第1話 七色病


……―――――

――――――――



目が覚めると、万葉は知らない部屋に居た。

白い天井、白いベッド…病院だろうか、と考える。


きょろきょろと辺りを見回していると――


「あっ、起きたかなー?」


にぱーっと笑う若い女性。

元気一杯、と言う印象で。


「私はねぇ、無野(むの)って言うの。看護師だよー。 で、先生に言われてね、万葉ちゃんに付き添ってたの。どう?調子はー。 」



「…えっと、はい、大丈夫です。…その、彩は…」


戸惑いながらも万葉はそう答える。

その返事に、うんうん、と満足げに無野は頷いた後。


「彩ちゃんはね、別室に居るの。

ご両親には説明しといてあるから…万葉ちゃんは、どうする?顔、見に行く?まだ休む?」


「…じゃあ、行きます、

彩のところ。」


「わかったよー。

それじゃあ…、私は仕事があるからついていけないけど、行ってらっしゃい。3階の301、だからね!」


なんて明るく告げ、ウインクすると、

颯爽と部屋を去っていった――――。


「…………。」


残された万葉は、

ひっそりと重い腰を上げて、彩の居る病室へと向かって行った。





―――――――


301 香宮 彩 、と、書かれたプレートがある病室…。


やっと辿り着いた、彩が居る病室である。


広い広い病院の中を歩き倒したが為に、万葉は心底疲れていて、ふぅ、と溜息を漏らす。 そして自身の頬をパンっと叩き、気合いを入れてから、カララ…と扉を開いた。



…何かの音。

辺りを見回せば、テレビがつけっぱなしだった。


「誰なのよ…こんな事したの」、

なんて、ややイラつきつつも、歩み寄る。


自然と近くなって、自然と耳に入ってしまった――――その、話。考えないようにしていた物…。



「…人々は、深刻な問題に直面していた。



それは――――――、奇病。病(やまい)である。


そんな問題は、確かに昔からあった。

けれど、違うのだ。


“ 異常 ” と言われる奇病の数々が、

此処数年、急激に増加――――。


更に、数だけではなく、種類も毎日の様に増えていっている…それは、此処、日本も例外では無い。


私達の生活は、じわじわと…じわじわと、

病に侵されてゆくのだ…。」


…。

そこまで聴いて、万葉がテレビを消す。…まるで、彩の事を言っている様だったから。


静まり返った病室には、姉妹、二人だけ。



「 …彩。 」


ポツリ。

呟いた一言は、妹の名。


此処は病室。

ベッドに横たわるのは、彩の姿。

健康的だった肌は、相も変わらず赤いまま…。



…かなしい。


なんで。なんで。

こんな姿になって…。

かわいそう、に。

私が…私が、代わってあげられたら、良かったのに。


万葉の薄桃色の瞳から、ぽたぽたと涙が自然と溢れた。


そんな時―――

ギィ、と後ろの扉が開いた音がして、振り返るとあの男の姿があった。


コツ、コツ、コツ。

靴の音を立てながら、長身のその男は彩と万葉を見下ろす形で、苦虫を噛み潰したような表情でいた。


「…あ、

あの。 彩、…彩は、」


動揺を隠し切れずに、目を見開いて、万葉は質問する。


…お願いだから、どうか。

直ぐに治ると言って。 そんな強い願いを込め、男へ眼差しを向ける。


男はそんな万葉を見て、

少しばかり目を細め、口を開く。



「…落ち着け。で、良く聞けよ。


…俺は信月(しんげつ)だ。お前の妹…香宮 彩(かみや あや)の主治医をする事になった。


さて、お前の妹さんだが…奇病の一つ。七色病だ。」


…奇病?


万葉は思わず、聞き返してしまいそうになる。


疑いたくなかった。

嘘だと思いたかった。


実の妹―彩が奇病だなんて、そんなの。


それでも―――――現実は無情に、

万葉に降り掛かる。


「七色病――――…


奇病の一つ。 潜伏期間は謎。赤、橙、黄、緑、水色、 青、紫…の七色に肌が変化する。 感染してからは死を待つのみだが、何日で死ぬかは不明。 明日にでも、明後日にでも、何十日後にでも…。」


男は淡々と説明を続けた。

万葉は正反対に、涙をただ静かに流し続けていた…。



然し、どうする事も出来ないのは事実で。


男は説明が終わると、

直ぐに部屋を出ていってしまった。


万葉は、

それに気づかずに泣いた。


沢山沢山、泣いた。


彩の隣で。


恐怖と絶望に苛まれて、泣いていた―――…

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奇病の病棟 @MUMU1212

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