第45話 孤高

「かんぱーい」

2つのグラスが軽くぶつかって音を立てた。グラスの中で立つ泡が揺れて、鷹野に引き寄せられる。

落ち込み気味の来美は軽く会釈した。鷹野はゴクゴクと喉を鳴らして飲み始めている。「あー美味い!」と唸り、ニヤニヤした表情でちびちび飲んでいる来美を見る。

「今日は俺の奢りだ。存分に食って飲め」

鷹野は居酒屋『角米』のおじさんに、このお店で少々高めの角煮を注文する。


「私の恋愛時代が終わった……」

覇気のない様子で言う来美。

「当たり前だろ。時代は終わるもんだ」

「でもいいんですよ。これで」

来美は残ったビールを一気に飲んでいく。

「ビールお代わり」

来美は口についた泡を袖で拭い、空になったグラスを掲げる。

「はいよ」

「これでしがらみなく人生を謳歌できるってなもんよ」

「しがらみなくねぇ」

鷹野は含んだ笑みで来美を蔑む。


「なんですか!」

来美は少し苛立った様子で問う。

「しがらみは常に存在する。人間社会の中には必ずな。しがらみの中でどう立ち回るかということを考えるべきだ」

鷹野はなぜか枝豆を見せながら講釈を垂れる。

「はいはい。鷹野教授の講義はもういいです」

来美は鷹野の話を鬱陶しそうにあしらう。

「結婚なんて私にはいらない!自己中と言われようが知ったこっちゃないっての」

愚痴っぽく吐き捨てる来美は、異様な食欲でカウンターに並んだ数々の食事をたいらげていく。


「どうしたんですか、来美さん?」

柏木は小声でおじさんに尋ねる。

「んまあ、色々あったんだろ」

「大人って大変なんですね」

「まあ、そういうことだ」

2人は荒れた様子の来美を心配そうに見つめる。来美は心を一新して、再び自由を謳歌するだろう。

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結婚したくないのです 國灯闇一 @w8quintedseven

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