奇病の病棟

@MUMU1212

プロローグ


蝉の音。

じりじりと焼けるような暑さに、手に伝う、ひんやりとした袋の感触。


とぼとぼと、

暑さから目を背けるようにして、俯きながら歩く少女…万葉( まや )は。


…ぼふっ。


なにか背中に、柔らかな、感触。



「 おねえちゃーん!

おつかいの帰りでしょ? 私も一緒に帰るよー!」


明るくて、高らかな声。



後ろを振り返ってみれば…やっぱり。妹の、彩( あや )だ。


中学生になったばかりの彼女は、帰宅途中らしく…暑そうに頬を紅で染めていた。


対して万葉の方は、学校はお休み。

それにスーパーは冷房が効いていたので、そんなに汗もかいていなかった。


無邪気に「帰ろう」、と言う彼女が微笑ましくて。万葉はきゅ、と手を握っては。


「わかった。一緒に、帰ろうか。」


と、笑って言う。


そうしたら彩もにこーっと笑って、万葉の手を握り返し、歩き出す…


幸せ。

二人がそう思えた、瞬間――――


彼女は。


彩は。


突如、変化した。



「ッ、きゃああああ!!」


自分の手を見て、驚いたのだろう。

彩は叫び声を上げる。…それは。その色は、普通の色では無かったのだから。


手を離し、ガクン、と座り込んだ姉…万葉は怯えて、声も出ない。

動けない。


…どうして。

こんな。色に。


彩の肌の色は、真っ赤だった。

まるで鮮血の様――――


ぐるぐる、ぐるぐる、万葉の思考は回って。


どうしたら。

どうしたら、良い?


わかんない。わかんない。わかんな―――



「 ……おい。しっかりしろ。 」


鈍く低い、

男の声。


それは異様な迄に万葉の思考をハッキリとさせる。


「 ………――――


…あ、…どうし、…救急車… 」


上手く言葉が紡げなくて。

悔しさで、ぎり、と唇を噛み締めながらも、怯えたように肩を震わせる。


現れた男は、「はーっ」

と重い溜息をつき…


「俺が呼ぶ。…待ってろ。」


そう答え、

男はスマホをポケットから取り出すと。


「俺だ。

…七色病の患者を発見。 まだ赤だ…何時もの町の…花通りに居る。直ちに救急車を。」


と言い、ピ、っと通話を切る。

それを見て安心したのか、万葉はその場で気を失った―――――。



男は呆れたように、「チッ」と舌打ちをした。








…これが始まり。

病と闘う、始まりである―――――。



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