精霊さんがコチラに来てしまったようです
@ogurin0410
第1話 出会い
何故かって?親と兄が事故を受けてしまい、皆どこかに行ってしまったから。自己の状況からして、即死なのは確実だけど、遺体が何故か見つからないんだって。不思議な事もあるもんだ。
学費は、(お金持ちな)伯父さんに出してもらうことが決まった。それと、その他もろもろのお金も。あ、もちろんバイトもする。流石にしてもらってばかりではダメだからね。
それと、この伯父さん。何とアパートの一室も借りてくださった。そして、元の家も、伯父さんが管理人になってくれて、いつでも帰れる状態にしておいてくれるそうだ。伯父さんにはもう頭が上がらないし、足を向けて寝れないよ。…でもね、一人暮らしなのに2ldkなのは何でなのかな。彼氏ができた時のためだよね、うん。
そして、今日から私の家はこの部屋だ。張り切って荷物整理していこう。この、山のように積み重なったダンボールをね。…気が遠くなるね。
お腹空いた。時間は13時。そりゃあお腹も空くよ。今日のお昼はコンビニでいいや。
外に出た。あー、ダメだこれ。絶対雨降る。傘はまだ出してないしな。まあいいや、買おう。降ってくる前にコンビニ行かないとね。
コンビニに着く前に降ってきて超焦った。しかも割と勢いも強かったし、帰るのは憂鬱だ。
電子レンジは出したけど、ヤカンもポットも出してない。…お弁当だね。夕飯もこれでいいや。もう一つ買おう。
「いらしゃーせー。お弁当温めどうしますか?」
「大丈夫です」
「ありざーした。またお越しくださいませー」
気だるげなバイトの兄ちゃんと、今日初めての人との会話をして、コンビニを出た。
そこに、金髪の外国の方がへたりこんでいた。傘もささずに、雨でびしょ濡れになっていて、身につけた白いワンピースでは透けてしまいそうだ。
「あ、あーゆーおけ?」
なけなしの英語力をフルに活用するが、彼女は疑問符を頭の上に浮かべただけだった。ちくせう。
でも、このまま放っておくなんて出来ない。皆みたいに、どこかで消えてしまうかもしれない…。
「ほら。立てますか?私の家に来て。暖まらないと」
右手を差し出すと、おずおずとだが、掴まってくれた。その手はとても冷たかった。
引き上げると、とても軽く、なんにも食べていないみたいだ。
「背負うね、体力には自信あるから、任せて。後、これだけ持ってて」
傘を渡して背中を向けてしゃがんだ。意図はどうやら伝わったようで、その人はゆっくり私に乗っかった。そして、傘もさしてくれている。…夕飯も買っておいて良かったな。
部屋について、牛乳をレンジで温めて飲ませた。乳アレルギーだったらどうしようかと思ったが、拒否しなかったので良し。
その間に温かいシャワーを浴びられるようにしておいた。
言葉は通じない。だから、全部ボディランゲージで、シャワーを浴びるように命じた。でも伝わらなかった。無念。
仕方が無いので、一緒にシャワーを浴びるという手段をとった。一々反応が過剰で面白かったな。
体格はほぼ一緒。私の方が、少しばかり大きいぐらい。なので、全部貸してあげた。
「あの。何から何まで、ありがとうございます」
…ん?
「しゃ、しゃべったぁぁぁぁ!?」
いや、スポンジに驚く子供の真似じゃないけどさ。
「は、はい。温まったら間力が回復して、翻訳魔法がつかえるようになりました。本当にありがとうございます」
ま、マリョク…翻訳、マホー…?。電波ちゃんだったのか。
「あの?どうされましたか?」
「いやね?何言ってるのかなって」
「何言ってるって…何がですか?もしかしてこの国ではあまり魔法が普及していませんか?いえ、そんなことは無いはず…じゃなかったらあんな金属の塊が動くはずが…」
中二病ってこじらせたらこんなことになるのか。罹らなくて本当によかった。
「あの。何言ってるって言うのは、魔法とか、魔力が意味わからないってことです。そんなもの存在する訳ないでしょ?あ、もしかしてそういうルールでした?それならごめんなさい」
「え…!?」
…おかしい。狼狽え方がおかしい。普通の患者様じゃない。まるで、本当に、魔法が無いことに驚いているみたいだ。
「し、失礼ですが…幾つか質問させてください!」
「も、もちろんどうぞ?」
勢いに飲まれ、ついOKしてしまった。
「まず、ここはどこですか?国名を教えてください」
「日本です」
「次です…国王様にお会いすることはできますか?」
「まず王様がいません。天皇さんはいるけど、まず会えませんね」
「つ、次です…領主様にはお会い出来ますか?」
「領主…?いつの時代の人ですか貴方」
「…最後です。本当に魔法が無いんですか?」
「無いですね。あるとしたら、ゲームとか本の中だけです。何言ってるんです?」
「うぅぅ…!」
突然泣き出した。いや、突然ではないか。だんだん泣きそうになってたし。
「ま、まあ、お腹空いたでしょ?ご飯にしましょう。話はその合間に聞きますよ。ハンバーグと唐揚げどっちがいいですか?」
「…はんばぁぐ…からあげ…?」
これも通じないの!?いやホントに何者なの!?
「えっと、牛とか豚の肉をこねて焼いたものと、鶏の肉を揚げたもの。どちらが良いですか?」
「焼いたものがいいです。よろしくお願いします…」
結構図々しいな。…唐揚げ食べたかったからいいけど。
箸は絶対に使えないだろうということで、ナイフとフォークを箱から出して、キチンと洗って出してあげた。私は割り箸。
「で、えーと、とりあえず名前だけ教えてもらえる?私は有岡瑞希。そっち風に言うと、ミズキ・アリオカかな?」
「ミズキさんですね。私は、マルセリア・ヴァン・メレドです。この度は、本当にありがとうございます。この、はんばあぐ?も、大変美味しいです」
おお、生のミドルネームだ。まあ、この国の人じゃないというのは分かりきってたからね。そこまで驚かない。
「で、聞かせてもらえる?なんで泣いてたの?マルセリアさんは、どこから来たの?」
そう聞くと、マルセリアさんは顔を真っ赤にした。
「泣いたのは、忘れてください。…実は、私はこの世界のものでは無いです。私は、魔法が存在する世界の、アルマと言う、精霊が住む国で生まれ育った者です。つまるところ、私は精霊です。侵略されて、お父様が、邸の立入禁止としていた部屋に私を入れて、気づいたらこの世界に来ていました」
本当に大した設定だ。ゲームのストーリーとか考えるのに向いてるかもしれない。
「えっと、信じて貰えませんよね…どうしましょう…」
「魔法。魔法、見せて」
これが一番手っ取り早いだろう。魔力が回復したという言質は取れている。後は、ヘタクソで使えないとかそういう言い訳かな?
「それならお安い御用です。ただ、風魔法なので、外に出ないことにはダメですね。ですから、はんばあぐが冷めてしまうので、食べ終わり次第お見せいたします」
「あ、そうなの」
食い意地はってるな。まあ、私も食べないとダメだし、丁度いいや。
外に出た。雨は、先程よりも勢いを増しているように思われる。
「それでは、雨雲を飛ばして晴れ間を出しますね…」
雰囲気が変わった。霊感とか全くないけど、今はすごいオーラを感じる。
「風よ。ここに集いて、束となれ」
マルセリアさんがそう言った瞬間。彼女の手に緑色に可視化された風と思われるモノが玉になっていた。
「打ち上がりて雨雲を払え!」
ごうという音と強い風が起こった。
十秒もしないうちに晴れ間が見え、陽の光が差し込んできた。
「す、すごい…」
「信じて、いただけましたか?」
「あんなの見せられて信じない方がバカだと思うけど…」
本当に、まるで夢のようだ。
「嬉しいです。では、本当にお世話になりました。私はこの世界ではなく、元の世界に戻ります。この御恩、一生涯忘れません」
「待った。あの、マルセリアさん。帰り方分かるんですか?」
顔が凍りついた。取り繕って入るんだろうけど、残念ながら嘘を見抜くのは得意分野だ。信じられないかどうかは別にして。
「わ、わからないけど、探します!ヒントもありますし!」
「わからないなら、ここに住めばいいじゃないですか。拠点も必要でしょ?」
「えっ」
マルセリアさんの顔が一気に赤くなった。表情がコロコロ変わって面白い。あと可愛い。
「で、でも!沢山迷惑かけますよ、私」
「そんなこと分かってます。それに、私も迷惑かけると思います。お互い様でしょ?」
「ご家族の方にも!」
「あ、そのね。この前、行方不明になっちゃって。多分もう見つからないと思うんです」
今度は驚き、後はやらかした。っていう顔だ。いやホントに顔に出るな、この人。
「だから、マルセリアさんと一緒に居たいんですが、ダメですか?」
「ううん、ダメじゃないです!私も帰れない根無し草ですから、本当は助かります!今後も、よろしくお願いします、ミズキさん!」
「うん。よろしくね、リア」
今度はきょとんとしている。
「あの、リアとは?」
「マルセリアさんの渾名。嫌だった?」
ぎゅっと抱きしめられた。ちょっと苦しいけど、嫌いじゃない。
「いいえ、うれしいです!仲良くなれました!」
リアはその後も、素直な好意をぶつけてきた。そこまで言ってくれると、私も嬉しい。だから、これはサービスだ。リアの体を、そっと私に抱き寄せた。
今日から、二人暮らしが始まる。
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