第13話 メッセージ
俺達は坂を下って駅前喫茶店に向かっている。
昨日の古泉の説明で、霧の人型事件は映画部がやったことになり、結果的に去年以上の映画で圧倒しようと言うことになった。いや、あれ以上の映画なんてどうやったらいいのか解らんが、ハルヒならやるだろう。
いつのまにかあの文芸誌は見当たらなくなっている。恐らく古泉の『機関』が
街の通りは昨日までの雪が嘘のように消えて、春めいた空気でコートは要らないくらいだ。今朝の登校時にはあの古めかしい学生服の姿は消えて、いつもどおりの男子はブレザー、女子はセーラー服に戻っていた。だれもかれもがそれを当たり前のように着ている。
これで来週の球技大会がハルヒの希望通りに一年五組の女子が優勝すれば、たぶん何事もなく春休みへと流れていくはず――。
先頭を行くハルヒは
「四月には新入生が入ってくるから、その準備をしないとね。なんかこう強烈にSOS団を印象づけるようなことをしなきゃ。みくるちゃんもそう思うでしょ?」
「えっ。強烈、ですかぁ」
とまどいつつも朝比奈さんには怯えはない。なんか心の奥底から湧いてくるような自信がほの見える。俺が過去でやったことがどんな未来につながるかは分からない。でも、朝比奈さんが喜んでくれるんなら、俺は何度だって時間障壁の向こうへだって行くつもりだ。でも今度からは朝比奈さんには事前連絡してほしいところだが。
全員の注文がテーブルに並んだ後、今日のお題はひな祭りに何をやりたいかだったが、どのみちコイツはやりたいことをとっくに決めているに違いない。
古泉の裏情報によるとハルヒはここ数日衣料品店に何度か出向いたそうだから、多分ひな祭り向けの朝比奈さんコスプレが密かに自作されているのではとのことだった。さすがは『機関』だけのことはある。
なんとなく俺の目にはコスプレ衣装を着た二人が新人歓迎の場にさっそうと現れるような気がする。古泉はここぞというタイミングで生徒会長を投入して、事態を調整しようとするだろう。俺はもう閉鎖空間とかで古泉が戦うよりはそんな校内定例行事と化してくれるほうがよっぽどありがたいんだ。
俺たちにさんざん意見を言わせたものの、どれ一つとして採用にはならず、残ったのはハルヒの謎イベントと、今日鶴屋さんから連絡のあった鶴屋家伝統のひな祭りの宴への参加だけが採択された。
お開きになって例のごとく俺がレジに向かっていると朝比奈さんがカウンターの机にあるノートに書き込んでいる。来客者が記念に書き込むノートだ。
「何を書いているんです?」
「えっと……禁則事項です」
突然、人差し指を口元に当てた朝比奈さんは久しく見せていなかった俺の心をとろかすような笑みを見せた。
妙な確信が俺の中に湧き上がる。朝比奈さんのメッセージの宛先はきっとあの人に違いない。先輩だって若い頃にはここに来たことがあるはずだし、再びこの店にやってくる可能性はあるのだ。
……今度来たときにでも朝比奈さんが何を書いたのかこっそり確認してみよう。
俺は会計をすませ、足取りも軽く喫茶店を出た。
二人の約束 伊東デイズ @38k285nw
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