第2話 一生の出来損ない

「で。見事に落選したんですね?」

「…」

「天才ピアニスト、あまねさ~ん??」


何がショートケーキの苺だけを食べるルーティンだよ。

何が寝食を捨てる勢いの練習の積み重ねだよ。


教室の窓から流れる雲を眺めている私に、友達は冷やかしてくる。


彼女らがゲラゲラ笑って慰めもしないのは、自称天才ピアニストの私はピアノを始めて12年間、コンクールで入賞した経験さえないからだ。


私も開き直って天才ピアニスト記者会見を開いて笑わせたり、ピアノ連続落選記念に打ち上げを開いたりしてお茶を濁してきた。

けれどもいつもこうして落ち込んでいるのは、本気で頑張っているにも関わらず全く報われないからである。


「天音」

不意に呼びかけられて窓から視線を右に向けると、強烈なビンタが飛んできた。


パチンと軽い音が放課後の教室中に虚しく響いた。


「ちょ、何すんのさ雫!」

糾弾する私の頭を、彼女は優しく撫でた。

何十秒か撫で回した後、ぎゅっと私を胸に引き寄せる。


「頑張ったね。」

向き直った時、心の底から思っているのか、その瞳は潤んでさえいた。


「…え、ありがとう。でもビンタは要らなかったかな。」

多分、これが雫の慰め方なのかもしれない。戸惑いつつも笑ってみせると、彼女は笑った。


その後、私達は恒例のピアノ連続落選記念のオシャレカフェでのティーパーティーを行った。


それはそれで楽しかったし、これでいいと思っていた。

けど。それから2ヶ月位後に私は生まれ変わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

混合物 鼻風邪 @droppun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ