第16話 僕の体の悪魔はいつの間にか消えていた

1月16日 おそらく最後になるであろう正月を越え、僕は病院の窓から空を見た。雲ひとつない晴天。なんだか清々しい気分だ。昨年の年末から、僕の体は悪化し、手術をしなければ、あと寿命は2か月というようになった。手術はかなりの危険を伴うため、もしうまくいかなかったら僕は死ぬ。ましてや、手術中に死ぬ可能性もある。この瞬間命を終えるか、あと2か月静かに命を終えるか。僕はそういうふうに捉えていた。成功するなんて考えやしなかった。死ぬのはもちろん怖い、だけど向こうで彼女に会える、そう思うとなんだか怖さも小さくなっていった。だから、僕は手術はしない。

 

 今まで振り返ってみると、僕の本当の人生は、彼女に出会ってからだと思う。あの1年にも満たない日々。彼女やゆうと出会い、たくさん笑って、泣いて、悩んで、抱き合って、、、共に過ごした何気ない日々が、僕の宝物になった。あのとき、僕に命を分けてくれたあなた。あなたのおかげで最後にいい人生を送れました。ありがとう。

 

そうして最後の日記を書き終える。遺書はもう書いているのでなんだかホッとした気分になった。首に手を当て、胸の鼓動を聞く。まだ生きていること確認した後、父がくれたお酒を少し飲む。ふっと何かが抜けた感じがした。

 静かな病室の空気に浸っていると、突然ガチャっと音がする。そこには、冬なのに汗をかき、息が上がっているゆうがいた。彼とはあの日以来会っていなかった。

「ゆ、ゆう、、、、どうしたの。最後の見舞い?」

無理やり作った苦笑いを彼は見なかった。

「はぁ、はぁ、いや違う。俺は見舞いに来たんじゃねぇ。お前に、まさに大事な物を届けに来た。」

そういうと、ごわっとしたジャンバーから、封筒を取り出す。

「これは、、、、?」

「美穂の遺書だ。机の引き出しの奥にあったらしい。」

手に取る。これは確かに彼女の字だった。


    大沢将大様へ


 この手紙を読んでいるということは私はもうこの世にはいないんだろうなぁ。突然ですがお元気ですか?(笑)たぶん私も元気だと思います。こうして、ゆうから君に、私の思いが届けられたこと、本当に感謝します。

 まず、私は君に病気のことを隠していました。ごめんなさい。許して。君とは楽しい時間を過ごしたかったから、、、。


 謝ったことなので、大沢将大君。君との出会いを話そうと思います。君は私に会ったのは、高校が初めてだと思っています。ふふふ、残念です。本当は中学校から出会っています。びっくりした?

 君は私と同じ美崎西中出身だよね。最初に会った時君は嘘をつきました。けしからん。


僕は思わず、ゆうの顔を見た。ゆうは苦笑いをした。


 毎日ゆうと君と私で食べたお弁当。とてもおいしかったです。また、食べたい なぁ。

 

 誕生日にゆうと君がプレゼントをくれた。とてもうれしかった。ゆうはいつものようにバナナだった。ふざけてやがる。ふふふっ嘘だよ。君は千日草のネックレス。君らしいね。千日草は、私も好きでそれを取りに旅行に行ったことがあります。正直に言うと、この千日草をもらった瞬間、私は君に2度目の何かを感じました。たくさんある花のサンプルから、これを選んでくれたんだもん。

 それから、私は君に質問した。たくさんたくさん、君を知りたい。君と仲良くなりたい。君はいつでも私の思う以上の答えをしてくれる。やっぱり私が目にかけた人だ。

 

そのあと君とずっと横で見ていたくて、席替えでは先生に掛け合いました。先生は笑顔でいいよって了承してくれました。流石に気づいたかな?

 

 ああどうしよう、やっぱり君が好き。最近君を見ると緊張してる。この気持ち伝えようかな。でも、私はいなくなる存在なのに。

 どうしようか迷ったのでゆうに相談しました。そしたら、ゆうは夏祭り2人で行ってこいって言ってくれました。やっぱもののわかる男です。


 2時間もかけておめかし。浴衣もわざわざ借りました。君はどう思うかな。届くといいな。予定より少し遅れました。悪いのは私ですが、待っていなかったって行って欲しかったです。

 お祭りに行ったらやりたいことがありました。お祭り3番勝負。

 ふふっ、恋人みたいだね。勝負は見事に、圧倒的に?(異論は認めません)私の勝利。わたあめをおごらせました。いい気分。

 もうすぐ花火がはじまるので、2人きりの場所でみることにしました。

 君はなんにも褒めてくれない、興味がないのかな。腹が立ったので、直接聞いてやりました。なのに、君は無言で何かを考えてる。どーせなら全部言ってやる。

 (私は先にいなくなるので彼女にはなれない。でも、本当は君が好き。)

本当は、君と一緒にずっと生きていたい。本当は、、、、わかってるのに、辛いなあ、心と頭は違うんだよね。心で思っていないことを言っちゃったから、なんだか苦しくて、無意識に、体が、

 

 キスをしました。ごめんなさい。急にやっちゃって。でも、止められませんでした。本当は、死にたくなんかないのに、本当は、、、、

キスをした後自分がしたことに気が付いて、恥ずかしくなって、逃げてしまいました。あの時ちゃんと話せばよかったのかなぁ。


 あれから、君を見ると恥ずかしくなっちゃって、うまく話せなくなりました。どうしよう、もう体がもたないのに。このままだったら、後悔する。死ぬに死ねない。


 10月手前、もう入院することになりました。それなのに君とはあれから1か月、うまく話せないまま。本当に終わりそう、感謝しないまま終わりそう。

 だから思い切って最後のお願いをゆうに頼みました。

   (明日の夜6時。彼を病院に連れてきて、、、って。)

すると、君はやってきました。午後4時30分に。なんで?、ちょっと早くない?と思いました。良かった早めに化粧してもらってて。心の準備ができてなかったので、3分時間をもらいました。

 

 あの日君は言ってくれました。特別な人、大切な人、そして、、君の初恋の人だって、、、、。天にも昇る気持ちです。このときは自分が病気だってこと忘れていました。ああ嬉しい。ああ幸せ。君とあえて、君と過ごして、君を好きになって、、、、、。もう思い過すことは無い。これで死ねると思いました。


 大沢将大君、たくさんの思い出をありがとう。夏祭り行けなくてごめんね。いっぱい蹴ったりしてごめんね。私は、君が大好きです。ありがとう、さよなら。


涙を拭く。また、涙があふれる。息苦しい。ああ、君はこんな風に、、、、、、、止まらない。僕は、、、君を、、、、、、。こぼれそうな思いを鼻水と一緒に飲み込む。

 そのあと、ティッシュで顔を拭くとゆうは言った。

「手紙の裏に、まだ続きがある。」

裏を見ると、封筒の中に紙がテープでひっつけられていた。


         追伸 

 

 君に伝えようか迷いましたが、私がいなくなって君は私に会いに行くとか言っていそうなので伝えます。

 去年の春、君は、肝臓の病気で命を終えようとしていました。知っていますよ。君は叫んでいた。(あと、一年命がほしいって。)

その声に、私は驚きました。すぐに、お医者さんに聞きました。すると、君は同い年で、しかも血液型は同じ。どうせあと少しの命。助けられるなら助けたい。誰かと一緒に戦いたい。私が死んでも、誰かの中で生き続けたい。



  こうして私は、私の肝臓の一部を命を君にあげました。



 びっくりした?したよね。

 手術は無事成功。良かった。

 私は、君と最期を過ごしたい、そう思いました。そうでなくても君と話してみたかった。すると、学校もクラスも同じ。この時だけは、私の執念が実を結びました。

 君と過ごせたこの日々は、運命でも奇跡でもなくて、私と君が切り開いて生まれたもの。これからの人生も運命ではなく、自分の手で切り開いて作るのです。運命なんかに負けてはいけません。


 私は、まだ君の中にいます。確かに生きています。君の中の住人です。


驚きで開いていた口が乾く。息が途切れる。目をこすってはっきりと手紙を見る。何度見ても彼女の字だった。


 だから、君はもっともっと生きて私が見れなかったこと、できなかったことを私に見せてください。生きることをあきらめないでください。


 君と私はパーティーの仲間です。まだまだ冒険を続けましょう。

                                美穂


こ、これは、、、、、君は、僕の、、、、生きている、、あの人は、僕に命をくれたあなたは、、、君だったの、、、、、、、、、、、、、君は全部知っていたんだね、、、、。

 じゃあ、この命は、、今まで恨んでいたこの悪魔は、僕の体の悪魔はいつの間にか消えていた。これは悪魔じゃなかった、君だったんだね。


手紙を読み終える、目をつむり、しっかり開く。心臓に胸を当てる。鼓動を感じる。そして、僕の中にいる君を撫でる。ああ、何だろうこの気持ちは。命はもう長くないのに。死ぬかもしれないのに。昨日までこんなに怖かったのに。運命を嫌ったのに。悪魔を恨んでいたのに。まだ君がいる。大きく息を吸って口を開く。


「ゆう、僕は手術を受けるよ。もう少し、美穂と生きるよ。」


窓の外から、さわやかな風が入ってきた。太陽の光をしっかり浴びた、温かい風だった。






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僕の体の悪魔はいつの間にか消えていた かぼつ @kabotsu

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