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そのとき、茜は家にいた。

家の前で大樹と別れ、部屋に入って一目散にベッドに飛び込んだ。

「疲れたー!」

今日は両親が仕事で夜まで家に帰ってこないので、大声を出せる。すこしわくわくした。

「…って、あ!明日英語課題あるじゃん…」

ふと先週の先生の言葉を思い出し、ベッドから起き上がって机の上に乱雑に置かれたプリント類を探す。

「あれー?プリントじゃなかったっけ…あ、そうだ、問題集が宿題なんだった」

教科書が置かれている棚から問題集をとりだし、パラパラとめくってみる。どこが宿題の範囲だったか思い出せない。美穂のように手帳にメモをするような器用な真似を自分がしているとは思えない。

「どうしよっかなー…って美穂に聞けばいいんじゃん!冴えてる、あたし!」

すぐに、通学カバンと共にベッドに放り出されていた携帯のアプリを開き、美穂の名前を見つけ電話をする。静かな空間で呼び出し音だけが聞こえる。

「あーでも美穂よるところあるって言ってたから電話でれないかな…」

5回目のコールでもう切ろうと思っていたところで、プツと電話に出る音が聞こえた。

「あ、美穂?あたし、茜!」

『…』

向こうは沈黙だった。あれ?かけ間違えた?いやいや、美穂の名前からこの電話をかけてるんだから間違えるはずがない。

「あのー?美穂?じゃない?」

頭の中も言っていることもクエスチョンマークだらけになる。

謝ってもう一度かけなおすべきかと思案していると、やっと向こうから声がした。

『はい』

「!、美穂?いま、大丈夫?」

『え、ええ、大丈夫だわよ』

茜の頭にまたクエスチョンマークが浮かんだ。美穂のしゃべり方っぽくない。確かに美穂は丁寧な話し方の時がよくあるが、こんなマダムみたいなしゃべり方じゃないような…

「ほんとに美穂?だれか違う人じゃなくて?」

本当に違う人だったらかなり失礼な言い方だが、茜は想定外のことにそこまで気が回らなかった。

『ええ、もちろん、美穂よ。なにかあったの、茜?』

とたんに美穂っぽいしゃべり方になった。さっきのは聞き間違いだろうか。…ま、いいか!

「あ、あのね!明日英語の課題の提出じゃん?テキストの何ページが範囲だったか教えてほしくて」

『ああ、ちょっとまって、たしか…』

電話の向こうで荷物をあさるような音が聞こえる。手帳を探しているようだ。

『ああ、えっとね、テキストの50ページから60ページまで、ね』

「了解!ありがとう~結構多いね…徹夜確定だわ」

美穂のおさえめな笑い声がする。いつもと同じ感じだ。

『無理しないでね?…あ、ごめん、もう電話切らなきゃ。』

「あ、ごめんね、ありがとう、美穂!じゃあまたね!」

『ええ、また

電話が切れる音がする。携帯をもう一度ベッドに放り出し、机の前の椅子に座った。

「よーし、明日までに終わらせ…あれ…?そういえば、明日休みじゃん。ってことは提出は来週の月曜日か…やった、今日徹夜しなくて済む!」

それが分かったとたん問題集をもう一度棚に戻し、再びベッドに戻った。

「あーよかった………」

と、先ほどの美穂との会話を思い出した。

「そういえば美穂も『また明日』って言ってたよな…めずらし、美穂が間違えるなんて」

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