Iちゃん

笛吹ヒサコ

Iちゃん

 わたしが通っていた小学校は、通っていた当時ですら開校100週年を目前にしていた。


 もちろん、開校当初の木造校舎などではなく、鉄筋コンクリートの三階建の校舎だ。


 古い小学校だったことと、周囲が畑に囲まれているような素朴な土地柄だったこともあってか、まことしやかに怖い話が語られるのは、必然だったと思う。


 たとえば、北館の日当たりの悪い資料室の青い目の人形の写真にまつわる話とか――。


 たとえば、ご神木のように大切にされている楠の大木の地下にいたずらっ子が閉じ込められている話とか――。


 子どもは怖い話が好きだから、先生たちだってネタにしていたのかもしれない。

 少なくとも、楠の木の話は教頭先生の創作だとみんな知っていた。


 さて、1学年3クラス100人前後の規模の小学校だったわけだけど、素朴な土地柄――つまり、市内でも田畑の多い土地柄だったためか、毎年転校していく児童が1、2人必ずいたけど、転入してくる児童はほとんどいない。


 だから、中学年になる頃には同じ学年の児童で知らない子はいなくなるわけだ。


 Iちゃんとは、別に親しかったわけじゃない。

 ただ、ちょっと不思議ちゃんで知られていただけだと思う。

 ただでさえ、閉鎖的と他の学区から言われているのだから、七夕の短冊に宗教上の理由でお願い事を書けないなどと言ったら、注目を集めないわけがない。

 他にも、不思議な言動の多い女の子だった。


 たとえば、先程の資料室の青い目の人形の写真の前で、ブツブツつぶやいて頭を下げたり――。


 たとえば、校庭の砂山のトンネルの中に何かいると言って、近寄らなかったり――。


 わたしは、彼女が目立ちたがり屋だと思ってた。他のクラスメートも、みんなの気を引こうって必死になってるって、影でよく笑っていたのも知っている。

 多分、そうだったんだと思いたい。


 別に、Iちゃんはいじめられることもなかったし、いつの間にか児童の中に馴染んでいった。あいかわらず、不思議な言動は多かったけど。









 そんな目立ちたがり屋の不思議なIちゃん。


 わたしは、彼女の存在を高学年になるまで知らなかった。

 まるで、いつの間にか同級生の中にいたんだ。


 ちゃんと1年生の文集にも名前が載っているのもかかわらず、ずっと彼女の存在を知らなかった。


 そんなこと、あり得るだろうか。

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