混合物
鼻風邪
第1話 いつかのための今
ショートケーキの苺だけを食べた後、低めのヒールを鳴らして控え室の外へ出る。
普段下ろしている髪は一つに束ねて、衣装と同じ色、淡い黄緑の花が添えられている。
頭の中の譜面にも鮮明に音符が書かれている。指の動きも軽い。
気合いは今、最高に満ち溢れている。
このコンクールの為に、私はピアノを練習してきた。
寝食を捨てる覚悟で、必死に、必死に足掻いて、時には吐いてまでプレッシャーと戦いながら努力を積み重ねてきたんだ。
だから今日これを爆発させる。
自分の有りっ丈を身体中から響かせよう。
ミスなんて絶対しない。
「6番、相澤さん、舞台袖へ。」
根暗そうなスタッフが私の名前を呼んだ。
いよいよ、次が私の番。
やっぱり覚悟は出来ていると思ったけど、怖いものは矢張り怖い。
手のひらに右手で「人」という字を3回なぞる。昔から知っている緊張が溶けるおまじないだ。
前の演奏者のピアノの音が止み、鳴り響く拍手が聞こえた。
ステージの真ん中で一礼した彼がやり切った、と澄まし顔で向こう側へと消えていく。
時は来た。ここが私の戦場。
勇んだ足で舞台へと踏み入った。
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