第2話 朝ごはん

 昨日の夜は、結局もう1度私だけでコンビニに行って、また二人分のお弁当を買って済ませた。

 寝るのも、リアの布団もベッドも無いので、一緒に寝た。

「リア、起きて。今日は忙しいから」

「んん…まだ寝ていたいです…」

 可愛らしい声で抗議するな。意志が弱くなる。

「ほら、起きるよ!」

「いやぁ!」

 バサッと布団を捲ると、透明な羽が出てきていた。…あー、昨日、サラッと言ってたっけ。精霊だって。

 さすがに信じられなかったけど、今やっと信じられた。目の前で人間にくっついた羽がパタパタしてたらそりゃあ信じるよね。

 いや、人間じゃないとか一番大事なことなんだからサラッと言わないで欲しかったんだけど。

「うう…ミズキさんひどいです…寒い…」

「この程度で寒いとか言わないで、もう春だよ。ほら、服は貸してあげるから着替えて。さっき言ったとおり、今日は本当に忙しいんだから」

「うう…はい…」

 まだ眠たそうな目を擦ろうともせずに、とりあえず座っただけのリア。…たった1晩で慣れすぎじゃないか?いや、変に畏まられるよりはこっちの方が断然良いけどさ。

 出してあげた服にノロノロと着替えているのを確認して、キッチンにたった。昨日はコンビニで済ませたが、料理は得意だ。割と忙しい人だった父や母に変わって、兄と私の分の食事を用意するとかザラだったし。

 リアは箸の使い方なんて絶対分からないだろうから、やっぱりフォークやナイフでも食べられるものが好ましいだろう。ということで目玉焼きだ。

 トースターにパンを2切れ入れて焼いておく。その間に目玉焼きを作る。フライパンを熱してほんの少し油をひく。このフライパンくっつくんだよ。そこに、卵を2つ。低めからそっとね。サニーサイドアップ派なので、ひっくり返すことはしない。ターンオーバーも嫌じゃないけど、失敗したらテンション下がるよね。見た目も大事だよ。両方焼きあがったら、別々にお皿に盛って、リビングに運んだ。あと、飲み物で紅茶も忘れない。

 てなわけで、朝食完成。でも、リアがなかなか出てこない。ワンピースだから着れないということはないと思うけどな。

「リアー、ご飯だよ」

 呼びかけても返事はない。…さては。

 寝ていた部屋に行くと、やっぱり着替えて二度寝していた。

 もう1度布団を剥いでやった。


「うう…ごめんなさい…」

「全く…ほら、朝ご飯食べよ。冷めちゃう」

 まさかリアがこんなにだらしないとは思わなかった。見てくれはいい所のお嬢さんだし、一般庶民とは一線を画した佇まいなんだけどね。中身は一般庶民の子供だ。

 そんなリアが食卓を見て愕然としている。

「ミ、ミズキさん!卵なんて高級なもの、朝に食べるんですか!?それに、卵はちゃんと火を通さないとマズイですよ!お腹壊しちゃいます!それと、紅茶なんて私にはもったいないですよ!」

 どうやら異世界人には、日本の常識があまり通用しないようだ。当然か。

「こっちでは、卵は一般庶民が食べる普通の物だよ。卵の味を知らない人は居ないんじゃないかなってぐらい普通。それに、日本の卵はちゃんと火を通さなくても大丈夫。後、紅茶も一般庶民も嗜める物だよ」

「ニホン…なんて裕福な国なんでしょうか…」

 感動しているリアを椅子に座らせて、私も対面に座った。

「はい、手を合わせて」

「…こうですか?」

「うん、そう。じゃあ、私の真似をしてね」

「はい」

「いただきます」

「イ、イタダキマス」

 これだけは絶対に譲れない。言わなかったら、ご飯の前にお説教という家で育ったし、やっぱり日本人として、これは忘れちゃダメだと思うんだ。

 リアが不思議そうな顔で私を見た。

「さっきのはね、ご飯を食べる前に言うお祈りというか、感謝の気持ちだよ」

「感謝…ですか?」

「そう。まず、食材を提供してくれた人や、料理を用意してくださった人、ここでは私だね。そういった人にありがとうって言うこと。次に、ここにある卵も、パンの原料の麦も、紅茶も、昨日リアが食べたハンバーグや、私が食べた唐揚げの材料のお肉も、全部動物や植物が、その命を犠牲にして私たちを生かしてくれてる。食べるっていうことはそういう事だよ。だから、ありがとうって言う気持ちで、きちんと、その命をいただきますって言うんだよ」

 説明すると、リアは若干感動した顔つきになった。

「なるほど…確かに言われてみれば、そうですね。これからはきちんと感謝しないといけませんね。ありがとうございます!いただきます!」

 そう言って、リアは元気よく朝ごはんを食べた。パンの柔らかさや、焼き加減にも驚きつつ、堪能していた。ちなみに目玉焼きには塩派だった。もしかしたら醤油とかソースとか知らないのかもね。…いや、私の真似をしただけか。

 そして、同時に完食。

「ごちそうさまでした」

「それも感謝ですね?ごちそうさまでした!」

 リアがちゃんと意味を理解してくれていて、なんだか嬉しかった。

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