花火――アリガトウとサヨナラの夜に――
@tabizo
こうべ海上花火大会
明日の夜、花火大会がある。
もともと花火好きだった僕は余裕があれば県外の花火を時間をかけて見に行くことも厭わない。相棒と どこだって一緒に出掛けて行って、しんどくてもいい花火に出会えるなら幸わせだった。
神戸の花火は海上花火のため、観覧場所は港に面した公園かいくつかある突堤になる。
昨年は穴場と予想して行った場所が意外に混んでいたこと、何よりも直前にとまっていた船が動き出し視界を船によって遮られるという事態が起き、惨敗だった。
今年はそのリベンジをするためにいろいろ下調べをして楽しみに待っていた。
特に今回は開港150年ということもあり、打ち上げ数も増やすようなので期待値も高まっていた。
各花火が見えるポイントには有料観覧席と自由観覧席が設けられている。
僕が行った他の花火大会の場合、有料席は指定席になっており席が決まっている。
だから直前に行っても安心感はあるのだけれども、今回の花火は有料席も指定ではなく自由席。ある程度いい場所を取りたければ早くに行って席取りに行かないといけないし、無料席が混在しているエリアの場合、あまり遅く行くと有料席にたどり着かない…という事態もあるとも聞く。有料席の自由席には結構課題が多い。
(お金払って炎天下場所取りのために早くから行って待たないとあかんて。そんなん意味ないじゃん)とか思ったりもするが、開催側の事情なんだから今更しかたない。
同じ早くに行くなら無料席でもええかもなぁ。しおさい公園あたりの芝生の上でのんびりみるのもいいかも。とか、いろいろ考えを巡らすが、ポーアイって“ヒアリ(火蟻)”が見つかった場所だから大丈夫?とか言う意見もある。でも僕はそんなん気にしない、外に行く限りはマムシやヤマカガシなどの毒蛇やスズメバチなど危険な虫に遭遇する可能性はゼロではない。そんなん言ってたらどこにも行かれへん、というのが僕の考えだ。何でも自分で見て経験しなければ納得できない僕は、基本的に人の噂話で判断することは少ない。
でも最終的に僕は今年の花火に行くことを諦めた。人が多いとか、暑いとか、条件が云々ということではない。何よりも僕のこの体が耐えられなくなってきたからだ。無理な時はすっぱり諦める。僕も今年またひとつ歳を取り、我慢することを覚えたということか。
とはいえ、まだ心のふんぎりがつかない僕に相棒が声をかけてきた。
「残念やけどしかたないな。」
僕は黙っていた。相棒は悲しそうな顔で僕を手に取る。
「片付かないから早くその古いTシャツ捨ててよ。破れかけてるし、みっともないから」
相棒の奥さんが急かすように言った。
「このTシャツはいつも花火の時に着て行ったやつやから愛着があってな・・・」
僕を眺めながら相棒が応える。
しばらくの沈黙の後、相棒は僕をごみ袋の中にそっと入れた。
「今までありがとう」の言葉とともにー
完
花火――アリガトウとサヨナラの夜に―― @tabizo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます