきゅもきゅ……ぷは~。おかわりー。」
「よしよし。少し待ってなさいね。」
「あーい。おやすみー。」
少し紅くなったリーゼが嬉しそうに走ってく。
かわいいなー。猫耳が垂れてしっぽが左右にピコピコしてる。
本当に嬉しい時の彼女の癖だ。
ほんとスタイルいいし、可愛いし、私、お嫁さんにするんなら絶対にリーゼだって決めてあるんだ。
こないだファーストキスだって済ませちゃったもんねー。べろちゅーってヤツー。へへ。
それだけじゃ我慢出来なくなって、ちょっとだけリーゼの胸揉んじゃったけど。
かわいかったー。すっごいかわいい声出すの。
リーゼも、蕩けるくらい気持ちよかったってー。
でも
あんまし嬉しかったからこないだみーちゃんに言ったら、にっこり笑って、「せっく○っはまだまだ早いから、ゆっくりね。」って言われたー。
いいんだ。
私もリーゼがそばに居てくれるだけで、なんだか嬉しいし、思いっきし力が出せるの。
それだけで今は充分。
私は生まれてからずっと、こっちゃんとみーちゃんを見て育ってるから絶対に間違えない。
いつか、とうさまとかあさまに、私たちそっくりなかわいいかわいい赤ちゃんを抱かせてあげるんだー。
楽しみー。
「お待たせ。めあー。あーんして?」
「あーん。……おいちー。」
ふふふ。幸せだー。
でも、赤ちゃんってどっちが産むのー?
帰ってみーちゃんに聞いてみよ♪
つづく。
挿話 この最愛の愛娘にも祝福を。「めあねすの憂鬱」 finfen @finfen
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。挿話 この最愛の愛娘にも祝福を。「めあねすの憂鬱」の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます