銃 殺 学 園

ちびまるフォイ

紙とペンと、銃がある学級

ここは1クラスだけの底辺高校。

事態を重く見た校長は新しい教育方針を打ち出した。


「みなさん、ここに銃があります。

 これから期末テストごとに成績トップの人には

 この銃でクラスの1人を殺す権利を与えます」


へらへら笑っていた生徒も、校長が足元の床をぶち抜いてからは黙った。


「2人以上の成績トップがいる場合は免除とします。

 死にたくなければ成績トップになってください。

 最初の期末テストは、夏休み明けの期末テスト……2週間後です」


その日を境にみんなの目の色が変わった。

死に物狂いで教科書を頭に叩き込み、公式を暗記し、歴史を覚える。


最初の期末テストで成績トップは、

クラスでも一番がり勉の生徒で通称・ガリガリ君だった。


「よくやった。勉(つとむ)くん。さぁ、好きな人を殺したまえ」


「よ、よ、よ、よくも今までいじめてくれたな……!!」


生徒は銃を構えてクラスの一人に構えた。


「ち、ちげぇよ! つか、俺だけじゃなかったろ!?

 からかっただけじゃねぇか! 殺すほどのことじゃないだろ!?」


「お前にとっては殺すほどのことじゃなくても……。

 ボクがどんなにお前を殺したいと思っていたかわかってるのか……!」


「だからあれはほんの遊びで――」



バァン!!!



生徒がひとり転校扱いとして処理された。


「次の期末テストまで時間もありません。

 みなさん、死にたくなければ必死に勉強していい大学に入りましょう」


もう期末テストによくある"勉強会"なんかも行われない。

みんな命をかけて、生きるにはどうでもいい情報を頭に叩き込む。


次の期末テスト。

トップを取ったのは……。



「すごいじゃないか、勉くん。2連覇とはね」


「当然じゃないですか。ボクはこいつらザコとは違うんです。

 毎日頭の悪い事しかしてなかったクズどもを粛清する側なんです」


「さぁ、好きな相手を殺していい。弾は十分に入っている」


生徒は銃を持つと女性徒ひとりに構えた。


「さ、冴木さん」


「なんで!? 私なにもやってないよ!?」


「そうじゃない。ボクと付き合って……いや。

 ボクと付き合うんだ。断ればこの場で殺す」


「そ、そんな……」


「早くしろ。ボクは待つのが嫌いなんだ」


クラスのマドンナ冴木さん。

美人で気立てもよく男女ともに好かれる人気者だった。


「……い」


「聞こえない。もっとこびるように言え」


「はい! お願いします! 私を勉くんの彼女にしてください!!」


「ようし、いいだろう」


バァン!


生徒は近くにいただけの無関係な生徒を撃った。

また1人が転校扱いとして処理された。


「では次の期末テストを楽しみにしよう」



第3回の期末テストが行われた。


銃を握ったのは、ここに来てはじめての女性徒だった。


「冴木さん、頑張ったね。前回からぐんと成績が伸びたじゃないか。

 さぁ銃を受け取って」


冴木さんは涙を流しながら銃を構えた。

照準の先は彼氏に向けられていた。


「な、なにを!? さ、冴木さん!?」


「どんな気持ち……? 銃を突きつけられて、彼女にさせられて。

 きっと今なら私がどんな気持ちで過ごしてきたかわかるでしょ?」


「君だって、まんざらじゃなかったろ!?」


「ふざけないで!! あんたの成績を落とすために必死だった!

 毎日遊びにさそって、そのあとで必死に勉強したのよ!


 あんたの彼女なんてもう嫌!!」


「待っ――」



バァン!!



また1人が転校扱いとして処理された。

冴木さんは撃ち終わった後も顔をふせて涙をこぼしていた。


「みんな……もう辞めよう……こんなのおかしいよ……。

 みんなで協力すれば誰も死なない方法だってあるよ……。

 どうしてみんな自分だけのために頑張るの……」


「では次の期末テストまで頑張りましょう」


校長が去った後も教室は静けさに包まれていた。

そして、ここからクラスに連合ができた。



「次の期末テストは……トップが2人か。

 これでは銃は渡せないな。今回はナシ」


「今度のテストもトップが2人。今回もナシか」



「「「 やったーー!! 」」」


殺伐としていた教室の空気もだんだんとやわかくなっていった。


冴木さんが銃を握ったあの日。

全員で話し合ってクラスで特に成績のいい2人が代表として満点を取る。

ほかのみんなは2人の成績を上げるためにフォローする。


「やったねみんな! これを学期末試験まで続ければ誰も死ななくて済むよ!」


「俺たちは双子」

「どんなときも同じ」


「テストの点数も」

「どんなときも同じ」


平穏な学生生活が続いた。




「今回の期末テストのトップは……君だね、達也くん」


「えっ……」


平穏はいつまでも続かなかった。

銃をにぎったのは双子の兄。


「どうしちゃったんだよ!?」

「なんで! 同じ点数じゃなかったの!?」

「みんなで勉強教えたよね!?」


クラスメイトから双子の弟はバッシングされた。


「使えねぇな!! お前もう死ねよ!!」


その一言で、兄の目の色が変わった。

銃の照準はその男に向けられた。


「弟を悪く言ったな?」


「ちがう! 今のは勢いで……」


「兄ちゃん、もういいよ!」


「俺たちはどんな気持ちで勉強していたか……。

 クラス全員の命をしょって満点以外は許されないプレッシャー……。

 そのくせ、1度でもミスったら今度は責める? 無責任すぎるだろ」


「兄ちゃん! 殺しちゃだめだ!

 ここで誰か殺したら次は兄ちゃんが標的にされちゃうよ!」


「和也。お前はやさしいな。

 俺はもうこのクラスに嫌気がさしたよ」


「兄ちゃん……?」


「俺はもう弟にもこんなプレッシャーを与えたくない。

 だから、お前ら全員に命の重圧を味わせてやる。ざまあみろ」



バァン!!



男子生徒は自分自身の眉間を撃ち抜いた。

1人が転校扱いとして静かに処理された。


「では次の期末テストまで……」


双子の兄が死亡したことでクラスの連合は崩壊。

ふたたび殺されたくない恐怖からの受験戦争がはじまった。



 ・

 ・

 ・


学期末試験が終わると、生徒数ははじめの半分になっていたが

最後の方のテストは満点者が続出したので銃殺は免除された。


校長室は未来への明るい希望で満ちていた。


「いやぁ、底辺ゴリラと呼ばれていたうちの学校も

 今回の模試で全国1位を輩出できるほどの大成長とはね!

 これでみんないい大学に入ればわが校の名前も売れて入学者続出!」


「うちも人気進学校の仲間入りですね、校長!」


「いやぁ、気が早いですよ教頭」



「「 ワハハハハハ! 」」


そこに受験速報が入って来た。


「さてさて、わが校の生徒はどんな名門大学に名を連ねてるかな……?」


校長はニヤニヤしながら合格者リストを読み上げた。

けれど、その顔はどんどん険しくなっていく。


「君! どういうことかね!!

 あれだけ優秀な成績を収めたわが校の生徒が

 誰ひとりとして名門大学に入っていないじゃないか!!」


「はぁ……それなんですが……」


速報を持って来た先生は1枚の紙を差し出した。

そこには生徒の合格先が書かれていた。



「銃殺授業によるストレス耐性と、

 磨かれた銃の腕が見込まれて……みんな軍に引き抜かれました」





銃殺学級の生徒たちは今でも戦地の最前線で戦っている。

けれど、彼らの高校名が進学校として名をはせることはなかった。

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