和製ホームズ(嘘)

蒔田舞莉

※二人はお爺さん

「犯人は、あなたです」

「イエェェェェェェェェス!その通りだ探偵!よくぞ見破った!褒めてやろう!!」


茶色いインバネスコートに鹿撃帽、手にはパイプという探偵でなければ逆におかしい格好の男がズビシという効果音が付きそうな勢いで指を指した。その先にいた白スーツに革靴、口に薔薇をくわえているという探偵(推定)の男に輪をかけて珍妙な男は、やたらハイテンションに絶叫した。ちなみにどういうわけか薔薇は口から離れない。


「しかし何故わかったんだ?完璧な犯行だったはずなのに!」


アメリカのコメディドラマよろしく大袈裟に肩を竦める。

探偵(多分)はフッ、と不敵に笑うと部屋を歩き回り始めた。「探偵なら歩き回って推理を披露するべきだ!」というのは彼の談。


「簡単なことさ。……確かに君はね、現場証拠は残さなかった。足跡も、指紋も、アリバイ……はまあ証明されてないけどそれはいいや。とにかく、その場は完璧だったのさ」


そこで立ち止まり、パイプを吸って吐く。煙は出ない。


「しかし、だ。君はミスを侵した」

「ふむ、それは?」


「口元、だ」


白スーツはバッと口元を拭った。恐る恐る、手を見る。


「は、はは、ははは。俺ともあろう者が、こんな馬鹿なことをするとはな」


黒皮のソファーにドカリと腰を落とす。白と黒のコントラストが無駄に美しい。

そして薔薇を机に置き、手を挙げた。


「流石の洞察力だ。俺の負けだな」


探偵(恐らく)は額に手を当て、


「ああ。……チェックメイト、だな」


と笑った。


……次の瞬間、グー、という間抜けな音が響いた。

探偵(風)は膝をつく。


「くっ……僕は本当に楽しみにしてたんだぞ!ラ・マルシェの限定プリン!」

「旨かったぞ?トロットロで濃厚」


……要するにこの二人は、プリン一つで茶番を行っていたということだ。ちなみにここは事件現場でも、勿論孤島の洋館でもなく、二人の自宅である。尤も住んでいるのは彼れだけではないが。


高校生の少女が帰ってくる。


「ただいまー。って、なにやってるの」


ドアを開けると一触即発、もう少しで取っ組み合いになりそうな二人が居た。少女はまたか、とでも言いたげな顔をする。

つまり、この光景はしょっちゅう繰り広げられているのだ。


「こいつが僕のプリン食った!」

「さっさと食べない方が悪いんだ!」

「なんだと?!」

「なんだよ!」

「ああもう、子供じゃないんだから」


小学生のような言い合いをする二人を少女が止めた。


「ほら、ケーキ買ってきたんだから期限直してよ」


そう言って持ち上げたのはクリム・ルーズと書かれた白い箱。少女はこれを買いに行っていたのだ。

それを見た探偵(思い付かない)は目を輝かせた。


「でかした!それじゃあ紅茶を淹れてこようじゃあないか!」


先程までの様子はどこへやら、幸せそうに台所へ跳ねていく。


「ふふ。……ありがとね、誤魔化しといてくれて」


少女は小声で話し掛ける。


「いやぁ。一口貰っちまったしな同罪だ、同罪」


二人は顔を見合わせてニッと笑った。

完全犯罪成立ね、少女はウインクして見せた。


「紅茶入ったぞー」

「はーい」


少女がプリンを食べた首謀者だということを、探偵はきっとこれからも気付かない。そんなことより、もう既にケーキに目が行っているのだから。

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和製ホームズ(嘘) 蒔田舞莉 @mairi03

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