第3話 話し合い1
結局、朝ごはんを食べていたら出発予定の時刻を大幅に過ぎていたので、リアを引っ張るようにして家を出てきた。
昨日リアが吹き飛ばした大雨が嘘のような晴天だ。いや、吹き飛ばしたから晴天なのかもしれないけど。
「今日はお出かけですか?」
リアがのほほんとした顔で聞いてくる。
「まあ、そうだね。伯父さんにもリアの事は教えておかないといけないし、リアのもの何にもないでしょ?歯ブラシだってちゃんとしたやつ買わないとだし、ベッドも服も買わないと」
「ベッドは、ミズキさんと一緒という訳にはいかないんですか?」
「それだと一人用だと狭いからね」
「なるほど…」
しょぼんとしているが、気にしない。別に寝られなくなるとかそういう訳ではないが、できれば寝るときはできれば一人がいい。
「あの、その言い方ですと、二人用があるということですよね?それにしませんか?」
「今ある私のベッドがもったいないじゃん」
「で、では一人用をくっつけるのはダメなんですか?」
やけに必死になって抗議してくる。
「なに?リア、もしかして1人じゃ寝れないの?」
「うぐっ…」
どうやら図星のようで、赤面しながら頷いた。なにこれかわいい。
「あっちでは、姉が絶対に一緒のベッドで寝ていたんです。部屋の関係もありますが、そういう環境で育ちましたので…」
「なるほどね、まあそれなら仕方ないか。とりあえず、伯父さんに説得だね」
しまらない笑顔のリアを脇目に、私の実家に向かった。
昨夜、伯父さんに電話したら、そこを指定されたので。
実家には既に伯父さんの車が止まっていた。仕事はどうしたんだろう。今日はまだ金曜日なのに。
「伯父さん、ただいま」
「やあ。瑞希と、マルセリアさんだね。さ、上がりなさい。僕が言えた事ではないがね」
リアが強ばった笑顔で頷いた。どうやら緊張しているようだ。
客室に行くと、伯父さんが用意してくれたのか、お茶菓子が置いてあった。初めて見るお菓子にリアは少し戸惑っていたが、口に入れて顔を綻ばせていた。
「伯父さん。分かってるだろうけど、話っていうのは、このマルセリアの事なの」
「ああ。昨日聞いたからね。今となっては、僕のたった一人の肉親の話だから、信じてあげたいのは山々だが、流石に信じられないぞ。この子が精霊だとか、魔法が使えるだとか…」
「だよねえ…」
「あの、私についてのお話だったんですか?」
何について話すか、当の本人に教えるのをついうっかり忘れてしまっていた。伯父さんにも苦笑いされた。
「ああ。マルセリアさん、君は本当に魔法が使える、この世界の者ではないのかい?」
「はい。私は、精霊のマルセリア・ヴァン・メレドです。こちらでは見られないようですが」
「ふむ、嘘はついてないようだし、後で魔法を見せてもらうってことで今は置いておこう。さあ、本題のこの子の家具と服。戸籍、ひいては学校はどうするかだね」
伯父さんの目が本気モードに変わった。戸籍とかそういうデリケートなことについて話すからだろうね。
「うん。とりあえず、リアも私も、一緒に暮らすってことで一致してる。両方とも家族いないしね」
「そうなんだね、じゃあ家具とかの相談は後でお店でしようか。マルセリアさんもそれでいいかい?」
「は、はい!」
「じゃあ…」
「うん…。これが1番厄介だね。マルセリアさんが日本国籍を取るのは、不可能と言っても過言じゃあない。どう見ても日本人じゃないし、こっちの世界の何処かの国籍を持ってる訳でもないからね」
全く訳のわかっていないリアを除いた二人でうんうん言いながら考えた。でも、どう考えても無理だ。リアが魔法で戸籍を作れたり、政府が、リアの世界の存在を知っていて、そのための戸籍を用意していたりしない限り。
2人とも黙って考えるようになった時だった。
「あ、あの」
リアがおずおずと声をあげた。
「父様が私をこちらの世界に逃がしてくれた時、転移させる場所の付近に、フェルナーレという夫婦がいるから、そこを頼りなさい。きっと普通の現地民と同じようにしてくれるから。と言って下さったんですが…コセキというのはそれとは関係無いんですか?」
「どうしてそれを早く言わなかったの!?」
「ご、ごめんなさいぃ!」
全く…
「ははは。まあまあ、落ち着いて。とりあえず何をすればいいのかは分かったね。フェルナーレ御夫妻を探して、マルセリアさんの戸籍を作って、瑞希との二人暮らしの準備、だね。さあ、善は急げだ。時計は止まってくれはしない、僕の車に乗ってくれ」
「凄いです!凄いです!これが本当に魔力なしで動くんですね!こちらの世界の人間は私の世界の人間の数万倍も賢いです!」
車に並々ならぬ興味を持っていたリアは、車に乗れてご満悦だ。
「ねえ、リア?こっちに来た時にはフェルナーレさん達は探さなかったの?魔力を探知したりとか出来ないの?」
「出来ることには出来るんですが、あの日は生憎魔力もカツカツでして…本当にミズキさんが助けてくれなかったら死んでましたよ。本当に、本当にありがとうございました」
にっこりと微笑んで私に礼を言ってきた。恥ずかしいからやめて欲しいんだけど。
「マルセリアさん、探知は今はしてくれているかい?とりあえず、二人が会ったというコンビニを目指してはいるけど…」
「はい、そちらの方向で大丈夫です。あ、次の分岐点で左に曲がってください」
「左だね、了解っと」
二人が談笑している間に、私は少し考えた。
リアがこっちに来た理由。それと、私の家族の消失。この二つは、どうにも何か関係がありそうなんだよね。リアがこっちに来たのは、リアのお父さんが、侵略から逃がすため。それと、リアの国、アルマは精霊の国だって言ってたということは、他の種族の国もあるとも言えるだろう。侵略って、そういう事だし。何の国から侵略されたとかは聞かなかったけど、とりあえず人間だとすると、私の家族が、それに関わってる可能性があるんだ。リアがこっちに来れて、こっちの人が、向こうに行けることは絶対に無いとは言いきれないよね。
「瑞希、どうしたんだい?酔った?」
「あ、いや、ちょっとね…」
「そうか…」
伯父さんは、気を遣ったのか、これ以上は何も聞いてこなかった。
「ここです。この家です!」
着いたのは、割と大きめの一軒家。見たら、十中八九お金持ちの家と答えるだろう。
「ここにフェルナーレ御夫妻がいるんだね、さ、行ってみよう」
私がインターホンを鳴らすと、すぐに声が聞こえた。
『どちら様ですかな?』
初老の男性の声がした。その声は、他者を拒むような、緊張した声だったので、私は萎縮してしまった。
「突然すみません。私、有岡悠介という者です。少しここでは話しづらいお話がありまして」
伯父さんが、インターホンの対応をしてくれた。やはり、大人の存在は助かる。
『…なるほど、では、お上がりいただいて、すぐ右の部屋。そこでお待ちしております』
良かった。どうやら話を聞いてくれるようだ。
ここが駄目なら、もう、どうしようもない。だから、本当にお願いしますよ、フェルナーレさん。
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