第4話 話し合い2

 指定された部屋に入ると、初老に差しかかったぐらいの夫婦がソファに座っていた。

「茶しか出せんよ、すまないがね。私はカルロス・ヴァン・フェルナーレ。こちらは妻のマリアだ。」

「ようこそおいでくださいました、どうぞごゆるりと。」

 2人が丁寧に礼をしながら自己紹介をした。向こうの世界ではかなりいい身分だったのか、身につけている服や食器はものすごく高品質のものだった。

「そこのお嬢さんの事だろう?私たちと同じ、風の精霊の。」

「はい、そうです。マルセリア・ヴァン・メレドです。こちらの世界で住めるようにして下さると、父に言われて参上しました。」

「なるほど、そういう事かね。」

 そう言うと、リアのことをじっくりと見回した。変な目を向けている訳では無い。恐らく、魔力の質だとかそういうものを見ているのだろう。

「ふむ…。結論から言うと、君なら可能だよ。こちらの戸籍を作ることが出来る。政府が公表していないだけでね。私達も持っているし、何度も戸籍を作ってやった。抜けでもないから安心するといい。普通の人と違って、精霊戸籍というものを作るのさ。それで保険にも入れるし、その他もろもろの個人情報がいるものが出来るようになる。結婚や、通学もね。」

「え、通学出来るんですか?」

「ああ、できるよ。ただ、公立の中学生からだけどね。そこで学力試験を行い、入る学年を決めるという流れだ。マルセリアさんなら年齢的にも学力的にも恐らく中学3年生から始まるだろうね。」

 なら、来年私と同じ高校に通うというのも夢ではない話だ。その方がいいよね、時間も合わせやすいし。二人暮しなんだから。

「とにかく、学校の方は私から話をつけておくから、試験の日などは追って連絡する。悠介さん、電話番号をメモかなにかに書いておいてくださいますかな?それと、マルセリアさんにはその紙に名前、どこで生まれたか、誕生日、今日の日付を書いておいてもらおう。」

「はい、了解です。」

「分かりました!」

 それぞれが渡された紙に頼まれた事を書き始めた。

 何となくリアが書いている紙を覗くと、カタカナやひらがな、漢字まで使えていた。翻訳魔法というのは書く文字にも有効らしい。

「それと、お嬢さんはマルセリアさんとはどういう関係ですかな? 」

 唐突に話を振られた。…どういう関係と言われましても、昨日出会って利害が一致したから一緒に生活するようになっただけの人間としか言えない。

「パートナーですよ!ミズキさんは私のパートナーであり恩人です!」

「はは、そうなのか。」

 …まあ間違ってはいないか。


「書き終わりました。 」

「では、それに魔力を流してみなさい。それで登録完了だよ。」

 そう言われたリアは、目を閉じた。

 昨日感じた、あのオーラをまた感じた。伯父さんも普通じゃないことに気づいているようで、目を見開いている。

 すると、紙が光の粒になって、分厚い本に吸い込まれていった。

「おめでとう。これで君はこちらの世界で、人として生きることを許された。また何かあったら訪ねてきなさい。」

「あ、ありがとうございます!」

 深々と礼をしたリアに続いて、私達も深く礼をした。

 顔を上げると、涼しい顔で紅茶を啜っていた。

「ああ、そうだ。お嬢さん。君だけに少し話がある。」

 私の方を向いて、少し鋭い目を向けてきた。

「私、ですか?」

「そうだ、君だ。ミズキさん…といったね?君に話があるんだよ。他の二人には席を外して貰いたい。構わないかな?」

「わかりました。じゃあ瑞希、車で待っているよ。マルセリアさん、行こうか。」

「は、はい…。」

 少し不安気なリアの顔が、何とも印象強かった。

 2日しか一緒にいないけど、そんな顔を見せた事が無かったから。

 二人が出ていって、30秒ぐらい経ったとき、フェルナーレさんが重い口を開けた。

「マルセリアさんは、…いや、私たち精霊は、この世界ではあなた達、人の力を借りないと生きていけないのさ。だから、依存してしまう事もあるかもしれない。マルセリアさんが、君に対して…ね。もしも、そんなことになってしまったら、それを迷惑に感じるならば、私の元に来て欲しい。マルセリアさんを強制的に向こうに帰すことができる。いや、私を通してでしかこちらから向こうには行けないんだ。マルセリアさんの同居人として、君を信用する。…どうか、お願いしたい。君がいなければ、彼女はこちらで生きることを許されなかったのだから。」

「なるほど、精霊が戸籍を取れるか否かは、同居人の人間がいるかということですか?」

「その通りだよ。特に彼女は心が不安定だからね。君のような子が必要不可欠だったのさ。君は、強い心を持っている。君になら、彼女を任せられる。頼んだよ。」

 にっこりと笑って、頼まれた。まあ、頼まれなくてもやるけどね。私は、フェルナーレさんが評価するほど心は強くないけれど、やる時はやる女だよ。

「その表情を、返事として受け取ろう。さあ、話は終わりだ。引き留めて済まなかったね。」

「はい、リアの事、ありがとうございました。」

 手をヒラヒラと振られた。礼を言われる事ではないとその表情が物語っていた。


「ただいま。」

「ミズキさん!おかえりなさい!変なことされませんでしたか?どこも無事ですか!?」

 車に戻ると、リアが飼い主を待ち侘びていた犬みたいに飛びついてきた。

「大丈夫だよ、大袈裟だなぁ…。」

「瑞希。マルセリアちゃん、めちゃくちゃ寂しがってたぞ。笑えるレベルで。」

 そこまで言われると若干申し訳ない気がして、バツの悪そうな顔をしておいた。

「なんのお話だったんですか?」

「リアと一緒に居てやってくれって話だよ。わざわざ言われなくても一緒に居るのにね」

 パァっと顔が笑顔になった。この笑顔を曇らせるようなことはしたくないなと、心からそう思った。

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精霊さんがコチラに来てしまったようです @ogurin0410

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